この災害は、砕石機械と建設機械の製造、整備を行なっている工場で、プレス機械に取り付けたポンチが切断したものであるが、その原因としては、次のようなことが考えられる。
(1) ポンチの強度等に問題があったこと
 被災者が行なっていた作業は、厚さ12mmの鉄板に直径12mmの穴を開けるものであり、使用したプレス機械の能力は最大径25mm×厚さ16mmであったので、能力範囲内で加工を行なっていたものである。
 使用されたポンチが切断した原因としては、ポンチの強度が十分でなかったのではないか、ポンチに腐食が発生していたのではないか等が考えられる。
 まず、ポンチの強度について検討してみると、板厚12mmの鉄板(軟鋼材)に直径12mmの穴を打ち抜く作業であり
 鉄板を打ち抜くのに必要な力(p)は、
 p=πdtτ
 d=ポンチの直径(12mm)
 t=加工材の板厚(12mm)
 τ=軟鋼の剪断強さ(38kg/mm2)
 また、ポンチにかかる応力(δ)は
 δ=p/((1/4)πd2)=
 =πdtτ/((1/4)πd2)
 =152kg/mm2
 となる。
 ポンチの材質は、合金工具鋼か高速度鋼と推定されるが、これらの圧縮強さは、
 合金工具鋼(SKDクラス)で200kg/mm2
 高速度鋼(SKHクラス)で280kg/mm2
 であり、安全率を計算すると合金工具鋼で1.3、高速度鋼で1.8程度であり、ポンチが鉄板を打ち抜く際の瞬間の衝撃を考慮すれば、ポンチの強度に問題があったものと考えられる。
 また、ポンチに発生していたかも知れない腐食の点については、被災者の身体内から取り出された金属片は、その大きさが直系1.36センチメートルで、底部にはポンチの先端であることを示す丸い突起が認められ、また、その長さは片側が1.1センチメートルで反対側については殆ど厚さがない状態であったこと、そして、その切断部分を見ると、約4分の3以上の箇所が黒色となっており、金属が疲労して錆びているものと思われる状況であった。
(2) 加工材等の飛び出しに対する防護がなかったこと
 プレス機械やシャーの作業においては、しばしば加工材や治具等が衝撃や損傷等によって飛来することがあり、その危険から作業者を保護するために囲いや覆いなどの措置を行なう必要があるが、それが行なわれていなかった。
 さらに、この災害を詳細に分析すると、次のような要因が考えられる。
〈不安全な状態〉
(1) 鉄板の打ち抜き用ポンチの強度が不足していたこと。
(2) プレス機械の作業で加工物等の飛来に対する防護措置がなかったこと。
(3) 強度の不足しているポンチを使用していたこと。
(4) 作業開始前にポンチの状況を確認しなかったこと。
〈不安全な行動〉
(1) 加工物等の飛来に対する防護措置を行なわなかったこと。
(2) 強度の不足しているポンチを使用したこと。
(3) 加工物等の飛来危険があるところに近づきすぎていたこと。
〈人(Man)〉
(1) 作業者に危険感覚が欠如していたこと。
(2) プレス機械の作業について職場でのコミュニケーションが欠けていたこと。
〈機械・設備(Machine)〉
(1) 加工物等の飛来に対する防護措置がなかったこと。
(2) ポンチの点検が行なわれていなかったこと。
〈作業方法・環境(Media)〉
(1) 鉄板の打ち抜き作業の動作が適切でなかったこと。
(2) 飛来危険のある加工物の作業方法が適当でなかったこと。
〈管理(Management)〉
(1) 危険な作業があるのに安全管理体制がなかったこと。
(2) プレス機械作業についてマニュアルがなかったこと。
(3) プレス機械作業について安全教育が行なわれていなかったこと。
(4) プレス機械作業を個人任せで監督指導を行なっていなかったこと。