この災害は、橋桁の送り出し作業中、橋桁が後退し、手延機を支える盛替えジャッキのヘッド部分のボルトが折れ、ヘッドがジャッキ上の受梁ごと橋脚下に落下したため発生した災害である。
この工事はA県B土木i事務所の発注で、県道のC川に架かるD橋の橋梁整備工事として、単純H鋼桁2径間連続曲線箱桁の架設工事を行うもので、橋長117m 最大支間56.35m 箱桁の曲線は上流側にR100mである。
E共同企業体が請け負いF社が下請け負いして手延機を用いた送り出し工法で、手延機、連結構、箱桁の順で接続し、作業ヤードからNo1橋脚(以下橋脚という)の先まで手延機を延ばし、作業ヤードで箱桁を接続して水平ジャッキで送り出しながら順次箱桁を接続していく工法で、支点は橋脚と作業ヤードの台車の2点であった。
送りヤードと橋脚との間にはワイヤーブリッジが設けられ通路として使用されていた。橋脚上の状況は、H鋼を並べて組んだ架台が組み立てられ、その上に送りジャッキ2基と盛替えジャッキ2基からなる送り装置が1セット据え付けられ、架台にボルトで固定されており、送りジャッキ、盛替えジャッキのヘッドにはそれぞれH鋼の受梁(高さ0.9m、長さ12m、重量7t)が載せられ、ボルトで止められてていた。
送りジャッキの受梁フランジは1.48%の上がり勾配になっていた。
送りヤードには勾配のない軌条が4本敷かれ、その上に2台の台車があり、台車の送り方向側に水平ジャッキ2基が設置され、その先端にはそれぞれレールクランプが取り付けてあり、台車上には橋脚上のジャッキと同様に受梁で箱桁(長さ2.6m、重量80t)を支えていた。
橋脚上の送りジャッキ、盛替えジャッキ、送りヤードの水平ジャッキは、それぞれ別のポンプユニットで操作するものであるが、相互の作動は電気的に連動しており、それぞれのスタートボタンを同時に押していなければ作動しない構造になっていた。
手延機はトラス構造で、長さ43m、重量70t、連結構は長さ3m、重量12tで「く」の字形に165度の角度がついたものであった。箱型橋桁の送り出し作業手順は、
1.送りジャッキのアームをアップさせて手延機を支え、盛替えジャッキをダウンさせ、水平ジャッキのアームを縮めて台車に載せた手延機と箱桁を約0.9mほど送り出したところで送り出しを止める。
2.盛替えジャッキをアップして手延機を支える。
3.送りジャッキを少しダウンさせて約0.9m後退させる。
4.水平ジャッキはレールクランプでレールを掴んでアームを縮めることにより台車を前進させるもので、送りジャッキと盛替えジャッキを入れ替えている間に水平ジャッキのアームを伸ばす作業を行う。
これらの手順を繰り返して送り出し作業を行なっていた。
災害発生当日午前8時に現場敷地内でE共同企業体の現場所長から橋桁の送り出し作業を約12m行う予定の作業内容の説明、人員配置、安全上の注意事項について指示がなされ、午前9時から作業を開始した。
F社では橋脚上作業に15名、後方台車付近(送り出しヤード)の作業にF社の下請けであるG社6名、ジャッキ操作にH社の2名、橋脚上と後方台車付近で各作業の状況を確認しながらそれぞれのジャッキのポンプユニットの操作者に無線で操作を指示するために、I社2名が配置された。
現場の統括管理は元請D社の現場責任者があたり、各持ち場ではそれぞれの責任者が作業員への指示を行っていた。
送り出しヤードでは3回目の送り出し作業のときまでは台車の車止めをしていたが、台車はそれまで動かなかったので、4回目のときは車止めは使用しなかった。
4回目の送り出しで、盛替えジャッキに手延機を載せ、送り出しジャッキをダウンさせた瞬間、台車ごと橋桁が後退し水平力が作用したため、橋脚上で手延機を支えていた盛替えジャッキヘッドの支点のボルトが折れ、受梁がジャッキのヘッドごと約13m落下した。手延機は1m後退したが送りジャッキの受梁で支えられて落下しないで止まった。
受梁が落下したことにより、送り出しヤードと橋脚に架けられていたワイヤーブリッジと橋脚周辺の足場が破損し、作業員3名が橋脚の下に墜落し被災した。
災害発生時、橋脚上では手延機と受梁の間に板を噛ませ、高さを調整する作業及び送り装置の作動状況の監視を行っていた。
送りヤードでは、台車が前方へ逸走するのを防止するために台車に取り付けたワイヤーを台車の前進に合わせて緩めるためのチルホール(2台)の操作及び後方への逸走防止のため台車の車輪に木製の車止め(5cm角、長さ30cm)をする作業を行っていた。
災害発生時、チルホール(5分ワイヤー)はレールに水平な状態で、台車の後方に張力が掛かった状態であった。
また、本来であれば送り出し作業中レールクランプはレールを掴んでいるが、3回目の送り出しの際にレールの継ぎ目を越える必要がありレールを掴んだ状態ではレールペイシに引掛かり継ぎ目を越えられなかったため一度開放し、レールの掴み部分のチャックを外してレールの継ぎ目の乗り越えを行った。このときのチャックの取付け状態が悪かったので、レールクランプを開放し、チャックの修正を行った直後であり、レールクランプは開放のままの状態であった。
なお、盛替えジャッキは水平力に弱い構造であり、送り出し装置の設置されていた橋脚は、送り出し作業を行うたびに前後に揺れていた。