この災害は、「ニラ」栽培用のビニールハウス内の土壌を耕す作業中に発生した中毒であるが、災害原因としては次のようなことが考えられる。
中毒の原因として考えられるのは、農業協同組合に深耕作業を依頼した「ニラ」栽培農家が土壌の消毒に用いた臭化メチル燻蒸剤であるが、この臭化メチルは次のような性状を有している。
[別名]
・ ブロムメタン メチルブロマイド ブロムメチル
[主な用途]
・ 食料及び土壌燻蒸剤、有機合成、低沸点溶剤、飛行機エンジン火災の消火剤、冷媒
[主な性質]
・ 無色気体(液化ガス)クロロホルム臭、水に難溶、有機溶剤に可溶、比重1.7、蒸発密度3.3、融点−93℃、沸点4.5℃、発火点535℃
[危険有害性]
・ 爆発範囲が狭いので、引火、爆発の危険性は少ない。爆発範囲10〜15%
神経系統、腎臓、舌にひどい障害を起こす、ガスを吸入すると頭痛、めまいを起こし、数時間後時には数日後に痙攣、視力障害など神経障害が起こる。
腎機能、肺にも障害を起こす。皮膚からも吸収され中毒を起こす。
この臭化メチル燻蒸剤の入っている缶には、使用上の注意事項がかなり詳細に記載されていたが、人体に関する危険有害性については記載が無かった。
ところで、臭化メチル燻蒸剤による中毒症状を呈した被災者は、農協に所属し、野菜生産農家に対する野菜の栽培指導、トラクターによる深耕作業・ならし作業を行なう野菜生産指導員であったが、土壌診断や一般的な病害虫駆除等の指導は行なってはいたものの、自ら臭化メチル燻蒸作業を行なうことはなく、今回のように燻蒸の状況(燻蒸を行なった日、燻蒸の時のハウスの開放状況等)を的確に把握しないまま作業を行なったことが中毒につながったと考えられる。
特に、臭化メチル燻蒸缶には、燻蒸作業後、被覆シートを外し3〜4日間ガス抜きを行なってから土壌を拡げ、又は切り返してさらにガス抜きを行なってから次の作業に取りかかるよう記載されているのに、被覆シートを外した翌日にトラクターを持ち込んで作業を行なっている。
また、被災者は、農協に勤めはじめて僅か5か月目であるのに、関連の作業の安全衛生についての教育も行なわれていなかった。
さらに、この中毒を詳細に分析すると、次のような要因が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) 呼吸用保護具の指定を行なっていなかったこと。
(2) ビニールハウスの換気が不十分であったこと。
(3) 有害物である臭化メチルのガスが残っていたこと。
(4) 燻蒸剤メーカーの指定した作業手順を守っていなかったこと。
(5) 作業開始前にハウス内の有害性を確認しなかったこと。
〈不安全な行動〉
(1) 呼吸用保護具を使用しなかったこと。
(2) 保護眼鏡等皮膚を露出しない服装でなかったこと。
(3) ガス抜きが不十分なハウスに入ったこと。
〈人(Man)〉
(1) 臭化メチルの有害性についての感覚がなかったこと。
(2) 作業中、体に異状を感じているのに作業を続けたこと。
(3) 有害環境での作業なのに、リーダーによる指導がなかったこと。
〈機械・設備(Machine)〉
(1) ビニールハウス内の有害ガス濃度の測定を行なわなかったこと。
〈作業方法・環境(Media)〉
(1) 燻蒸後の有害性についての情報がなかったこと。
(2) ハウス内の換気をせずに作業を行なったこと。
(3) ハウス内が有害な環境であったこと。
〈管理(Management)〉
(1) 安全衛生管理体制がなかったこと。
(2) 有害作業についてのマニュアルがなかったこと。
(3) 安全衛生に関する活動計画がなかったこと。
(4) 危険有害作業についての教育がなされていないこと。また、異常事態時の連絡体制、方法等についての定めがなかったこと。
(5) 職員の定期・特殊健康診断が実施されていなかったこと。