この災害は、ビルの地下1階にある電気室において保護継電器試験の準備段階で通電中のPTヒューズを素手で取り外そうとして感電死したものであるが、その原因としては次のようなことが考えられる。
保護継電器試験には、渦電流継電器(OCR)試験と地絡方向継電器(DGR)試験の2種類があり、この感電事故は地絡方向継電器(DGR)試験の段階で発生した。
電力会社から供給された高圧電流は、断路器(ディスコン)→PTヒューズ→計器用変圧器(VT:ボルテージ・トランスフォマー)という経路で流れ、VTで高圧の6,600Vから低圧の110Vに降圧されてDGRに流れるようになっている。
試験内容は、DGRに種々の試験電流を流して行なわれるが、試験電流がVTを逆流して一次側に高圧が発生することのないようPTヒューズを抜き取っておくことが必要であり、通常は停電状態で行なわれることから、被害者はその行為を安易に実施した。
ところで、当日の被害者の属するビルメンテナンス会社の作業計画とケーブル交換を行なう会社の作業計画書とを対比してみると次のようになっている。
(ビルメンテナンス会社分)
〔8:00〕
停電
〔8:15〕
ケーブル更新工事開始
〔9:30〜16:00〕
絶縁抵抗測定、変圧器油耐圧テスト等
〔16:00〜16:30〕
OCR、DGR試験器等準備、電気室仮設電灯設置
〔16:30〜17:00〕
引き込みケーブル検相後耐圧試験、絶縁抵抗測定
〔17:00〜20:00〕
変電室内機器清掃、継電器試験
〔20:00〜21:00〕
室内清掃作業終了確認、DS投入、しゃ断器投入等により復電
(ケーブル交換会社分)
〔8:00〕
停電
〔8:15〕
既設ケーブル撤去開始
〔10:00〕
新設ケーブルの布設作業開始
〔13:00〕
ケーブルの端末処理作業開始
〔15:00〕
耐圧試験等
〔16:00〕
作業終了
〔17:00〕
復電作業 低圧配電盤で検相
〔17:15〕
復電作業完了
〔17:15〜17:30〕
仮設発電機等撤去、作業終了・解散
この二つの作業計画を見ると、ビルメンテナンス会社のものでは、停電は全ての作業を開始する前(8:00)に行ない、全ての作業が終わった段階(20:00〜21:00)で復電することになっており、一連の作業中に復電し、また停電の作業を挿入することは明らかでない。(16:30〜17:00に引き込みケーブル検相後耐圧試験の表現はあるが)
一方、ケーブル交換会社の工事手順書では、17:00に復電作業 低圧配電盤で検相とあり、15分後には全ての作業が終了し、順次解散することになっており、復電についての計画が一致していない。
また、ケーブル交換の作業が予定よりもかなり早く進行しているが、それに伴う両者間の作業の再調整は行なわれていなかった。
両者の連絡調整は、被害者自身が行なっていたので、当然調整が可能であった筈であるが、これが十分でなかったために災害につながったものと考えられる。
このように、災害の原因は、二つの会社が並行的に作業が行なわれるのに停電に関する十分な作業調整が行なわれなかったことにあると考えられるが、さらに詳細に検討すると次のような要因が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) ヒューズを抜き取る手順を誤ったこと。
(2) 抜き取り作業の前に通電状態を確認しなかったこと。
〈不安全な行動〉
(1) 充電電路に素手で触れたこと。
(2) 絶縁用保護具を使用していなかったこと。
〈人(Man)〉
(1) 通電中であることを忘れたこと。
(2) 電撃危険の感覚が欠如していたこと。
(3) 停電中と錯覚したこと。
〈作業方法(Media)〉
(1) 両者の作業に関する情報の交換が不十分であったこと。
〈管理(Management)〉
(1) 継電器試験の作業マニュアルが十分でなかったこと。
(2) 安全作業、電撃危険等についての教育が不十分であったこと。