職場のあんぜんサイト

安全データシート
(JIS Z7253:2019準拠)
フタル酸ジ-n-ブチル
作成日 2002年3月12日
改訂日 2014年3月31日
改訂日 2023年3月31日
1.化学品及び会社情報
化学品の名称フタル酸ジ-n-ブチル
化学品の英語名称Di-n-butyl phthalate
製品コードR04-C-017-JNIOSH
供給者の会社名○○○○株式会社
住所東京都△△区△△町△丁目△△番地
電話番号03-1234-5678
ファクシミリ番号03-1234-5678
電子メールアドレス連絡先@検セ.or.jp
緊急連絡電話番号03-1234-5678
推奨用途及び使用上の制限塗料,顔料,接着剤,合成レザー・塩化ビニル樹脂可塑剤,香料の溶剤,織物用潤滑剤,ゴム練り加工剤,農薬の補助剤 (NITE初期リスク評価書より引用)

2.危険有害性の要約
GHS分類
分類実施日
(物化危険性及び健康有害性)
R5.3.31、政府向けGHS分類ガイダンス(令和3年度改訂版(Ver2.1))を使用 ※一部、ガイダンスVer.1.0 (GHS 4版, JIS Z7252:2014)
物理化学的危険性-
健康に対する有害性皮膚感作性区分1
生殖毒性区分1B
特定標的臓器毒性
(単回ばく露)
区分3(気道刺激性)
特定標的臓器毒性
(反復ばく露)
区分1(呼吸器)
分類実施日
(環境有害性)
ガイダンスVer.1.0 (GHS 4版, JIS Z7252:2014)
環境に対する有害性水生環境有害性 短期(急性)区分1
水生環境有害性 長期(慢性)区分2
GHSラベル要素
絵表示感嘆符健康有害性環境
注意喚起語危険
危険有害性情報アレルギー性皮膚反応を起こすおそれ
生殖能又は胎児への悪影響のおそれ
呼吸器への刺激のおそれ
長期にわたる、又は反復ばく露による呼吸器の障害
水生生物に非常に強い毒性
長期継続的影響により水生生物に毒性
注意書き
 安全対策粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーの吸入を避けること。
汚染された作業衣は作業場から出さないこと。
保護手袋/保護衣/保護眼鏡/保護面を着用すること。
使用前に取扱説明書を入手すること。
全ての安全注意を読み理解するまで取り扱わないこと。
屋外又は換気の良い場所でだけ使用すること。
粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。
取扱い後は手をよく洗うこと。
この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。
環境への放出を避けること。
 応急措置皮膚に付着した場合:多量の水/石けん(鹸)で洗うこと。
皮膚刺激又は発しん(疹)が生じた場合:医師の診察/手当てを受けること。
特別な処置が必要である(このラベルの・・・を見よ)。
注) ”…”は、ラベルに解毒剤等中毒時の情報提供を受けるための連絡先などが記載されている場合のものです。ラベル作成時には、”…”を適切に置き換えてください。
汚染された衣類を脱ぎ、再使用する場合には洗濯をすること。
ばく露又はばく露の懸念がある場合:医師の診察/手当てを受けること。
吸入した場合:空気の新鮮な場所に移し、呼吸しやすい姿勢で休息させること。
気分が悪いときは医師に連絡すること。
気分が悪いときは、医師の診察/手当てを受けること。
漏出物を回収すること。
 保管施錠して保管すること。
換気の良い場所で保管すること。容器を密閉しておくこと。
 廃棄内容物/容器を都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に依頼して廃棄すること。
他の危険有害性情報なし

3.組成及び成分情報
化学物質・混合物の区別化学物質
化学名又は一般名フタル酸ジ-n-ブチル
慣用名又は別名ジブタン−1−イル=フタラート
英語名Di-n-butyl phthalate
濃度又は濃度範囲情報なし
分子式 (分子量)C16H22O4 (278.35)
化学特性 (示性式又は構造式)構造式
CAS番号84-74-2
官報公示整理番号(化審法)3-1303
官報公示整理番号(安衛法)情報なし
GHS分類に寄与する成分(不純物及び安定化添加物も含む)情報なし

