この災害は、家庭用のトイレットペーパー、ティッシュペーパー等の製造を行っている事業場の抄紙室において発生したものであるが、その原因としては次のことが考えられる。
 この災害は、紙粉による爆発火災と推定されるが粉じん爆発は、一般的に次のような過程を経ると言われている。
[1] 粒子表面に熱エネルギーが与えられ、表面温度が上昇する。
[2] 粒子表面の分子が熱分解あるいは乾留作用を起こし、気体となって粒子の周囲に放出する。
[3] この気体が空気と混合して爆発性混合気体を生成し、発火して火炎を生じる。
[4] この火炎により生じた熱はさらに粉末の分解を促進し、次々と気相に可燃性気体が放出され、空気と混合して発火伝ぱする。
 これらの現象をもとに、原因を推定すると次のようになる。
1 発火原因
  (1) 堆積する紙粉による低温発火
 火元と考えられる場所の低圧電気ケーブルは、掃除のしにくい箇所で紙粉が堆積していたと考えられる。
 したがって、ケーブルの発熱により紙粉が乾留炭化し、低温発火した可能性がある。
 なお、堆積していた紙粉の厚みは、火災により燃えているので不明であるが、堆積粉じんの厚みが大きいほど発火温度が下がり発火の可能性は高くなる。
(2) ドライヤーとGドクターの接触火花
 ドライヤーの紙が接触する部分は、原料(パルプ)に添加している薬品やパルプにより薄い被膜(コーティング)が形成されていてドライヤーとGドクターの金属どうしの摩擦を防いでいる。
 しかし、被膜のない両耳部分(各約170mm幅)は、金属どうしの摩擦により火花が発生する可能性がある。
(3) 集じん装置のノズル、チェーンの摩擦火花
 抄紙機集じん装置のドアや、排気サイレンサー及び排気口の破損状態から集じん機内部で、一次爆発が起こった可能性がある。
 この場合、装置内部のノズル摺動部及び摺動用チェーンの金属どおしの摩擦による火花が発生した可能性がある。
(4) 静電気帯電による火花
 空気が、冬なので乾燥して抄紙室内の湿度が15%以下になっていたと考えられる。
 そのため、摩擦によって粉じん帯電がし易くなり、放電によって発火した可能性がある。
(5) その他
 その他、ロール機、モーター等の摩擦熱、加熱等も考えられるが、これらについては日常のメンテンナンスが良くなされており、事故後の状況でも焼け付き等は見られないので発火源となる可能性は少ない。
2 紙粉濃度等
  [1] 紙粉は、比重が軽く粒径が大きくても空気中に浮遊しやすい物質である。
 室内の湿度は、局部的に15%を下回っていたと考えられ、また、抄紙機等に設置していた乾式集じん装置は、吸引した空気の大部分を再び放出する構造であるため、微細な粉じんの発生を多くしていた。
[2] 紙粉の発生は、抄紙機ドライヤーから紙がロールに巻かれる付近、紙を2枚重ねにしてティッシュペーパーを作るプライマシンの機械付近で多く発生する。
 また、集じん装置のダクトに粉じんが堆積していることから、集じん方法及び能力については不十分であった。
 さらに、この災害を詳細に分析すると、次のような要因が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) 紙粉に対応した集じん方法、集じん能力が不十分であったこと。
(2) 著しい粉じんが堆積していたこと。
〈不安全な行動〉
(1) Gドクターの取換え作業時に、集じん装置を停止したこと。
〈人(Man)〉
(1) 粉じん爆発の危険感覚が欠除していたこと。
〈機械・設備(Machine)〉
(1) 抄紙機集じん機内部に金属が摩擦する箇所があったこと。
(2) 非コーディン部分とGドクターとの接触部分があったこと。
〈作業方法、環境(Media)〉
(1) 作業場所が粉じん爆発の危険があるとの情報が不足していたこと。
(2) 紙粉の多いところで修理作業を行ったこと。
〈管理(Management)〉
(1) 事前に安全確認等を行う体制が整備されていなかったこと。
(2) 修理作業についての作業マニュアルが適正でなかったこと。
(3) 紙粉爆発についての安全教育の徹底がなされていなかったこと。