この災害の直接原因は、2基一体型濃度がキュポラのうち稼働中のNo.2炉から一酸化炭素(CO)ガスを含む排ガスが休止補修中のNo.1炉内に流れ込み、補修作業をしていた被災者がこれを吸入したことによるものである。
 COガス発生設備は稼働中のNo.2キュポラである。溶解職場内において、キュポラ以外には連続取鍋、アーク炉、高周波炉、低周波炉(災害発生時稼働してもいなかった。)及び球状処理工程でいずれもCOガス発生の工程がなかった。設備の設計上は、No.2キュポラで発生したCOガスを含む排ガスはベルバルブを通り、集じん機で吸引されて本煙突から排出されるが、実際には排ガスの一部がNo.1キュポラのベルバルブを経由して、又は稼働中のNo.2キュポラから漏出した排ガスの一部がスポットクーラーから送給されて休止補修中のキュポラの炉内に流入したものとみられる。このことは、平成2年3月25日(災害発生の5年前)及び平成7年8月19〜26日(災害発生の5カ月後)に実施した休止中キュポラ補修の作業環境評価のためのCOガス測定結果から裏付けられている。
 一酸化炭素は無色、無臭の気体で、血液中の血色素(ヘモグロビン)との親和性が大きい。呼吸器から吸入してCO−Hbが形成され、その血中濃度が高くなると、頭痛、吐き気、めまい、意識障害、昏睡、死亡に至る。
 本件災害では、被災者が意識障害ないし昏睡状態に陥ったことから、比較的短時間に高濃度のCOガスを吸入したものと考えられる。
 また、間接的な原因としては、炉内補修作業場所の換気が不十分であったこと、CO用ガスマスクの使用を定めた安全作業手順書が活用されていないなど、労働者教育及び安全衛生管理体制の不備が認められている。
 さらに、発生原因を詳細に検討すると次の事項が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) 設備の老朽化
 No.1、No.2のキュポラ及びその付属設備である集じん機、ターボブロア送風機はいずれも設置当初以来22年間連続使用してきたもので、キュポラ炉体に取付けられているベルバルブの開閉能力が低下して「閉」であっても排ガスの一部がこれを通過して休止中のキュポラ炉内に流入したり、稼働中のキュポラ炉体から流出して、溶解職場の休止中キュポラの炉内及びその付近の作業場はときに高濃度のCOガスを吸入するおそれのある状態になっていた。
(2) 換気の欠陥
  [1] 補修作業を行うNo.1キュポラの炉内換気が不十分であった。
[2] 災害発生時、強制換気用の移動式大型扇風機(ルームファン)を使用しておらず、全体換気装置である換気扇4台のうち通路側の1台が故障していて、溶解職場の換気状態が良くなかった。
〈不安全な行動〉
(1) 保護具の選択の誤り
 COガスに有効な防毒マスクを使用させていなかった。(防じんマスクを使用させていた。)
(2) 有害性の事前確認の未実施
 補修作業開始前にキュポラの炉内のガス濃度測定を実施しないでCOガスが滞留している有害な場所に近づいた。
〈人的要因〉
 COガス発生のおそれのある作業場では単独作業はさせるべきでないところ、上司から指示を与えることもなく、キュポラ炉内補修作業を一人で行わせた。
〈機械・設備の要因〉
 排ガス切替弁であるベルバルブ、集じん機、排気ファン、ターボブロア送風機などの機械・設備について、メーカー作成の点検基準どおりに点検整備を行っていなかった。
〈作業方法・環境面の要因〉
(1) 作業情報の不足
 COガスの有害性、これを吸入するおそれのある作業及び安全作業手順などに関する情報提供が不十分であった。
(2) 作業環境条件の不良
 休止中キュポラの炉内及びその付近の作業場は、隣接の稼働中キュポラの温度条件、送気量、ベルバルブの開閉状況、機械・設備の保守整備状況、換気などの条件次第ではときに高濃度のCOガスを吸入するおそれのある環境条件になっていた。
〈管理面の要因〉
(1) 安全衛生管理組織が十分には機能していなかった。
(2) 安全作業手順書(キュポラ補修作業時の手順、留意事項が記載されている。)を活用させていなかった。
(3) 次の事項に関する適切な安全衛生教育が行われていなかった。
  [1] 休止中キュポラの炉内には機械・設備の点検整備や換気の状況によっては有害なCOガスが滞留するおそれがあること
[2] 補修作業開始前には炉内の有害ガス濃度の測定が必要であること
[3] COガス吸入のおそれのあるときは、COガスに有効な防毒マスクを使用すること及び単独作業を避けること
[4] その他キュポラ補修作業については安全作業手順書に従うこと