杭うち作業は、クローラークレーンのフックにバイブロハンマーを吊り下げて行われていた。このクローラークレーンは、吊り上げ荷重55トンの油圧式のもので、約5ヶ月前に製造検査を受けたばかりの新車であった。
 なお、このクローラークレーンは組み合わせを替えることによってジブの長さを変更することが可能であり、事故当時は、53995メートルの31メートルの長さであった。また、補助ジブも取り付けられていた。
 このクローラークレーンの仕様書によれば、ジブの長さが31メートルで補助ジブが取り付けられている場合の定格荷重は、作業半径が14メートルで8.15トン、16メートルで6.75トン、18メートルで5.70トンとなっている。
 転倒したクローラークレーンを引き上げた際、ジブを起伏させるワイヤロープの長さから割り出したジブの角度は57度で、ジブが31メートルの場合の作業半径は18メートルであった。
 また、水没した吊り荷を引き上げて測定した結果、バイブロハンマーの重量5.70トン、導杭の重量1.96トン、フックの重量0.36トンであり、吊り荷の合計は8.02トンであった。このクローラークレーンの作業半径18メートルでの定格荷重は5.70トンであり、また22%増しの転倒荷重と比較しても0.63トンの過荷重であった。
 一方、このクローラークレインにはジブの長さ等を正しくセットすれば定格荷重を正しく計算して現在の荷重を監視し、負荷が定格荷重の90%に達すれば警報を発し、また、負荷が定格荷重以上になれば安全側にしか操作できなくなるようになっているコンピュータを使った最新型の過負荷防止装置(モーメントリミッター)がもうけられていた。しかしながら、引き上げ作業時に判明した吊り荷の荷重と作業半径からみて、吊り荷を降ろし始める前から過荷重になっていたことがほぼ明らかであり、モーメントりみったーを正常に作動させていれば、もっと手前(作業半径が14メートルを超えたあたり)で装置が作動し、導杭を打つ予定の位置まで移動させることは不可能であったと思われ、モーメントリミッターを切つて、又はこの装置を正しく設定せずに作業をしていた可能性が高い。しかしながら、運転手が死亡しているうえ、モーメントリミッターも転落時に破損し、そのデーターを保持するための電池も水中に転落した時点で機能を失っており、転倒直前のモーメントリミッターの作動状況を確認することは不可能であった。
 なお、運転手のYさんは、約22年前に移動式クレーン運転手免許を取得しており、車両系建設機械(基礎工事用)運転技能講習も修了していた。また、このクローラークレインが設置されていた仮設桟橋にhw、鉄製の覆工板が敷かれており、150トンクローラークレインを設置しても安全な構造となっていた。
 従って、この災害の直接の原因は、クローラークレーンで定格荷重を超えて荷重を吊り上げたために、これが転倒したことによるものである。
 なお、運転手のYさんに合図を送っていたFさんは、同じ現場において、以前に行った同じような作業の経験から、桟橋からベント杭の打設位置までの距離は約14メートルで吊り荷の合計も約6.8トンであると思いこんでおり、特に運転手に対して過荷重について指示しなかったこと、及び過負荷防止装置(モーメントリミッター)が正常に作動しなかったこともこの災害の原因になったものと思われる。
 以上の原因を整理すると、次の通りである。
〈不安全な状態〉
 移動式クレーンの構造、設置場所などについて、特に不安全な状態はなかった。
〈不安全な行動〉
イ 移動式クレーンで定格荷重を超えて荷を吊り上げたために発生した災害であり、機械、装置などを指定以外の方法で使うという不安全な行動があった。
ロ また、モーメントリミッターを作動させないまま使用したものであり、不意の危険に対する装置の不履行も、不安全な行動となる。
〈人〉
イ 運転者及び合図者に危険感覚が欠如していた。
ロ 合図者に、作業半径、吊り荷の重量について、過荷重とならないという思いこみがあった。
〈機械、設備〉
 モーメントリミッターが作動しないまま運転できる機械であり、本質的な安全化が十分でなかった。
〈作業方法、環境〉
 作業方法に関する情報が十分に運転者に伝達されていなかった。(杭うちの場所までの距離、吊り荷の重量など)
〈管理〉
 過荷重の防止、モーメントリミッターの使用の徹底等について、運転者、合図者に対する指導、監督が不十分であった。