4.応急措置
吸入した場合新鮮な空気のある場所に移動させる。呼吸困難な場合は酸素吸入をさせる。医師の診察/手当てを受けること。
以上、GESTIS参照。
皮膚に付着した場合汚染された衣服を脱がせる。直ちに、皮膚に付着した部分を流水で十分に洗浄する。医師の診察/手当てを受けること。
以上、GESTIS参照。
眼に入った場合流水で10分間洗浄する。医師の診察/手当てを受けること。
以上、GESTIS参照。
飲み込んだ場合口をすすぐ。負傷者に意識がある場合は、コップ1杯の水(約200ml)を飲ませる。大さじ3杯の炭をコップ1杯の水に混ぜて飲ませる。無理に吐かせない。医師の診察/手当てを受けること。
以上、GESTIS参照。
急性症状及び遅発性症状の最も重要な徴候症状吸入:高温の蒸気またはエアロゾルは、鼻または咽頭粘膜の刺激および気管支炎を引き起こす可能性。
眼:軽い刺激、流涙、痛みの可能性。
皮膚:軽い刺激。
経口摂取:吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、めまいの可能性。
吸収:非常に高用量を経口摂取すると、腎臓の機能障害、流涙、光に対する感受性、角膜損傷、頭痛などの目の炎症が起こる可能性。
以上、GESTIS参照。
応急措置をする者の保護に必要な注意事項情報なし
医師に対する特別な注意事項情報なし

5.火災時の措置
適切な消火剤水噴霧、粉末消火薬剤、二酸化炭素。大規模火災には耐アルコール泡消火薬剤、水噴霧。
以上、GESTIS参照。
使ってはならない消火剤棒状注水
以上、GESTIS参照。
火災時の特有の危険有害性火災の場合、有害物質(一酸化炭素、二酸化炭素)が放出される可能性がある。
以上、GESTIS参照。
特有の消火方法周囲の容器を水スプレーで冷却する。可能であれば、容器を危険区域外に持ち出す。加熱により圧力が上昇し破裂する恐れがある。着火源となるものを遮断する。バックファイヤーに注意する。防爆機器を使用する。
以上、GESTIS参照。
消火を行う者の特別な保護具及び予防措置消火作業の際は、適切な自給式の呼吸器用保護具、眼や皮膚を保護する防護服 (耐熱性) を着用する。

6.漏出時の措置
人体に対する注意事項、保護具及び緊急措置周囲に注意喚起し、避難させる。漏出区域に入るときは保護具を着用すること。
以上、GESTIS参照。
環境に対する注意事項水域に対する危険性は大きい。地面や河川、下水への流出を避ける。少量でも流出した場合は、自治体に連絡する。
以上、GESTIS参照。
封じ込め及び浄化の方法及び機材こぼれた液体を吸収剤(例:珪藻土、バーミキュライト、砂)で吸収し、規則に従って廃棄する。その後、換気し、漏出した場所を洗浄する。
以上、GESTIS参照。
二次災害の防止策情報なし

7.取扱い及び保管上の注意
取扱い
技術的対策「8. ばく露防止及び保護措置」に記載の措置を行い、必要に応じて保護具を着用する。
安全取扱注意事項容器を開けたままにしない。飛沫を避ける。床への浸透を避ける(鉄製パンの使用)。使用前に取扱説明書を入手する。すべての安全注意を読み理解するまで取り扱わない。
機器類は防爆構造とし、設備は静電気対策を実施する。
周辺での高温物、スパーク、火気の使用を禁止する。
静電気放電に対する予防措置を講ずること。
以上、GESTIS、GHS分類結果参照。
接触回避「10. 安全性及び反応性」を参照。
衛生対策皮膚への接触を避ける。接触した場合は洗浄する。蒸気やミストの吸入を避ける。汚染された作業衣は作業場から出さないこと。休憩前や作業終了時には石鹸と水で皮膚を洗い、洗浄後は脂肪分の多いスキンケア製品を塗布する。使用するときには飲食、喫煙をしないこと。
以上、GESTIS、GHS分類結果参照。
保管
安全な保管条件施錠して保管する。容器を密閉して涼しくて乾燥した換気の良い場所に保管する。内容物を窒素ガス下で保管する。強酸化剤から離しておく。
以上、GESTIS、ICSC、GHS分類結果参照。
安全な容器包装材料消防法及び国連輸送法規で規定されている容器を使用する。

