この災害は、発進立坑内から機材を回収する作業を行っていたとき、クレーンのジブまたは巻き上げワイヤロープが架空送電線に触れたか、架空送電線への接近による閃絡により、操作レバーを介してオペレーターが感電したものである。
 感電経路は、架空送電線→ジブまたはワイヤロープ→操作レバー→左手中指→左足→大地を経路として通電したものである。
 一般に、低電圧による感電は、充電部に人体の一部が直接または金属などの導電体を介して接触することによって生ずるが、高圧以上になると充電部に直接接触しなくてもある限界距離以内に人体が近づくと、その間の空気の絶縁が破壊されて閃絡(フラッシュオーバー)を起こし電撃を受ける。
 閃絡を起こす許容接近限界距離Dを求める次の式から、66,000Vの場合、約12cmとなる。
 D=A+b・F
 この式で、Aは作業時における作業者の最大動作域(経験から90cmが推奨されている)を、bは電極配置、電圧波形、気象条件などに対する安全係数を、Fは電線−大地間に発生する過電圧の最大値に対する閃絡距離をそれぞれ示し、bFは接近限界距離をあらわす。また、最も閃絡しやすい気象条件のときの閃絡を起こす距離として、17cmという実験値の例がある。このような結果から、この災害の直接原因としては、必ずしもジブまたは巻き上げワイヤロープが送電線に直接に触れなくても、電撃の危険性は十分あるものといえる。
 このような状況を踏まえて、この災害の原因を考えると、次のようなことが考えられる。
1 災害発生の直接原因
  (1) 積載型トラッククレーンを使用していた場所の真上に、特別高圧の架空送電線があったこと。
(2) 積載型クレーンのジブを最長に伸ばして、旋回しながら荷をつり上げたこと。
(3) 積載型トラッククレーンのジブまたは巻き上げワイヤロープの特別高圧の架空送電線への接近または接触を防止するための防護対策が行われていなかったこと。
2 災害発生の間接的な原因
  (1) 送電線の下でのクレーン作業を行うのに必要な作業手順を検討していなかったこと。
(2) 送電線への接触の危険を監視する監視人を配置していなかったこと。
 その他この災害を詳細に検討すると、次のような要因が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) 作業環境
 特別高圧の架空送電線が、クレーン作業場所の真上にあったこと。
(2) 無防護
 特別高圧の架空送電線に対する防護措置を行わなかったこと。
(3) 安全の不確認
 クレーン作業におけるジブの稼働範囲の安全確認が不十分であったこと。
〈不安全な行動〉
(1) 安全確認なしでクレーンを運転
 クレーンジブの稼働範囲の安全確認なしでクレーンを運転したこと。
(2) 機械の選択の誤り
 送電線の高さを越える長さのジブを有するクレーンを選定したこと。
〈人(Man)〉
(1) 場面行動
 クレーンの運転に集中しすぎたこと。
(2) 危険の感覚
 送電線の存在に危険感覚が薄れていたこと。
〈機械・設備(Machine)〉
(1) 危険防護不良
 送電線への接触防止の措置がされていなかったこと。
(2) 標準化の不足
 架空送電線に接近してのクレーン作業の安全標準が作成されていなかったこと。
〈作業方法・環境(Media)〉
(1) 作業方法の不適切
 架空送電線に近接しての作業方法が不適切であったこと。
(2) 作業環境の危険
 クレーン作業場所の真上に特別高圧の架空送電線があったこと。
〈管理(Management)〉
(1) マニュアルの不備
 クレーン作業の安全を確保するためのマニュアルなどの手順書を作成する仕組みがなかったこと。
(2) 安全管理計画の不備
 数日間の工期であったため、安全管理計画が作成されず、元請からの指導も不十分であったこと。