この災害は、貸ビルの地下受電室における定期点検・清掃作業において、常用回線から予備回線への受電切替え試験のため、受電側の断路器を開放した時にしゃ断アークが発生し3名が火傷を受けたものであるが、受電切替え試験とは次の目的で行われるものである。
すなわち、通常受電している常用回線(6,600ボルト)に異常が発生し停電等になった場合には、自動的に常用回線から電力会社の他の変電所の回線に接続されている予備回線に接続される必要があり、そのためには電源側のしゃ断器が正常に作動することが求められる。
このビルの受電設備においては、停電状態を検出する低電圧継電器が常用、予備回線とも電源側(変電所側)断路器と電源側しゃ断器との間に設置されており、常用回線が停電等で無電圧となった場合には継電器がそれを検知し、普段は「切」となっている予備回線のしゃ断器を「入」にして、他の変電所からの受電ができるようなシステムになっている。
受電切替え試験は、この切替えの作動状況の確認を行なうもので、試験手順には次のように定められている。
(1) 全ての変圧器用しゃ断器を「切」の状態として負荷電流をしゃ断する。
(2) 常用及び予備回線の電源側断路器を閉じる。
(3) 常用回線の電源側しゃ断器を「入」、予備回線側のしゃ断器を「切」とする。
(4) 電源側の断路器を開放して断路器より負荷側を無電圧とし、これを低電圧継電器が検知して常用回線の電源側しゃ断器を「切」、予備回線側のしゃ断器を「入」となるか否かを確認する。
しかしながら、この試験においては、この手順どおりにはなっていなかったため、災害に至ったものである。
1 電路の負荷状態の不確認
しゃ断アークが発生した原因は、断路器を開放したときに負荷がしゃ断された状態ではなかったためであるが、その状態にあった原因はこの受電切替え試験の前に実施した保護継電器試験の際に一時停電回路を活かしたことにある。
すなわち、保護継電器試験の前に行なった高圧電気機器等の点検、清掃等は全てのしゃ断器で電路をしゃ断し停電作業で行なったが、続いて実施する保護継電器試験の場合には電源が必要なことから負荷側の一台の変圧器を活かしている。
本来なら、その作業が終了した時点で活かした変圧器のしゃ断器を操作し再び無負荷状態とするか、次の作業の開始前に回路の負荷状態を確認することが必要であるが、この災害の場合にはその確認を怠っていた。
2 不明確な作業指示
作業の責任者Aは、自らの指示で断路器の開放指示を行なったが、同人がいた監視室には回路の負荷の状態を表示するパイロットランプが取り付けられていたにも拘わらず、その確認をしないまま指示を出したこと、また、電気室で指示待ちしていた者にドアの所で中継をさせたことは不明確な指示につながってしまったと言える。
なお、電気室で待機していた者も回路の状況を再確認しなかったことも原因の一つとしてあげられる。
さらに、この災害の原因を詳細に分析すると次のようなことが考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) 作業手順を誤ったこと。
(2) 作業に先だって安全の確認を行なわなかったこと。
〈不安全な行動〉
(1) 通電中の回路の断路器を操作したこと。
(2) 停電を確認しないで次の作業の指示をしたこと。
〈人(Man)〉
(1) 断路器の操作が危険であることを忘れていたこと。
(2) 回路が無負荷であると錯覚したこと。
(3) 作業者全員のチームワークができていなかったこと。
〈機械・設備(Machine)〉
(1) 負荷がかかっているときには開路できない機構とはなっていなかったこと。
〈作業方法・環境(Media)〉
(1) 作業に関する情報の伝達が不十分であったこと。
〈管理(Management)〉
(1) 作業手順の整備が不十分であったこと。
(2) 作業手順の教育・訓練が不十分であったこと。
(3) 作業責任者の部下に対する監督が不十分であったこと。