8.ばく露防止及び保護措置
許容濃度等については日本産衛学会の「許容濃度の勧告」及びACGHIの「TLVs and BEIs」について記載しています。
管理濃度未設定
許容濃度等
日本産衛学会(2022年版)許容濃度: 5 mg/m3
ACGIH(2022年版)TLV-TWA: 5 mg/m3
設備対策作業場所には適切な局所排気装置等を設置する。排出された空気は作業場所に戻さない。取り扱い場所の近くに洗浄のための設備を設けること。床に排水溝を設けないこと。
以上、GESTIS参照。
保護具
呼吸用保護具緊急時(例:意図しない物質の放出、ばく露限界値を超える場合)には、呼吸保護具を着用する。
状況に応じた適切な呼吸用保護具を使用する。
防毒マスクの選択については、以下の点に留意する。
-防毒マスクは、日本工業規格(JIS T8152)に適合した、作業に適した性能及び構造のものを選ぶ。その際、取扱説明書等に記載されているデータを参考にする。
-濃度に対応した・・・用吸収缶を使用する
注) ”…”は、物質に対応した吸収缶を記載します。SDS作成時には、”…”を適切に置き換えてください。
-作業者が粉じんにばく露される環境で防毒マスクを使用する場合には、防じん機能付き吸収缶を使用する
-酸素濃度が18%未満の場所では使用しない。
以上、GESTIS参照。
手の保護具保護手袋を着用する。ニトリルゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、PVCが適している。2時間未満では天然ゴムも可。クロロプレンは適さない。
以上、GESTIS参照。
眼の保護具サイドガード付きの保護眼鏡を着用する。
以上、GESTIS参照。
皮膚及び身体の保護具必要に応じて適切な保護衣または化学防護服を着用する。
以上、GESTIS参照。

9.物理的及び化学的性質
物理的状態
物理状態液体 (20℃、1気圧) (GHS判定)
特徴的な臭気
臭い無色〜黄色
融点/凝固点-35 ℃(GESTIS(2022))
340〜℃ (GESTIS(2022))
沸点、初留点及び沸騰範囲データなし
可燃性データなし
爆発下限界及び爆発上限界/可燃限界0.47〜1.97 vol.%(GESTIS(2022))
引火点157 ℃(Closed cup)(GESTIS(2022))
自然発火点400 ℃(GESTIS(2022))
分解温度データなし
pHデータなし
動粘性率データなし
溶解度水: 0.01 g/L(20℃)(GESTIS(2022))
n-オクタノール/水分配係数log Kow: 4.72(GESTIS(2022))
蒸気圧<0.1 Pa(GESTIS(2022))
密度及び/又は相対密度1.05 g/cm3(20℃)(GESTIS(2022))
相対ガス密度データなし
粒子特性データなし

10.安定性及び反応性
反応性「危険有害反応可能性」を参照。
化学的安定性情報なし
危険有害反応可能性燃焼ると、分解する。 有毒で刺激性のフューム(無水フタル酸)を生じる。 強酸化剤と反応する。
避けるべき条件情報なし
混触危険物質強酸化剤、塩基、酸、塩素、硝酸塩
危険有害な分解生成物無水フタル酸、一酸化炭素

