この災害は、トラックで運び込んだ建築用の鋼板等を荷台から降ろすのに、人力→ドラグショベル→人力と作業方法を変更し、作業の邪魔になるドラグショベルを旋回しようとした時に途中から逆方向に旋回したために発生したものであるが、その原因としては次のようなことが考えられる。
まず、ドラグショベルのブームが途中から逆旋回した原因であるが、このドラグショベルはレバーを前後に操作することによりニュートラルの状態を経て左旋回(手前に引く)又は右旋回(押す)する構造となっているがAはレバーを左旋廻に操作したのみで、右旋回の操作をした記憶がないと申し立てている。
一方、操作者Aは、レバーの操作を運転席の中ではなく外から行なっており、ドラグショベルのブームが右に逆旋回したときに旋回レバーを握ったまま、体を右方向に持っていかれたと話していることから、次のような状態であったものと推定される。
すなわち、レバーを操作してブームを左旋回させたが、運転席の外から行なっていたので、ブームの左旋回にともなって自分の体が運転席とドラグショベルのクローラとの間に挟まれそうになったため、それを回避しようとして咄嗟にレバーを押し(右旋回方向)てしまい、さらにその旋回により体が振られたためにレバーを押し続けてしまったものと考えられる。
さらに、この災害においては、次のようなことが原因としてあげられる。
1 作業の指揮者の不在
トラックからの荷降ろしを行なおうとした二人は初対面であり、たまたまトラックが来たときに現場に居合わせたAは、自分の仕事に関係のある荷であることから好意で作業を手伝ったものと考えられるが、本来、荷の発注者である建材の販売会社が検収を兼ねて現場で作業の指揮を取るべきであったのに放置していたこと。
2 ドラグショベルの管理不良
災害の原因となったドラグショベルは、建材会社の所有物であり、その管理は自ら行なうべきものなのに、エンジンキーを付けたまま現場に置いてあったこと。
3 玉掛けワイヤーの管理不良
最初は二人で荷を降ろそうとしたが重いので近くにあったドラグショベルを利用しようとしたが玉掛け用のワイヤーがうまく掛からなかったので、再び二人で降ろすことに作業方法を変更しているが、玉掛けに使用したワイヤーは台付けワイヤーであり、うまく掛からないのは当然である。また、もともと玉掛けに使用してはいけないものでこれらワイヤーの管理が不良であったこと。
4 安全管理体制の不備
建材の販売会社には、5つの事業所があり、災害の発生した事業所の労働者は5名であったが企業全体としては、100名を超えていたのに安全管理組織もなく、安全衛生推進者の選任もなく、また、搬入された資材の荷降ろし、作業方法等に関する教育も全く行なわれていなかったこと。
その他、この災害を詳細に検討すると、次のような災害要因が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) ドラグショベルとトラックの配置が悪かったこと
(2) トラックの荷の積み方が適切でなかったこと
(3) トラックから荷を降ろすのにドラグショベルを使おうとしたこと
〈不安全な行動〉
(1) 合図、確認をしないでドラグショベルを操作したこと
(2) エンジンキーを付けたままドラグショベルを放置していたこと
(3) ドラグショベルの用途外使用を行なおうとしたこと
(4) 動いているドラグショベルに接近して作業を行なっていたこと
〈人(Man)〉
(1) 状況判断せずに作業を行なおうとしたこと
(2) 多分大丈夫と思いドラグショベルを操作したこと
〈機械・設備(Machine)〉
(1) レバー操作を外からできる構造であること
〈作業方法・環境(Media)〉
(1) 荷降ろし作業に関する作業情報が不十分であったこと
(2) 作業方法が不適切であったこと
〈管理(Management)〉
(1) 安全管理体制が整備されていないこと
(2) ドラグショベルを使用する作業マニュアルがなかったこと
(3) 安全作業に関する教育・訓練が行なわれていないこと