この災害は、カラマツの伐倒木の集材作業において、重機を用いて引き上げた伐倒木の荷外しの作業のため、作業道で待機していた作業員のところへ、強風のために作業道脇の山側にあった生立木が倒れてきて、作業員に激突したものである。
 立木が倒れてきた原因などこの災害が発生した原因としては、次のようなことが考えられる。
1 当日この作業現場付近では、かなり強い風が吹いていて、倒れた立木にも強い風圧がかかっていたこと。
 当日の風については、地元の地方気象台の記録によると、災害発生時刻頃の同地域の最大風速は毎秒6メートルであり、また、1日の平均風速は毎秒3.3メートルとのことであった。
 このデータは、測定場所が災害発生場所から20キロメートル以上も離れているところのものなので、必ずしも実態をあらわしているとは言えない。
 そこで、災害発生現場から約13キロメートル離れたところにある変電所の建設工事現場での測定記録を見ると、最大風速は毎秒9.2メートル、平均風速は毎秒4.4メートルであった。
 これらのことから、当日のこの現場における風はかなり強く、山の地形、周辺の木々の伐倒状況などを考えると、倒れた立木に対する風圧は、さらに強かったものと考えられる。
2 災害が発生した3日前には、この立木に滑車を取り付けて、作業道の下方にあるカラマツの伐倒木を重機で牽引して引き上げていたために、この立木がかなり揺さ振られ、根元がかなり緩んでいた可能性があったこと。
 この滑車は、倒れた立木の根元から約6メートルの高さのところに取り付けられ、この滑車に集材索のワイヤロープ(径10ミリメートル)を通し、作業道の下方にある約40度の斜面から、カラマツの伐倒木(長さ約20メートル、重さ約0.6トン)を重機で牽引しながら引き上げるためのもである。
 この滑車を使っての引上げ作業は、立木に取り付けた滑車の位置が悪く作業がしにくいことから、2回実施しただけで中止してしまった。
 その後は、もう1台の無人の重機(機体重量14.4トン)を停止させた状態にしてアタッチメントにフックを取り付けて作業を行っていた。
 この作業により、滑車を取り付けられた立木には、かなりの力が加わわっていたものと考えられる。
 なお、現場内の環境条件から、障害物などによる抵抗が大きかった可能性もあり、カラマツの重量(約0.6トン)以上の大きな負荷が立木にかかったものと考えられる。
 さらに、滑車の取り付け位置が、根元から約6メートルの高さの位置にあり、荷重によるモーメントが根元に与える影響は極めて大きかったと思われる。
 そのため、カラマツの伐倒木の引上げ作業時には、この立木の根元は強い力で揺さ振られ、根付の状態もかなり緩んでいた可能性がある。
 なお、カラマツの引上げ作業時には、この滑車を取り付けた立木の後方の別の立木を利用して2箇所に控えのワイヤロープが張られていた。
3 倒れた立木が生えていた地盤の状況が悪く根が浅かったため、もともと倒れやすい状況であったこと。
 この立木が生えていた地盤は、勾配が約35度の急斜面で、地表面から少し下は軽石の地層になっていた。
 そのため、この立木(カバノキ科のウダイカンバ:高さ約23メートル、胸高直径45センチメートル)の根は、横方向には広く張っていたものの、深さは約40センチメートル程度と浅く、いわゆる根の踏ん張りがあまり効かない状態になっていた。
 そのため、横からの強い荷重に根を揺り動かされ、強風による風圧に耐え切れなかったものと考えられる。
 さらに、この災害を詳細に検討すると、次のような要因が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) 立木が倒れた場合を考えた空間が不十分であったこと。
(2) 立木の生えていた地盤が悪く、倒れやすかったこと。
(3) 前日に滑車を取り付けた立ち木の安全を確認しなかったこと。
〈不安全な行動〉
(1) 滑車を取り付けた立木を不安定なまま放置したこと。
(2) 不安定な立木の近くで待機したこと。
(3) 近くの立木の状況を確認しないで集材の作業を行なったこと。
〈人(Man)〉
(1) 作業者に周辺の危険に対する認識がなかったこと。
(2) 集材作業全体のリーダーシップが執られていなかったこと。
〈作業方法・環境(Media)〉
(1) 集材を行なう周辺情報の確認が不十分であったこと。
(2) 待機していた場所が不適切であったこと。
〈管理(Management)〉
(1) 集材作業における待機場所等に関する作業マニュアルがなかったこと。
(2) 集材作業に関する教育訓練が不足していたこと。
(3) 集材作業全体についての監視が不十分であったこと。