11.有害性情報
急性毒性
経口ラットに対する経口投与のLD50 = 6,300 mg/kg(EU-RAR(2004))、8,000 mg/kg(EU-RAR(2004), PATTY(6th, 2012))に基づき、区分外とした。なお、23歳の男性労働者がおよそ10 gを誤飲したヒト事例において、嘔吐、めまい、数時間後に流涙、眼の痛みを生じ、重度の角膜炎を生じた。尿検査で、顕微血尿、シュウ酸結晶、白血球が認められた(EU-RAR(2004))との記載がある。
経皮ウサギに対する経皮投与のLD50 ≧4,000 mg/kg(EHC 189(1997))、> 20,000 mg/kg(EU-RAR(2004)、PATTY(6th, 2012)、NITE 初期リスク評価書(2005))に基づいて、区分外とした。
吸入: ガスGHSの定義における液体である。
吸入: 蒸気データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミストラットにおけるLC50(ミスト)≧15.68 mg/L(EU-RAR(2004))に基づいて、区分外とした。なお、エアロゾル吸入試験によるとの記載に基づき、分類にはミストとして mg/Lを単位とする基準値を適用した。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性NITE 初期リスク評価書(2005)、EU-RAR(2003)には、皮膚刺激性がみられたとの記載があるが、EU-RAR(2003)の補遺EU-RAR(2004)(Addendum to the Environmental Section)にて、OECD TG404に準拠した試験で刺激性となしの結果が記載され、補遺 EU-RAR(2004)の結論として刺激性なしとしていることから、区分外(国連分類基準の区分3)とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性NITE 初期リスク評価書(2005)、EU-RAR(2003)には、眼刺激性がみられ、48又は72時間後に回復しているとの記載があるが、EU-RAR(2003)の補遺EU-RAR(2004)(Addendum to the Environmental Section)にて、OECD TG405に準拠した試験で刺激性となしの結果が記載され、補遺EU-RAR(2004)の結論として刺激性なしとしていることから、区分外(国連分類基準の区分3)とした。
呼吸器感作性データ不足のため分類できない。
皮膚感作性EU-RAR(2004)、EHC 189(1997)の記述から、動物実験ではフタル酸ジブチルは皮膚感作性を示していないが、ヒトの事例研究から陽性を示唆する結果があり、産衛学会勧告(2012)は皮膚感作性を第2群に、日本職業・環境アレルギー学会特設委員会(2004)は皮膚感作性有りに分類しているため、区分1とした。
生殖細胞変異原性分類ガイダンスの改訂により、「区分外」が選択できなくなったため、「分類できない」とした。すなわち、In vivoでは、マウスの末梢血赤血球を用いる小核試験で陰性の結果が報告されている(NITE 初期リスク評価書(2005)、 EHC 189(1997)、EU-RAR(2004))。さらに、in vitroでは、細菌を用いる復帰突然変異試験の1例で代謝活性化系非存在下のTA100において陽性がみられているが、その他の復帰突然変異試験ではすべて陰性である。また、哺乳類培養細胞を用いる染色体異常試験も陰性である。哺乳類培養細胞を用いるマウスリンフォーマ試験では陰性及び陽性結果が認められるものの、EU-RAR(2004)、EHC 189(1997)、SIDS(2001)、CaPSAR(1994)では、本物質は変異原性なしと結論している。
発がん性【分類根拠】
(1)〜(5)より、本物質の類似物質のDEHP(フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)CAS登録番号:117-81-7)の肝臓等への腫瘍誘発性も未解明な部分が多く確定的ではないと考えられ、DBPについては既存知見から肝臓、精巣等への腫瘍誘発を示唆する証拠はない。(6)、(7)より、ヒトについて発がん性を懸念すべき報告はこれまでないため、データ不足のため分類できない。

