この災害は、4Mビットメモリー等の半導体を製造している工場で発生したものであるが、その原因としては次のようなことが考えられる。
1 電源が投入されていたこと
 リーダーの説明によれば、休憩をとる前に自ら高周波電源のスイッチは切断したことになっているが、災害発生直後の状況では電源が入った状態であったことから、被災者はリーダーがメンテナンス会社に電話中に電源スイッチを投入し、故障箇所の確認等の作業を行っているときに右手が充電部に接触し、感電したのもと思われる。
 また、被災者が接触したと考えられる電力増幅管上部と被災者の身体から電流が抜けたと考えられる作業服の膝の部分の焦げた穴の位置、被災者の倒れていた位置等から推定すると、被災者は、電源ラックから引き出した高周波電源とスパッタリング装置本体の間で配管カバーの上にしゃがみこみ、右腕を伸して電力増幅管の接触状況等を確認しようとしてその上部に触れたものと考えられる。
 なお、被災者の着用していたビニール手袋には、通電の痕跡と思われる焼損が認められることから、電源が切断されている電力増幅管に触れているときに高周波電源の前にしゃがみこんだ被災者の左足が高周波電源前面のメインスイッチ(スナップスイッチ)に触れ、スイッチが投入されたとも考えられる。
2 感電防止のための保護具等が使用されていなかったこと
 被災者が感電した時に着用していたものは、クリーンルームで使用するポリエステル製のツナギ服及び頭巾、ゴム製の静電靴と両手にはビニール製手袋を着用していたが、静電靴は床等に静電気を放出する言わば通電を促進する性質のものであり、また、ビニール製手袋も感電防止用としての機能はないものであることから、感電防止のための保護具、防具は使用されていなかった。
3 作業の手順を誤ったこと
 スパッタリング装置の取扱説明書には、十分ではないものの、この装置は高電圧が発生するものであること、その保守点検にあたっては高圧電気に注意するよう説明がなされているが、リーダー及び被災者等はその内容を再確認した上で作業に着手しておらず、スイッチの管理を始め、作業の手順を誤ったものと考えられる。
 さらに、この災害を詳細に検討すると、次のような要因が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) スイッチが容易に投入されるような設計不良
(2) 感電防止について無防備
(3) 保護具の指定を行なっていないこと
(4) 作業手順の誤り
〈不安全な行動〉
(1) 電源スイッチの管理を不十分なまま放置していたこと
(2) 通電中に点検を行なったこと
(3) 感電防止用保護具を使用していないこと
(4) 高圧電気機器に接近したこと
〈人(Man)〉
(1) 危険場所での無意識行動
(2) 電撃危険について意識がなかったこと
(3) 作業のリーダーシップがなかったこと
〈機械・設備(Machine)〉
(1) スイッチが容易に投入されるような設計不良
(2) 感電防止用防具を使用していないこと
(3) 通電に関する点検が十分でなかったこと
〈作業方法・環境(Media)〉
(1) 高圧危険の情報が不足していたこと
(2) 狭い空間での作業姿勢が悪かったこと
(3) 点検の方法が適切でなかったこと
〈管理(Management)〉
(1) 会社の安全管理体制が不十分であったこと
(2) 点検・修理のマニュアルがなかったこと
(3) 安全教育がなされていなかったこと
(4) 部下の作業についての監督不十分