この災害は、8階建てのビル建設工事において、7階の床版にコンクリート打設作業中発生したものである。
 この工事は、大規模なホールを有する地下2階、地上8階、搭屋2階、延床面積11,100uの鉄骨鉄筋コンクリート造の建築工事で、建物全体の鉄骨組み立て工事は完了してスラブのコンクリート打設作業に入っていた。
 災害発生の当日は、ホールの天井部分になる7階の床版部分のコンクリート打設作業を行っており、災害発生箇所ではコンクリート打設関連工事業者4社の10名の労働者が作業を行っていた。
 床版コンクリート打設作業は、鉄板とトラス組した鉄筋を溶接して構成された「フェローデッキ」と呼ばれる床用の型枠併用の組み立て鉄筋材を鉄骨梁上に架設し、鉄板上のトラス組した鉄筋の中にコンクリートを流し込む工法で行われていた。
 災害発生当日、この現場では朝から建物ホールの天井部分に相当する7階の床版のコンクリート打設作業を10名で行っていた。
 午後も同様の作業を続けていて、打設したコンクリートを均す作業を行っていたときに、載っていたフェローデッキ8枚のうちの6枚(崩落個所の広さ:約3.5m×3m)が鉄骨梁から抜け落ち、フェローデッキの上で作業中の左官工4名が、フェローデッキや打設したばかりのコンクリートとともに18m下の3階(デッキは1階)まで墜落した。
 災害発生後、直ちに、3階部分のネットを切断して被災者を救出し、救急車により病院に運んだが、1名が死亡し、3名が重傷を負った。
 フェローデッキは、トラス鉄筋付き捨て型枠として製作されたもので、縦横が約0.6m×3mの長方形をした亜鉛メッキ鉄板に、高さ約15cmのトラス組された鉄筋を長手方向に4列に並べて、溶接により取り付けたものである。鉄筋トラスは、上弦材および下弦材と呼ばれる上下2本の主筋(直径10mm)とその間をつなぐラチス材(直径6mm)を溶接で取り付け、これに吊材と呼ばれる鉄線(直径4mm)を架けて鉄板と溶接している。
 さらに、主筋である上下の弦材の材端部には、直棒と呼ばれるトラス筋を鉄骨梁等の支持点で支えるための鉄筋が主筋に溶接されている。
 このフェローデッキの取り付け方法は、デッキの大きさが敷きこむ箇所の鉄骨梁の内法より鉄板が30mm架かるように製作されており、これを仮敷きしたあとさらにずれ止めのためにトラス筋受け用に主筋に垂直に溶接してある直棒と鉄骨梁とを点溶接することになっている。
 災害現場のフェローデッキには、その主筋と直交する形で配力筋(直径10mm)が約20cmごとに並べられ、また、これらの配力筋は約15cmの間隔で4列に並んでいるトラス筋の上端の主筋の1本に、ずれ止めのため鉄線で結束されている。
 また、フェローデッキの施工要領書等では、施工するスラブのスパンに応じて、1本から3本の配力筋を施工時のずれ止めのため、タイバー筋としてトラス筋の上端主筋と溶接で取り付けるように記されているが、災害発生箇所を含めてこの現場では溶接止めは行われていなかった。
 なお、打設したコンクリートのスラブ厚は200mmで、災害発生直後の状況等から一部を除いてコンクリートは打設された状態であったと思われる。
 また、打設されたコンクリートの荷重は1m2あたり480kgで、フェローデッキの自重は、1m2あたり25kgであった。