この災害は生コンクリート製造プラントで発生したものであるが、単独の作業で発生時の状況が定かではないが発生原因としては、次のようなことが考えられる。
被害者は、地下ピットの水中ポンプの修理を行なっていたものであるが、その修理が終了し、ポンプの本来の設置場所である溜まり水のあるところに移動したとき、水中ポンプの電源が投入された状態であって、かつ、水中ポンプのモーターに水が入り込んでいて漏電していたため感電したものと推定される。
モーターに水が入り込んだ原因としては、正常な状態ではモーターとポンプの間はメカニカルシールが施してあり浸水しない構造となっているが、排出する水にはホッパー等から落下した砂が混入しているためシールが損傷し、モーター部分に浸水したことが考えられる。
被害者の部下であるB課長が、被害者と地下ピット内で共同で作業をしているときにモーターオイルが白濁していることを確認していることからもこのことが推定される。
水中ポンプのメーカーの説明によると、通常の使用条件下でも3,000時間毎に詳細点検が必要であるが、この事業場では購入・設置後2年半程経過しているがメーカーに詳細点検の依頼はしていなかった。
この事業場の水中ポンプの稼動時間は、毎日、2〜3時間であるので設置以来2,000時間程度と考えられるので、基準としている3,000時間には達していないが、単純な水ではなく、砂が混入している水であり、通常よりも損傷が激しいことが十分に予想されるので詳細点検の時期を早める必要があったものと考えられる。
また、この事業場では、水中ポンプのインペラーやフード等が度々損傷しており、その都度自社で購入している部品と交換していたが、その範囲は水中ポンプ部分に限られており、モーター部分について点検を行なっていなかったことがこの災害につながったとも言える。
ところで、被害者は、水中ポンプを修理のためピットの水の中から水のない傾斜場所まで引き上げ修理し、終了後またピットの水の中に設置しようとして感電したと推定されるが、引き上げの際には感電していないことから水中ポンプの電源を入れたまま修理作業を行なったか杏かに凝問が残る。
これについては、二つのことが考えられる。
その一つは、電源スイッチの操作に他の社員等は関与していないので不明であるが、同様の修理を度々行なっても問題が生じなかったことから被害者は通電状態のまま修理し、また、修理後水中に設置しようとしたもので、この推定で傾斜場所に引き上げる際に感電しなかった理由としては、引き上げの際には被害者が濡れていない場所からモーターのケーブル等を引っ張ったため、感電しなかったと推定することである。
その二は、修理が終わったので電源を投入し、ポンプと共に水の中に入って感電したと推定することである。
いずれの場合であっても、漏電しゃ断器を設置しているか、4芯ケーブルの1線を利用し水中ポンプ、モーターのフレーム等を接地しておけば感電死は免れたと考えられる。
また、被害者は、製造部門の責任者であり、修理についても当然に部下の指揮監督と指導をする立場にあるのに自らが作業を行ない犠牲者となってしまったことは残念である。
その他、この災害を詳細に検討すると次のような要因が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) メカニカルシールが損傷し、使用の限界にあったこと。
(2) メカニカルシールが損傷し、モーターに浸水しているのに修理しなかったこと。
(3) 水中ポンプ、モーターのフレーム等を設置していなかったこと。
〈不安全な行動〉
(1) 4芯ケーブルを接地極に接続していなかったこと。
(2) 通電状態のまま、修理、据え付けを行なったこと。
(3) 漏電している水中ポンプを持ったまま、水中に入ったこと。
〈人(Man)〉
(1) 感電危険を意識しないまま修理作業を行なったこと。
(2) 電源スイッチを投入したままポンプを水中に運んだこと。
(3) リーダーとして共同作業、安全確認等の指揮を行なわなかったこと。
〈機械・設備(Machine)〉
(1) 水中ポンプのモーターについて、2重絶縁等の構造としていないこと。
(2) 水中ポンプ、モーターの絶縁状態を確認していなかったこと。
〈作業方法、環境(Media)〉
(1) 水中ポンプ、モーターの損傷、絶縁等と点検に関する情報が不足していたこと。
(2) ピット内に水が溜まり感電の危険がある環境にあったこと。
〈管理(Management)〉
(1) 事業場としての安全管理組織が整備されていなかったこと。
(2) ポンプの点検整備に関するマニュアルがなかったこと。
(3) 感電危険等に関する教育がなされていなかったこと。