1 この災害は、被災者が乗っていた型枠トラス梁を吊っていたチェーンとワイヤーのうち、ワイヤー2本が同時に切断して、約16m下に墜落したものであるが、その原因としては、次のようなことが考えられる。
2 被災者が乗っていた橋脚P−20のすぐ西側にある、8組目の南側の型枠トラス梁は、重量が7.56tあり、これをワイヤロープ2箇所、チェーン4箇所の計6箇所で吊り下げていた。
 玉掛けワイヤーロープは、トラス梁に近い部分は2箇所とも18mmワイヤーで、2.8tホイストクレーンのフックにかけている1本は12mmワイヤー、他の1本は16mmワイヤーになっていた。
3 ワイヤーロープの切断については、目撃者の証言等から2ヶ所のうち、どちらかが先に切断したか特定はできないが、切断された部分の状況、切断されたワイヤーの損傷状況、トラス梁を吊っている6箇所の支持点の支持点のうち、最も切断荷重のかかるのが12mmワイヤーを使用している支持点であること等から、先に12mmワイヤーが切断したものと思われる。
 以上の順で切断したと仮定した場合における状況については、次のように考えられる。
4 当該型枠トラス梁は、外側の4本のチェーンを支点として、ワイヤーを斜めに吊り上げていくため、ワイヤーについては、その吊り角度が大きくなるにつれて張力が増加していき、この場合張力が最大になるのは、型枠トラス梁を引き上げ始める時で2.73tとなる。
 12mmワイヤーが新品の状態では、その切断荷重は7.24tであるが、事故当日は使用による劣化等によって、2.73t前後の張力に耐えうる強度しかない状態にあったうえ、被災者がトラス梁に乗り込んできた衝撃荷重が加わり、切断に及んだものと推定される。
5 18mmワイヤーの支持点は、12mmワイヤーが切断した後、3.85tの荷重を支持する状況となった。
 この荷重だけなら18mmワイヤー側には、耐えうる強度があったが、18mmワイヤーを留めていたワイヤーロープ受金具が約18cmスリップした形跡と、ワイヤーの切断箇所の位置及び切断状況から推定すると、ワイヤーを巻き上げて型枠トラス梁を吊り上げていく際、ワイヤロープ受金具の取付ボルトの締め付け方、もしくは締め付ける力が不足していたこと等により、ワイヤロープに引っ張られる力で金具がスリップしたものと考えられる。
 その衝撃で18mmワイヤーが、型枠部材のフランジ部分に激しく擦りつけられたことにより一部が切断し、そのままの状態でしばらく荷重に耐えていたが、やがて残存部分も切断?したものと推定される。
6 大型稼動吊支保工による施工方法は、高度に機械化された支保工と型枠を用いて施工するもので、新規の工法で施工する場合の、仕事の工程、機械設備、作業方法等について、安全面からの事前の検討が十分なされていなかったものと思われる。
7 クレーン等を用いて作業を行うときは、あらかじめ安全な作業計画の作成、安全な作業方法を決定し、これに基づいて作業を実施していなかったものと考えられる。
8 玉掛け用ワイヤロープで玉掛けをする方法で、局部曲げや鋭角なものと直接接触する吊り方で行い、ワイヤロープの強度を低下させ、頻繁な使用頻度によって切断されたものと推察出来る。
9 玉掛けワイヤロープの作業開始前の点検が十分行われていなかったために、不備なワイヤロープを使用していたものと思われる。
〈不安全な状態〉
(1) 切断された12mmのワイヤーは、一部に素線切れ、使用による劣化がみられた。
(2) 18mmワイヤーの受金具の取付ボルトの締め付け方等が不足していた。
(3) 玉掛け用ワイヤロープの点検・整備が不十分であった。
〈不安全な行動〉
(1) 被災者が、吊っていたトラス梁に飛びのり衝撃を与えた。
〈人〉
(1) 被災者は、当日朝から繰り返し作業を行っており、慣れた状態で安易な気持で作業を続けたものと考えられる。
〈機械・設備〉
(1) 吊られたトラス梁の落下に対して、安全帯の付用がなされていなかった。
(2) 玉掛ワイヤーの点検が十分にされていなかった。
〈作業方法・環境〉
(1) 被災者が吊られていた不安定なトラス梁に、乗り込んでいった。
(2) 吊っていたトラス梁の重量に耐えうる、玉掛ワイヤーを使用していなかった。
〈管理〉
(1) 詳しい工法に対する安全マニュアルの作成・及びその徹底が十分になされていなかった。
(2) 作業者全員に対して、詳しい工法の安全教育が十分でなかった。