【根拠データ】
(1)本物質(フタル酸ジ−n−ブチル(DBP)CAS登録番号:84-74-2)の実験動物を用いた十分な発がん性試験報告はない(EU RAR (2004)、NICNAS (2013)、食安委 器具・容器包装評価書 (2014))。
(2)DBPと類似の構造を持つDEHPにはげっ歯類への肝発がん作用が知られ、DEHPのげっ歯類における肝発がんの主要な作用機序は当初はPPARαを介した経路によると考えられ、DBPにもげっ歯類へのペルオキシゾーム増殖活性が認められることから、より高用量、長期間のDBP 投与によりげっ歯類に肝発がんを引き起こす可能性も考えられた(食安委 器具・容器包装評価書 (2014)、NICNAS (2013))。
(3)その後の研究動向からDEHPの肝発がん作用機序についてのPPARαの関与はげっ歯類特異的でヒトには当てはまらないとされ、IARCはDEHPの発がん分類をグループ3に変更した(IARC 77 (2000))。なお、DEHPの肝発がんについてはPPARα以外の核内受容体(CAR、PXR等)の関与も示唆されており、IARCは発がん分類を当初(IARC Suppl. 7 (1987))のグループ2Bに再び戻した(IARC 103 (2013))。このように、DEHPのげっ歯類の肝発がん作用機序もヒトへの外挿性についても未だ明らかではない。
(4)DEHPでは、肝臓腫瘍以外に、ラットの発がん性試験で精巣間細胞(ライデッヒ)腫瘍の増加が報告された。しかし、精巣腫瘍の報告はラットの1試験のみで、ラットを用いた複数の他試験を含め、マウス、モルモット、イヌを用いた多くの試験で確認されていない(ATSDR (2022))。
(5)国内外の評価機関による本物質の既存分類では、EPAでグループDに分類されているだけである(IRIS (1990))。
(6)近年、DBPの主要な尿中代謝物であるMBPの尿中濃度をDBPばく露の指標として、様々な影響指標との関連を調べた疫学調査が実施されており、最近10年ほどの間に比較的多数の報告が公表されている。主な調査結果は生殖・発生及び神経発達への影響に関するものであった(食安委 器具・容器包装評価書 (2014))。
(7)北メキシコに在住する女性で乳がんと診断された症例群233名(平均53.4 歳)と年齢をマッチさせた対照群221名(平均53.8 歳)による症例対照研究において、治療開始前の早朝尿中の9種類のフタル酸エステル代謝物濃度と乳がんとの関係が調査された結果、MBP(DBP代謝物)尿中濃度と乳がんのオッズ比や用量反応関係に有意な関連はみられなかった(食安委 器具・容器包装評価書 (2014))。
生殖毒性NITE 初期リスク評価書(2005)の記述から、ラット及びマウスに経口(混餌)投与した生殖毒性試験でF0の生殖能低下、精巣の萎縮、精子生産能の低下、妊娠中期の流産、出産児数(率)の低下がみられ、また、妊娠ラット及びマウスに経口(強制または混餌)投与した複数の発生毒性試験で胎児、児動物に奇形(外表奇形、骨格奇形)が見られ、さらに、ラットでは次世代雄の精巣及び副生殖腺の発生異常が見られている。ラットの生殖毒性及びラット、マウスにおける発生毒性影響の多くは親動物に体重増加抑制、肝臓重量増加などの一般毒性影響がみられない用量から発現している。したがって、分類ガイダンスに従い区分1Bに分類した。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)マウスに吸入ばく露(エアロゾル)した試験で、250 mg/m3(ガイダンス値換算: 0.125 mg/L/4hr)で上気道刺激、呼吸抑制症状などがみられており(ACGIH(7th, 2001))、区分3(気道刺激性)に分類した。なお、旧分類では区分1(腎臓)も分類に採用していたが、ヒトの腎臓への影響に関する報告は1例のみの症例報告であり、ヒトの神経系への影響は本物質による影響と結論できない(NITE 初期リスク評価書(2005))など、ヒトへの影響に関して分類に用いるのに適切なデータはないと判断した。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)ラットの4週間吸入(エアロゾル)ばく露試験で、区分1のガイダンス値の範囲内の低濃度(118 mg/m3: ガイダンス値換算濃度: 0.00036 mg/L/6 hr)から、局所影響として鼻腔粘膜細胞の過形成及び喉頭の扁平上皮化生が認められたとの記述(EU-RAR(2004))があり、区分1(呼吸器)に分類した。経口投与ではマウス及びラットのいずれの試験も区分2のガイダンス値を超える高用量(238 mg/kg/day以上)で、肝臓、血液、精巣などに有害性影響が見られた(NITE 初期リスク評価書(2005))。したがって、区分1(呼吸器)とした。なお、ヒトへの影響に関して信頼できる報告はない。また、旧分類の区分2(肝臓)は旧分類で分類根拠を示しておらず、今回も標的臓器に含まれないことを確認したため、削除した。
誤えん有害性*データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。

