この災害は、地下鉄工事現場に建設資材である鉄筋を搬入し、荷卸し作業中に発生したものであるが、その原因としては次のようなことが考えられる。
 災害の直接の原因は、開口部のある作業床の端での作業に際し、墜落防止措置がなされていなかったことであるが、その背景としては次のようなことがあげられる。
(1) 資材搬入場所が狭かったこと。
 工事現場が市街地の中心部にあり、資材搬入場所の広さを十分に確保できないため、搬入した資材の仮置場がなかったこと。
 すなわち、現場に到着した資材は、直ぐに地下の作業現場にまで搬入しておく必要があった。
 その場合、資材を運搬してきたトラックは、ボディの長さ、荷の長さ等にもよるが、資材搬入口に設けられた墜落防止用の養生枠にトラック最後部を密着させて停車しないとトラックの前部が公道にはみだして他の交通に支障を来たしてしまうという状況にあった。
 また、この現場では、到着した資材は、専用の橋型クレーンで地下に卸していたが、資材搬入口(開口部)の広さ及び橋型クレーンの揚程が不十分であり、この災害の場合のように鉄筋等長尺物の搬入にあたっては、開口部付近で2度目の玉掛け作業を行う必要があった。
 すなわち、トラック荷台上で荷の玉掛けをして、橋型クレーンにより一旦開口部のところまで水平移動し、そこで玉掛け作業をやり直して斜め吊りで開口部から地下へ吊り下ろしていた。
(2) 開口部の墜落防止措置が不十分であったこと。
 開口部には、鉄製の高さ97cmの養生枠が設置されていたので、地上面で行なう作業に対しては、開口部からの墜落防止の機能を果たしていたが、地上高が1.35mのトラック荷台では、荷台の端が開口部となっているのに全く墜落防止措置が内状況であった。
(3) 作業の指揮命令系統が不明確であったこと。
 この災害の原因となった荷卸し作業は、鉄筋工事を行なう2次下請負いの職長が作業指揮を行ない、3次下請負いの作業者と被災者が共同で作業を行っていたが、被災者が養生枠に右足をかけるなどの不安全行動をとったので、職長が注意したものの、指揮命令権がないため単なる注意にとどまった。
(4) 安全管理が不十分であったこと。
 被災者の所属する会社は、労働者を10名雇用しているが、仕事がある時のみ呼び出すという形態でもあり、社長には安全衛生管理についての責任意識が稀薄であった。したがって、安全衛生管理体制もなく、労働者に対する安全教育もなされていなかった。
 なお、2つの親会社の安全管理に関する指導・援助も重要であるが、運送単価、積載量、運転者の賃金単価、損害賠償等を主とした「輸送契約」による請負関係のみであった。
 また、この輸送契約によると、現場での荷積み、荷卸しの指揮は、親企業において行うことになっていた。
 さらに、この災害を詳細に分析すると、次のような要因が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) 養生枠の設計が適切でなかったこと。
(2) トラックの荷台からの墜落防止措置がなかったこと。
(3) 搬入資材、機材の仮置き場が十分でなかったこと。
(4) 公道に面した場所に搬入口を設けざるを得なかったこと。
(5) トラックの荷台上で危険な作業を行なう手順が適切でなかったこと。
〈不安全な行動〉
(1) 安全帯を使用していなかったこと。
(2) 開口部に近づいて作業を行ったこと。
(3) 墜落危険のあるトラックの荷台に乗ったこと。
〈人(Man)〉
(1) 作業者に危険感覚が欠如していたこと。
(2) 危険場所での作業についてリーダーがいなかったこと。
〈機械・設備(Machine)〉
(1) 開口部の墜落防止措置が不十分であったこと。
〈作業方法・環境(Media)〉
(1) 養生枠に足をかけて作業を行ったこと。
(2) 荷台上で墜落防止措置を行なわずに作業を行う方法を採ったこと。
〈管理(Management)〉
(1) 安全管理体制が整備されていなかったこと。
(2) 搬入に関する作業手順が定まっていなかったこと。
(3) 作業者に対する安全教育がなされていないこと。
(4) 作業者に対する監督不十分。