この災害の発生時点において、直接目撃した者はいなかったので被災者の行動を明らかにすることはできないが、災害発生直前の状況から、次のような背景と原因を推定できる。
<原因となった背景>
 削孔の作業手順と削孔穴の養生方法について調べてみると次のようになっていた。
[1] 削孔の作業手順
  1) 削孔‥‥所要時間1時間30分〜2時間
2) モルタル投入‥‥アースオーガーのスクリューを抜きながら30分、抜いた直後ホースで1時間〜1時間30分
3) 1)と2)の繰り返し。
4) H鋼の挿入及び埋戻し‥‥まとめて夕方に3本行う。
[2] 削孔穴の養生方法
 開口部が生ずるのは、アースオーガーのスクリューを抜いた後、H鋼挿入までの短い時間であった。
 この間、モルタル投入の作業がある。このため、コンパネ(縦1.5m、横0.9m、厚さ1cm)を数枚準備し、開口部を養生することになっていたが、ホースが穴に挿入されているときは、コンパネがずらされ、又は外され、またモルタルの投入量を確認するときは、完全にコンパネが外されていたと思われる。
 モルタルの投入が完了後は、H鋼の挿入作業が開始されるまでは、削孔穴は鉄板(縦6m、横1.5m、厚さ0.25m、8枚)を敷いて開口部の養生をすることになっていた。
 鉄板は穴の養生に使用されると同時に、現場内をアースオーガーが移動する際の基礎地盤として利用されていて削孔に併せて順次移動されていた。
 今回の災害は、当日2本目(No44)の削孔にかかる1)の作業が完了する直前に、1本目(No46)の2)の作業の途中であり、No46の穴を鉄板で養生する前に発生したものであった。
 通常の作業手順どおりであれば、コンパネ又は鉄板により開口部の養生が行われるべきであった。
<原因>
 これまでのべたとおり、No44の削孔穴(開口部)が何故養生されていなかったのか削孔作業の手順と養生方法との関連で調べてみたが、災害としては、えてして、このようなわずかな作業の合い間をついて発生しがちであることがわかったかと思う。従って原因としては次のことが推定される。
[1] 被災者は、No44の削孔の見取図No1の図のCの位置で測量の補助作業を行っており、スプレーでスクリューの所定の位置に目印をつけ終わってから、何らかの理由でNo46の削孔穴に移動していったとき、削孔穴(直系0.5m)のまわりの地表面附近が崩れており、すり鉢状になっていたので、そこから穴の中にすべり落ちたものと思われる。従って、転落のおそれのある箇所に、コンパネ又は鉄板のような覆い、囲い等の養生がなかったこと。
[2] 墜落防止の具体的な方法について、現場内の関係労働者に周知し、かつ、養生の仕方について作業手順どおりに行うことを徹底していなかったこと。
[3] 元請による現場パトロールにおいて危険箇所のチェックが不充分であったこと。
 その他この災害を詳細に検討すると、次のような要因が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) 削孔個所の開口部が養生されていなかったこと。
(2) 削孔個所の開口部に墜落危険表示または区画がされていなかったこと。
(3) 削孔個所の危険性の検討が不十分であったこと。
〈不安全な行動〉
(1) 削孔個所の開口部に近づいたこと。
〈人(Man)〉
(1) 無意識で開口部周囲に近づいたこと。
(2) 削孔個所の開口部に対する危険意識が薄れていたこと。
〈作業方法・環境(Media)〉
(1) 建設機械などが輻輳する現場内に、開口部が養生されずにあったこと。
〈管理(Management)〉
(1) 削孔終了後の開口部の養生など、一連の作業の進行に伴う安全確保のための手順作成などの規定類を作成する仕組みが不十分であったこと。
(2) 安全管理計画が不十分であり、元請の指導も不十分であったこと。
(3) 管理者でありながら被災しており、日常の安全確保のための監督指導の不十分さがうかがえること。
(4) 現場内での安全確保のための安全教育が不十分であったこと。