この災害は、送電線の鉄塔建設工事において、鉄塔の部材を台棒と呼ばれる装置で吊り上げていたときに発生したものである。
 この工事は、道路から約11m入った地点の山中で送電線の鉄塔を建設する工事であった。  仕事を請け負った会社は、仕事の一部を、鉄塔工事を専門に行う会社3社に下請させた。工期は、約5カ月間で、その間に鉄塔19基を建設するものであった。
 この工事では、元方事業者の現場代理人が統括安全衛生責任者となり、安全管理者、技術員の他3名の計6名が現場に常駐していた。一次下請の会社では、班長が安全衛生責任者となって、作業員8名の毎日の作業内容、作業方法、作業員の配置を決定するとともに、作業の進行管理、安全管理を行い、元方事業者にその結果を報告していた。
 この災害は、4基目の鉄塔の組み立て作業中に発生したものであるが、それまでは作業が順調に進んでいて、特に工期の遅れは生じていなかった。
 災害発生当日、下請会社の作業班9名は、午前7時10分頃現場に到着し、10分間程度休憩の後、TBM(ツール・ボックス・ミーティング)とKYK(危険予知活動)を現場の休憩所横で実施した。
 当日は、鉄塔用鉄骨部材を地上で地組みしてから、ドラグショベルで吊り上げ場所まで運搬し、部材の吊り上げ装置である台棒のワイヤロープを使って部材を吊り上げ、鉄塔上で組立てたのちボルトで固定する予定であった。
 班長は、TBMで当日の作業方法を説明したが、最初は全員で部材を地上で地組みすることを指示し、午前7時40分頃からこの作業に取りかかった。
この作業は約1時間で終了し、休憩の後、班長が改めてその後の作業及び人員配置を次のように指示した。
[1]ドラグショベルの運転:班長
[2]鉄塔上での部材の組立て:被災者も含む作業員4名
[3]地組み:2名
[4]ウインチ操作:1名
[5]地上での部材吊り上げのための玉掛:1名
 午前9時からこの配置で作業が始められた。鉄塔は、A脚、B脚、C脚、D脚の4脚が正方形状に配置されており、C脚には、台棒(長さ約18m)が取り付けられていたが、鉄塔上での作業を命じられた作業員4名は、災害発生直前には次の場所にいた。
 作業員a:C脚とB脚の間(ブレース上)
 作業員b:C脚とD脚の間(同上)
 作業員c:台棒の上(最上端から約5m下の箇所)
 被災者C:脚最上端
 鉄塔は、ポスト(L字型の主要部材)、ブレース(L字型の鉄材)、プレート(ブレースを固定する平板)及びステップボルト(人の昇降用ボルト)で構成されていた。
 災害が発生する直前、被災者は、他の作業員が台棒で吊り上げた部材を鉄塔の脚に取り付けやすい位置(台棒の後側)に移動させようとしていたのを見て、この作業を補助しようとして組立てた鉄塔の最上端から台棒上に乗り移り、他の作業員の近くまで台棒上を昇ろうとした。
 その時、自分の安全帯に装着していたキーロックロープが、鉄塔のステップボルトに引っかかったので、それを外そうと手で振りほどいたとき、キーロックロープの輪が掛けていた鉄塔の脚の最上端から抜け落ち、同時に被災者は身体のバランスを崩して地上約25mの箇所から部材の置かれている所に墜落した。墜落地点には、鉄塔用部材が置かれてあり、被災者はそれに座るような格好で墜落し、その後病院に移送されたが、急性呼吸器不全で死亡した。