この災害は、幹線電柱の電線のバインド線取替作業を行っていたときに発生したものであるが、その原因としては次のようなことが考えられる。
1 引込用高所作業車の設計・製造の状況
 引込用高所作業車については、平成2年頃から、元請会社A社及び車両の製造者B社が、設計・製造を担当したC社に「いろいろな作業姿勢の取れる高所作業車」の開発を依頼した。この車両の特徴は、普通の高所作業車と異なり、第2段ブームが10〜240度起伏する構造のものであり、電柱から家庭に引込線を引く際に、電話線をかわして作業位置を確保することができるため、引込線工事に多く使われていた。これまで、15台製作されており、ユーザーは、すべてA社であった。
2 リンクAが破損した車両の状況
 リンクAが破損した車両は、平成4年11月に製造されたものであり、製造者名はB社となっていたが、リンクAのような各部品はC社の工場で製作し、B社に各部品を集めて最終組立てを行っていたものである。
 従って、「リンクA」はC社で溶接・加工されたものであった。また、リンクA本体の材質は溶接性高張力綱板であり、ボス部は
SS400であった。リンクA本体とボス部の溶接方法、手順は、半自動溶接機を使用して、予め、切断及び曲加工された板材とボスを仮組立治具に入れ溶接仮組立し、その後、リンクAの本溶接を行ったものである。本溶接が終了した後自然冷却させ、溶接部をグラインダー仕上げの後、目視検査を行ったとされている。
3 リンクA部破損の要因
 災害発生時、バケットに搭乗していたのは被災者1名(体重76kg)だけであり、荷はほとんど積んでいなかったことから定格荷重100kgの範囲内であった。
災害発生時のブームの運転操作状況は、第2段ブームと第3段ブームを下げ、第1段ブームを旋回させただけであったので急激な稼動を行ったものではなかった。よって「リンクA」部に極端な負荷がかかったものではない。また、リンクA本体とボス部の溶接部が破断しているが破断面は、溶接箇所におけるリンクA部の鋼材の表面にはなめらかな面が多くほとんどがさび付いており、溶着していた箇所は一部分であった。溶着金属が母材にほとんど溶け込んでいなかったようなものである。よって破断原因は、破断面の状況から製造段階での「リンクA」部が十分に溶着していなかった結果、年数の経過とともに次第にき裂が生じ破断したものと考えられる。
 溶接部の強度について考察すると、災害発生時の高所作業車の作業姿勢を3段あるブームを全部60度の角度で最大限伸ばしたと仮定し、検討する。被災時の荷重は被災者の体重76kgプラス材料等で80kgとして計算すると、溶接部には、7,524kgの力が加わったことになる。破断面の状況から溶着面積は約2.3cm2しかなく、安全率を計算すると、
[1]引張応力(クレーン構造規格(参考))Φ:動荷重係数1.25n:溶接効率0.84
FA=7,524kg A=2.3cm2
σ= FA×φ 7,524×1.25 4,868
A×h 2.3×0.84
[2]安全率(使用材料、HT.60)
Y.P=46kg/mm2(降伏点)
SF(1)= Y.P 46×100 0.94
61 4,868
よって、災害発生直前には、破断するかしないかぎりぎりの限界にあったものと推定される。
4 車両の点検・整備状況
 平成5年11月に特定自主検査を実施していたが、平成6年12月以降、この検査を受けていない。また、この車両について月1回の定期自主検査や作業開始前点検も行われていない。これらのことからも溶着部分が剥がれ、き裂等が入っていた可能性を見過ごしていたことになる。
5 車両の使用方法
 被災者は、高所作業車運転技能講習修了証を所持しており、十分な運転経験を持っていたが、車両には、安全帯を取り付けるD環状の金具があったにも拘わらず、安全帯をかけていなかったため、地上に叩きつけられてしまった。
6 現場での危険予知訓練の状況
 現場では、作業開始前に、危険のポイントとして「バケットからの墜落」をあげていたにも拘わらず、その危険に対する対策を確認し合っていなかった。また、本人がそれを励行していなかった。
 さらに、この災害を詳細に点検すると次のような要因が考えられる。

〈不安全な状態〉
リンクAが破損した要因の一つとして組立や溶接による工作の欠陥に加え、使用限界が考えられた。(113,121)

〈機械・設備(Machine)〉
高所作業車の点検整備の不足があげられる。(5)

〈管理(Management)〉
高所作業車の管理規定、マニュアルの不備に加え、危険予知訓練の内容が形式的となっており、教育訓練方法の工夫が必要とされる。(2,4)