この災害の直接原因は、荷物用エレベーターの搬器を吊っていた電動ホイストの巻上用ワイヤロープが破断したこと及び搬器の「非常止め」が設けられていなかったため、搬器とともに約4メートル下方の1階エレベーターピットまで落下したことによるものである。
 ワイヤーロープの破断は、乱巻きを繰り返して摩耗と素線切れが生じ、荷重に耐えられなくなったために起こったものであるが、この乱巻きの原因は、搬器の重心とホイストの中心がずれていたこと及びガイドレールに「ねじれ」があったことによるものと考えられる。当事業場の過去における点検記録でも、ワイヤーロープの摩耗、乱巻きが指摘されており、このエレベーターは乱巻きを生じやすいものであった。
 安全装置としての搬器の「非常止め」については、エレベーターの構造規格上不可欠であるが、これが設けられていなかったため、搬器が落下するときその降下を制止することができなかったものである。
 事業場で使用するエレベーターについては、搬器の落下等による災害防止を図るため、労働安全衛生法において、エレベーター構造規格に適合するものを設置すること、積載荷重を超える荷重をかけて使用しないこと、定期自主検査を行うこと等製造段階から設置使用時における安全確保対策が定められている。
 この災害の間接的な原因としては、エレベーターの製造業者及びエレベーターを利用する事業者のいずれもが、このような基本的、かつ法定事項である対策を知らず、これを怠っていたことが指摘される。
 さらに、発生原因を詳細に検討すると次のようなことが考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) 搬器の重心とホイストの中心がずれていたほか、ガイドレールに「ねじれ」が認められ、組立て、工作の欠陥があった。
(2) 知識不足のため、構造上欠陥のある不適当な機械設備、素線切れのあるワイヤロープを使用した。
〈不安全な行動〉
 上記の不安全な状態にあるエレベーターであることを知らないで、搬器に乗った。
〈機械設備の要因〉
(1) 設計上の欠陥
  [1] 積載荷重(搬器の床面積に応じて決められる。エレベーター構造規格第22条の規定に基づき、当事業場の荷物用エレベーターの積載荷重は(1.8×2.4)×250=1.08トン以上の値でなければならない。)の不知のため、原動機の巻上げ能力(1.02トン)が不足し、荷重試験に耐えられない設備である。
[2] 安全装置である搬器の「非常止め」が設けられていなかった。
[3] 搬器出入口の扉が閉じていないと搬器を昇降させることができない構造になっていない。
(2) 点検整備の不足
 次の事項に関する定期自主検査を行っていない。
  [1] ファイナルリミットスイッチその他の安全装置、制御装置の異常の有無
[2] ワイヤロープの損傷の有無
[3] ガイドレールの状態
〈管理的要因〉
(1) 製造許可を受けていないこと
 エレベーター構造規格に適合しない機械設備は製造許可を受けることができず、設置することも使用することもできないことを事業者が知らないままこれを設置し、労働者に使用させていた。
 その結果、例えば、過負荷の制限としては「積載荷重」を定めてこれを超えないように使用させなければならないところ、製造業者が推奨した、法的根拠のない「最大荷重500kg」を標示していた。
(2) 規程・マニュアルの不備
 エレベーターの運転方法、故障した場合の処置等に関する規程及び安全点検チェックリストを作成していない。
(3) 安全教育の不足
 エレベーターの積載荷重を超える荷重の禁止、定期自主検査の必要性、作業開始前の安全点検を含む運転方法等に関する安全教育を行っていない。