この災害は、写真現像機等の写真処理機器の製造を行なっている事業場のタレットパンチプレスで発生したものであるが、その原因としては、次のようなことが考えられる。
1 運転の切替えが不適切であったこと
 このタレットパンチプレスは、AUTOモードで一時停止状態となった場合は、
・ モーター ON
・ クラッチ OFF
・ ブレーキ ON
 となり、ブレーキが働いているので外部からクランク軸を回転させることはできない。
 したがって、被災者はクランク軸の調整に当たってブレーキがOFFとなるHANDモードに切替えたものと思われる。
 これらの状況から、次のようなことが推定される。
  [1] 操作盤のHANDモードボタンを押したが、HANDモードに切り替わらなかった。
[2] 操作盤のHANDモードボタンを押したつもりであったが、押し方が不完全なため、HANDモードに切り替わっていなかった。
[3] 操作盤のHANDモードボタンを押すのを忘れた。
[4] 操作盤のHANDモードボタンを押したが、制御機構の誤作動でAUTOモードに切り替わった。
 しかし、災害発生直後の操作盤のボタンは、AUTOモードになっており、制御機構が正常であれば、ブレーキが働いており、クランク軸が回転することはない。ただし、次のような条件下では、回転することも考えられる。
  [1] ブレーキOFF、クラッチOFFで、クランク軸のクラッチがOFFからONの中間位置で待機している状態(このときはエラーメッセージ IN PUNCH CYCLEが表示される)
[2] タレットの内外の金型交換が行なわれず、待機している状態(エラーメッセージの表示なし)
[3] インデックスピン(タレットの位置決めをするタレットに差し込むピン)が入らず待機している状態(エラーメッセージの表示なし)
 なお、災害発生後に、作動試験を実施したところ、HAND・AUTOモードの切替え、クラッチ・ブレーキ等の誤作動、異常等は認められなかった。
2 危険区域内での作業
 ハンドルバーの柄の部分の長さは、回転中心から約90センチメートルであり、クランク軸によって回転させられたときには、かなりの範囲が危険域となる。
 また、クランク軸の回転数は、450rpmであり、ハンドルバーの回転による力も大きく、またクランク軸から抜けて飛来した場合の危険性も大きい。
 したがって、被災者の作業位置が適切でなかったことがあげられる。
3 定期検査の未実施
 安全衛生関係法令では、一年に一度の有資格者による特定自主検査を義務付けているが、この事業場ではタレットパンチプレス以外のプレス機械については実施していたものの、タレットパンチプレスについては実施していなかった。
 また、作業開始前の点検も行なわれていなかった。
 さらに、この災害について詳細に分析すると、次のような要因が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) 外部から手動でクランク軸を回転させようとした場合に、クランク軸が停止していなければ近ずけない設計となっていないこと。
(2) 停止させたクランク軸の不意の回転を防止する措置がなかったこと。
(3) 人体に被害を与えるような工具を使用したこと。
(4) クランク軸の不意の回転がないことを事前に確認しなかったこと。
〈不安全な行動〉
(1) 不意の危険に対する安全措置を行なわなかったこと。
(2) 人体に被害を与えるような工具を用いて作業したこと。
(3) 安全装置の機能の点検を行なわずに、作業を行なったこと。
〈人(Man)〉
(1) 作業者に危険意識がなかったこと。
(2) 安全装置の機能が十分と考えたこと。
(3) 職場の中で、機械の突然の停止等に関する情報交換が行なわれていないこと。
〈機械・設備(Machine)〉
(1) 月一回の頻度で急に停止する機械であったこと。
(2) クランク軸が停止していなければ近づけないような本質安全化が図られていないこと。
(3) 年次、作業開始前点検が行なわれていないこと。
〈作業方法・環境(Media)〉
(1) 機械の機能の異常に関する情報が伝わっていないこと。
(2) クランク軸の不意の回転を考えた作業姿勢をとっていなかったこと。
(3) ハンドルバーを用いて修理を行なった作業方法が適切でなかったこと。
〈管理(Management)〉
(1) 機械の安全確保等に関する管理体制が不備であったこと。
(2) 機械の突然の停止の場合の修理に関するマニュアルがなかったこと。
(3) 機械の修理等に関する教育訓練が不足していたこと。
(4) 部下が行なう危険作業について監督が行なわれていなかったこと。