この災害は、上水道の浄水池整備工事現場の資材置場で発生したものであるが、その原因としては、次のようなことが考えられる。
 災害の直接の原因としては、「ずりバケット」のアームをストッパーにもたせかけるような不安定な状態で放置していたことにあると推定される。
 近年、土木工事現場で使用される機材は、ますます大型化が進むともに、用途に応じた様々な種類のアタッチメントや用具が開発・製作されているが、作業の効率性に比較し、作業の安全性の検討が十分でないことも多い。
 この事例では、「ずりバケット」のバケットの振りが大きすぎて危険なため、機材センターに戻すことになったが、バケット本体と可動部分であるアームとの間に構造的な問題があったものと推定される。
 また、これらのアタッチメント使用して現場で作業を行う場合の能率性等の検討は行なわれても、工場から現場への運搬作業や据え付け作業、解体作業に伴う安全性の検討はあまりなされていないこと、重量物の運搬を単独で行なったことも原因の一つとしてあげられる。
 ところで、被災者は、JVの職員から「移動式クレーンで積み込むので待っているように」と指示されたのに、最初停車していた空き地から、運搬する「ずりバケット」を置いてある資材置場の脇まで移動させ、トラックのアウトリガーを最大まで張り出しをする作業を実施しており、その行動の詳細は現認者がいないため、不明ではあるが、次のような作業を行なっていたと推定される。
[1] バケットの縁に登った時にバランスを崩し墜落しそうになったので、アームに掴まり、倒れたアームと共に落下してそのままアームの下敷きとなった。
[2] アームを手前に倒そうとして、アームを引いたところ、倒れかけてきたアームの重量を支え切れずにアームの下敷きとなった。
[3] バケットの縁に登ろうとして、手すり代わりにアームに手をかけたところ、アームが倒れアームと共に墜落してそのままアームの下敷きとなった。
[4] 被災者が、「ずりバケット」の状況を確認しようとして近付いたところ、何らかの外力により、アームが倒れかかりそのままアームの下敷きとなった。
 また、間接的な原因としては、次のようなことがあげられる。
  (1) 機材の搬出入作業の手順が明確でなかったこと。
 建設工事現場でも、主要な作業については、作業手順がかなり詳細に定められ、関係作業者も周知徹底されているが、機材・資材の搬出入等短時間で終了する作業については、作業手順が明確にされていないことが多い。
 そのため、作業者自身の判断によって実施することが通例となっていた。
(2) 統括管理の不備等
 運搬作業等建設工事現場に常駐していない下請負業者は、協議組織にも参加していないことも多いため、事前の作業間の連絡調整も十分では無く、また、作業指示が明確になされない場合も少なくなかった。
(3) 安全教育の未実施
 被災者は、玉掛技能講習、小型移動式クレーン運転技能講習の資格を有していたが、安全衛生に関する全般的な教育は受けていなかった。
 さらに、この災害を詳細に分析すると、次のような要因が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) バケットのアームが倒れやすい構造であったこと。
(2) バケットのアームを立てたままにしていたこと。
(3) 420Kgもあるアームを人力で取り扱うことが無理であったこと。
〈不安全な行動〉
(1) バケットのアームを立てたまま放置していたこと。
(2) 危険性を確認しないで倒れ易いアームに触れたこと。
(3) 倒れ易いアームの支え方が適切でなかったこと。
〈人(Man)〉
(1) 作業者に危険感覚が欠如していたこと。
(2) アームが倒れないと錯覚したこと。
(3) バケットアームの搬出についての作業情報の提供が不十分であったこと。
〈機械・設備(Machine)〉
(1) バケットのアームが倒れない構造でなかったこと。
(2) バケットのアームの転倒の防止措置をしていなかったこと。
(3) バケットのアームの転倒防止について本質安全化を図っていなかったこと。
〈作業方法・環境(Media)〉
(1) バケットアームの搬出についての作業情報が不足していたこと。
(2) バケットアームに対する作業位置が適切でなかったこと。
(3) 人力でアームを動かそうとした作業方法の誤り。
〈管理(Management)〉
(1) 工事現場の統括管理体制が不十分であったこと。
(2) バケットアームの搬出についての作業マニュアルがなかったこと。
(3) 運搬作業を行う運転者に対する安全教育が不十分であったこと。
(4) 運搬作業を行う運転者に対する監督が不十分であったこと。