この災害の直接的な原因は、型枠支保工として用いたパイプサポートの座屈によるものと考えられる。
型枠支保工の組立図は、標準組立図として次の2種類が作成されていた。1パイプサポートを支保工とするパターン2ステージ組立(鋼管枠組)を支保工とするパターンしかし、被災発生部分は、支保工底部の半分が車路スロープになる特殊な部分であり、支保工の高さが、最大で5.4mとなる部分であった。標準組立図では、この様に階高の高い部分には、対応できていなかったにもかかわらず、被災部分に対する型枠支保工組立図を追加して作成していなかった。
被災部分の支保工には、パイプサポートと補助サポートが組み合わされて使用されていた。前記の様な特殊な部分であるにもかかわらず、この方式(パイプサポートを支保工にするパターン)を採用するに当たり、予め作成してあった標準組立図で対応できるかどうかの検討を充分にしないまま採用していた。「パイプサポートを支保工にするパターン」の標準図では、水平支保梁(ペコビーム)の荷重を受ける梁下の支保工の間隔は、45cmとなっていたにもかかわらず、支保工を組み立てた施工者は支保工の間隔を90cmで組み立てていた。4階スラブ上部の支保工は、最大長さ2.8mのパイプサポートを使用していた。車路スロープ部で支保工が低い部分では、長さ4mのパイプサポートに、長さ1.2mの補助サポートを継いで(差込)組み立てていたが、車路スロープ部で支保工が高くなる部分では、長さ4mのパイプサポートと長さ1.2mの補助サポートを2本使用し、3本継ぎで組み立てられていた。
また、2本1組のサポートの内、1本は垂直に設置されていたが、小梁の真下に腰壁がある関係上、もう1本(腰壁側)は、腰壁に接触しないように、斜めに設置されていた。支保工の横変位を防止するための水平材は直角2方向に2段(2m以内に)設けられていた。小梁と平行な方向の水平材は、壁まで達しており、その方向について拘束されていたと考えられるが、小梁に直交する方向の水平材は、壁まで達しておらず、支保工の横変位防止に寄与できていない状態であったと考えられる。さらに、この水平材は、全ての支保工に取り付けられるべきであるにもかかわらず、支保工の数本毎に配置されていた。
これらの条件を基に、小梁を支えていた支保工(パイプサポート)の座屈に対する安全性の検討を行った。以下に計算仮定を列記する。
1 水平材が有効に機能していなかったものとする。
2 座屈長さは、支保工の高さが最大となる5.4mとする。
3 支保工の断面性能は、パイプサポートの最大径のものとする。
4 支保工の拘束条件は、両端ピン支持とする。
5 補助サポートは、無視する。
以上の条件で検討すると、支保工1本当たりに、約1.4tの垂直荷重が加わり、座屈長さを5.4mとした場合、許容座屈応力の4倍以上の応力がかかることになる。そのため支保工が、座屈を起こし、その支保工で支えられていた小梁が、落下したものと推測される。仮に、支保工の横変位を有効に防止できる水平材が、2m以内毎に配置されていたとするならば、使用されていた支保工は、2tの垂直荷重までは許容できるものであったので、本災害は、防止できたものと考えられる。
また、支保工の間隔を45cmとすべきところ90cmとして施工されていたが、本検討の結果からは、45cm間隔で支保工が配置されていても、支保工の座屈は免れなかったという結論になる。
また、支保工が傾斜した形で設置されていたが、その様な設置方法では、支保工の支持点に水平反力が発生し、支保工自体にも曲げ応力が発生する事から、座屈耐力が著しく低下する事が考えられる。そのため、支保工の様な圧縮力を受ける部材は、極力垂直に使用すべきである。