この災害は、接岸中の本船から製材の積み卸し作業に従事していた揚貨装置(本船に設置されたつり上げ荷重40トンのガントリークレーン)の運転者が、揚貨装置のつり具(スプレッダー)の状態及び作業現場である船倉内の状態、特に他の作業員の作業の状態を確認しないまま、スプレッダーを移動させたため、船倉内で玉掛けの準備作業中の被災者にスプレッダーを激突させたことによるものである。
その原因を見ると、
ア ガントリークレーンの運転室がクレーン巻き上げ装置の左舷側に設置されているため、つり具を船倉左舷に移動させた場合、運転席が側壁の外側にでるためスプレッダー及び船倉内の状態が運転者から見えない位置が生じること。
イ 揚貨装置運転者が、荷の状態が見えない位置にある荷をつり上げる作業を行うに当たり、同運転者が、合図者の合図を確認しないで運転を行ったこと
ウ 合図者が揚貨装置運転者から見えない位置で合図を行ったこと、及び合図者の合図が正しく運転者に伝わったことを確認しなかったこと
エ 玉掛けの準備作業を行っているところにスプレッダーを移動させたこと
による。
さらに、発生原因を詳細に検討すると次のような点が指摘できる。
〈不安全な状態〉
1 ガントリークレーンの構造上の問題として、巻き上げ装置が左舷側壁付近に横行した場合に運転席が側壁外にでるため、船倉内に運転席から見えない死角が生じること
2 当該揚貨装置(ガントリークレーン)の運転者と合図者(ハッチボースン)との間の合図の確認手順が不十分であること
3 スプレッダーの陰となり、ガントリークレーン運転者の位置からは合図者の合図を確認することが困難な状況にあったこと
また、ガントリークレーンの構造から見て、通常は、運転者から玉掛け作業場所が目視できることから、運転者は目視と合図を併用して作業を行っていたと推定され、合図者の合図を必ずしも確認しないで運転する場合があったのではないかと推測されること。
〈不安全な行動〉
1 揚貨装置のつり具(スプレッダー)が横揺れ状態にもかかわらず確認しないまま揚貨装置を移動させたこと
2 揚貨装置の運転者と揚貨装置合図者(ハッチボースン)との間の合図の確認手順が不十分のまま作業を行ったこと
〈人〉
1 揚貨装置の運転者が運転席から揚貨装置のつり具及び船倉内が見えないにもかかわらず、安全確認を怠ったこと
2 揚貨装置の運転者と揚貨装置合図者(ハッチボースン)との間の合図の確認が双方とも不十分なこと
〈機械・設備〉
1 揚貨装置の運転席から船倉内への死角が生じる構造となっていること
〈作業方法・環境〉
1 揚貨装置の運転者から合図者の合図が確認できる位置で、合図者が合図を行うことが原則であるが、それが困難なときを想定した対策がとられていない。
すなわち、揚貨装置の運転者と揚貨装置の合図者との合図の手段として、トランシーバーなど適切な連絡手段が準備されていないこと
〈管理〉
1 揚貨装置の運転者と合図者との連携についての手順及び揚貨装置のつり具の移動に際し、労働者をスプレッダーと接触するおそれのない箇所に退避させる等の規定が作業標準書に明記されていないこと
2 揚貨装置運転者、揚貨装置合図者、玉掛け作業者等の労働者に対する安全教育が不十分であること