この災害は、長期間密閉されていたため酸素欠乏状態になっていた土運船の浮力タンクの中に、作業員が無防備の状態で立ち入り、酸素欠乏症により窒息死したものである。
 このような災害が発生した原因としては、次のようなことが考えられる。
1 土運船が片側に傾いたような状態となり、浮力タンクの内部を点検する必要が生じたこと。
 土運船の浮力タンクは、長期間の浚渫工事などでの使用により、船倉の壁面、底部などに亀裂が生じ、そこから海水が浸入して偏荷重の状態となり、船体のバランスが崩れた状態となっていた。
2 浮力タンクの内部が酸素欠乏の状態となっていたこと。
 浮力タンクは土運船の浮力を保つためのものであり、マンホールの部分を除いて大気に開放されているところはなく、点検などでタンクの中に立ち入る場合以外には、常時密閉された状態となっている。
 また、この土運船は鋼製で、製造後約10年を経過しており、浮力タンクの内部は製造時に防錆塗装が行われただけで、タンクの内壁は浸入した海水などの影響で錆びによる酸化が進行していた。
3 浮力タンクの内部の点検作業を開始する前に、タンク内の空気の酸素濃度の測定を行っていなかったこと。
 被災した作業員が、単独で浮力タンクの中に立ち入ったことはもちろんのこと、その前の作業で反対側の左舷のマンホールを開放して、船底に溜まったビルジを水中ポンプで排出した際にも、タンクの内部の空気の酸素濃度は測定されていなかった。
 なお、この浚渫工事現場には、酸素警報器が1台備え付けられていたが、今回はこの酸素警報器も使用されなかった。
4 今回、亀裂などの点検のために立ち入って被災したと思われる作業員が、何の保護具も着用していなかったこと。
 被災した作業員は、空気呼吸器などの保護具を着用せず、かつ、監視人も入ない単独の状態でタンクの中に立ち入った。
 なお、この工事の浚渫船内には、肺力吸引型ホースマスク1式が備え付けられていた。
5 浮力タンクの中に立ち入る前に、タンク内の空気を十分に換気していなかったこと。
 この日の作業でタンクの中に立ち入ったときには、マンホールの蓋を開放しただけで、送風機などによる換気は行われていなかった。
 また、このタンクの形状から判断して、マンホール(長径45センチメートル短径35センチメートル)の開放だけの自然換気だけでは十分な換気は行えない。
 なお、この現場の浚渫船には、送風機(風量毎分70立方メートル)が1台備え付けられていた。
6 酸素濃度を測定するために必要な性能および有効性を具備した測定器を備えていなかったこと。
 この現場には、浚渫船内に1台の酸素警報器が備え付けられていたが、この測定器は酸素の濃度しか測定できず、かつ、センサーの有効期間が切れてから1年以上が経過していた。
 また、この工事現場では、この測定器を用いて1度も測定を実施していなかった。
7 作業員が酸素欠乏の危険性について十分理解していなかったこと。
 被災した作業員が自分一人の判断で、何の防護措置もしないで酸素欠乏のおそれのある場所に立つ入るなど、また、備え付けられている酸素警報器、送風機などを使用しないで作業を行うなど、作業員の酸素欠乏の危険性についての認識が不足していた。
 以上のようなことについて、要因分析すると次のようになる。
〈不安全な状態〉
(1) 浮力タンクの内部が酸素欠乏の状態であったこと。
〈不安全な行動〉
(1) 監視人をおかず、単独で酸素欠乏状態の浮力タンクの中に立ち入ったこと。
〈人〉
(1) 作業員が酸素欠乏の危険性について十分認識していなかったこと。
〈作業方法・環境〉
(1) 浮力タンクの中に立つ入る前に、酸素濃度の測定を行わなかったかこと。
(2) 酸素欠乏危険個所に立ち入るときに空気呼吸器などの保護具を使用しなかったこと。
(3) 送風機などで事前にタンク内の換気を行わなかったこと。
〈管理〉
(1) 酸素濃度の測定を行わせていなかったこと。
(2) 必要な測定器具を備え、容易に利用できるようにしていなかったこと。