この災害は、倉庫内で丸鋼材のはいから出荷に必要な鋼材を、天井クレーンにより抜き取るための段取り作業を行っていたときに発生したものである。
 丸鋼材のはい積みには、鉢巻きをかけるなどして安定を保持する立ち積み、丸鋼材を並べて正方形を作りその上に直角に丸鋼材を積み上げるさん積み、かんざしを入れてはいの安定を保持するかんざし積み、先に置いた丸鋼材の目落としに順々に積み重ねる目落とし積みなどがある。はい積みは、はい積み場所の広さ、保管する量などに応じて適切な方式を選定する必要があるが、いずれの方式であっても、一定期間保管される場合でのはいの安定を保持するための手段はそれぞれの方式にあった方法が採られる。
 災害が発生した倉庫内は、十分にスペースがあるとはいえないが、決して狭い場所でもないこと、品物の出入りが激しいことなどから、比較的出荷の際に品物が抜きだしやすいようにするため、目落とし積みによりはい積みされていたものである。
 さらに、多品種の鋼材を取り扱うため、一つのはいに径の異なる多品種の丸鋼材が入り交じり、出荷と入荷がひんぱんに繰り返される状況にあった。
 このような状況のもとで災害が発生したものであるが、その原因として、次のようなことが考えられる。
1 径の異なる多品種の丸鋼材が、一つのはいに積み上げられていたこと。
2 はいの上部や中間部に、目落としからはみ出た丸鋼材が出現し、転がりやすい状況にあったこと。
3 出荷、入荷の都度行われるはい作業終了時に、はいの状態が確認されないで、不安定箇所に歯止めを噛ませるなどの措置が講じられていなかったこと。
4 出荷のために鋼材を取り出した後のはいの状態の安全を確認せずに、そのままの状態で、次の取り出しの作業を行ったこと。
5 労働安全衛生法に定められたはい作業主任者の指揮のもとに作業が行われなかったこと。
6 はい作業のほか、クレーンの運転、玉掛け作業、鋼材の切断など危険を伴う作業を有し、これらの作業に伴う危険をはい除するための安全管理が必要な事業場であるが、労働安全衛生法で定められた資格を有するはい作業主任者の配置を、組織的にチェックする機能が不十分であったこと。
7 はい作業の危険性について、十分に教育が行われていなかったこと。
8 同じような作業が繰り返されているが、作業の標準化が行われず、作業手順がマニュアル化されていなかったこと。
 その他この災害を詳細に検討すると次のような要因が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) 異なる径の丸鋼材が一つのはいに積み上げられていたこと。
(2) 小さい径の丸鋼材の上に、大きい径の丸鋼材があったこと。
(3) 前に行われた作業の後に、はいの安全確認が行われていなかったこと。
〈不安全な行動〉
(1) はいの上が危険な状態であると自覚していなかったこと。
(2) 作業開始前に、はいの安全確認をしなかったこと。
〈人(Man)〉
(1) はい作業の危険性に関する知識が不十分であったこと。
(2) 安全通路を通らずに、はいの上を通って近道をしたこと。
〈作業方法・環境(Media)〉
(1) 前回のはい作業終了時の安全確認がされていなかったこと。
(2) 作業開始前に、はいの安全確認が行われなかったこと。
〈管理(Management)〉
(1) はい作業主任者を選任していなかったこと。
(2) 労働安全衛生法に定める必要な資格を確認するチェック機能が不十分であったこと。
(3) はい作業に必要な作業マニュアルが整備されていなかったこと。
(4) はい作業に関する知識の不十分な者に、はい作業を行わせたこと。
(5) 作業員に対するはい作業の安全教育が不十分であったこと。
(6) 倉庫担当責任者の安全作業に対する監督指導が、不十分であったこと。