この災害は、新幹線建設工事で、高架橋等の新設工事中に発生したものであるが、その原因としては次のようなことが考えられる。
この災害の発生時の詳細については、現認者がいないが現場の状況及び被災者と共に作業を行なっていた者の説明等から次のことが判明している。
[1] 災害発生現場がぬかるんでいたので、鉄板3枚を午前中に敷いていたこと。
[2] 3枚の鉄板のうち、1枚の位置が、災害発生の前と後で異なっており、また、その鉄板の上と下とが逆になっていたこと。
[3] 位置が変わっていた鉄板の短辺側には、杭打機のクローラのシューによるものと考えられる傷跡があったこと。
[4] 杭打機の左側クローラのシューに傷跡が残っていたこと。
[5] 被災者は、位置の変わった鉄板の上で、次の作業のために待機していたと考えられること。
これらのことから判断すると、杭打機を移動するため、右方向に旋回したときに左側のクローラのシューが鉄板の短辺の端を噛み込み、クローラが回転したことにより、噛み込んだシューが支点となって鉄板が一旦浮き上がり、次いでその反動で鉄板に乗っていた被災者が転倒した。
そこに鉄板が落下してきて、被災者Cが鉄板の下敷きになったものと考えられる。
なお、当日は、現場責任者が、不在のため、杭打機の運転者が作業指揮者になっていたが、当日に実施すべき作業内容について明確な指示は行なっておらず、鉄板の敷き込み作業も被災者Cの判断で行なうなど作業管理、指示に基本的な問題があったと考えられる。
また、元方事業者の現場事務所での作業打ち合わせ記録によると、T社の作業分担は、「ベノト掘り」とのみ記載されており、作業に伴う重機の足場回りの確保や作業の安全確保に必要な措置等について特段の指示はなされていなかった。
さらに、この災害を詳細に検討すると、次のような要因が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) 立入禁止区域の設定、表示等を行なわなかったこと。
(2) 杭打機の足場回りの状況が悪かったこと。
(3) 杭打機を急旋回させた作業手順が誤っていたこと。
(4) 杭打機を旋回させる前に、クローラのシューと鉄板との関係を確認しなかったこと。
(5) 杭打機の移動作業に直接関与していない者の待機場所の確認をしなかったこと。
〈不安全な行動〉
(1) 合図、確認なしに杭打機を急旋回させたこと。
(2) 杭打機の移動作業に直接関与していない者が危険な場所で待機していたこと。
(3) 杭打機を急旋回させたこと。
〈人(Man)〉
(1) 杭打機を急旋回させることによる危険感覚が欠如していたこと。
(2) 現場責任者の不在によるリーダーシップが欠如していたこと。
〈機械・設備(Machine)〉
(1) 杭打機のクローラのシューが鉄板を噛み込まないような構造となっていないこと。
〈作業方法(Media)〉
(1) 杭打機を移動させる周辺の情報が不足していたこと。
(2) 杭打機を鉄板の上で急旋回させたこと。
〈管理(Management)〉
(1) 現場責任者の不在等安全管理体制が不備であったこと。
(2) 杭打機の移動等に関する作業手順が定められていなかったこと。