12.環境影響情報
生態毒性
水生環境有害性 短期(急性)魚類(イエローパーチ)の96時間LC50 = 0.35 mg/L(NITE初期リスク評価, 2005; CEPA, 1994; EU-RAR, 2003; EHC 189, 1997)から区分1とした。
水生環境有害性 長期(慢性)急速分解性があり(28日間BOD分解度=69%(既存点検, 1975)、BOD5:COD ratio = 0.63(EU-RAR, 2003))、甲殻類(ヨコエビ科の一種)の10日間NOEC = 0.10 mg/L(NITE初期リスク評価, 2005他)、魚類(ニジマス)の99日間NOEC = 0.10 mg/L(NITE初期リスク評価, 2005他)であることから、区分2とした。
残留性・分解性化審法分解度試験:良分解性(化学物質安全性点検結果等(分解性・蓄積性))
生態蓄積性化審法分解度試験:低濃縮性(化学物質安全性点検結果等(分解性・蓄積性))
土壌中の移動性情報なし
オゾン層への有害性当該物質はモントリオール議定書の附属書に列記されていない。

13.廃棄上の注意
化学品(残余廃棄物)、当該化学品が付着している汚染容器及び包装の安全で、かつ、環境上望ましい廃棄、又はリサイクルに関する情報廃棄においては、関連法規ならびに地方自治体の基準に従うこと。
都道府県知事などの許可を受けた産業廃棄物処理業者、もしくは地方公共団体がその処理を行っている場合にはそこに委託して処理する。
廃棄物の処理を委託する場合、処理業者等に危険性、有害性を十分告知の上処理を委託する。
容器は洗浄してリサイクルするか、関連法規制並びに地方自治体の基準に従って適切な処分を行う。
空容器を廃棄する場合は、内容物を完全に除去すること。

14.輸送上の注意
本物質のGHS分類結果に基づく国際規制の分類等は、以下の通りと推定されるが、該否は製品によって異なる場合がある。輸送危険物の分類は、容器等級を含め、荷送人が責任をもって判断することとされているため、輸送の際には、個々の貨物について、製品の状態、形状等も考慮し、輸送モード (航空、船舶) を規制する法規に沿って事業者が判断する必要がある。
国際規制
国連番号3082
品名(国連輸送名)環境有害物質(液体)、n.o.s.
国連分類9
副次危険-
容器等級V
海洋汚染物質該当
MARPOL73/78附属書U及びIBCコードによるばら積み輸送される液体物質利用可能な情報なし(タンカー等でバルク輸送する場合は該当)
国内規制
海上規制情報船舶安全法の規定に従う。
航空規制情報航空法の規定に従う。
陸上規制情報消防法の規定に従う。
特別な安全上の対策消防法の規定によるイエローカード携行の対象物
その他 (一般的) 注意輸送に際しては、直射日光を避け、容器の破損、腐食、漏れのないように積み込み、荷崩れの防止を確実に行う。
重量物を上積みしない。
緊急時応急措置指針番号*171
* 北米緊急時応急措置指針に基づく。米国運輸省が中心となって発行した「2020 Emengency Response Guidebook (ERG 2020)」(一般社団法人日本化学工業協会によって和訳されている(発行元:日本規格協会)に掲載されている。

15.適用法令
法規制情報は作成年月日時点に基づいて記載されております。事業場において記載するに当たっては、最新情報を確認してください。
労働安全衛生法名称等を表示すべき危険物及び有害物(法第57条第1項、施行令第18条第1号、第2号別表第9)
名称等を通知すべき危険物及び有害物(法第57条の2、施行令第18条の2第1号、第2号別表第9)、リスクアセスメント対象物(法第57の3)
作業場内表示義務(法第101条の4)
化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)第一種指定化学物質(法第2条第2項、施行令第1条別表第1)
毒物及び劇物取締法該当しない
消防法第4類 引火性液体 第三石油類 非水溶性(法第2条第7項危険物別表第1・第4類)
大気汚染防止法有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質(中央環境審議会第9次答申)
海洋汚染防止法有害液体物質(X類物質)(施行令別表第1)【フタル酸ジブチル】
船舶安全法有害性物質(危規則第3条危険物告示別表第1)
航空法有害性物質(施行規則第194条危険物告示別表第1)

16.その他の情報
参考文献
9項、11項については各データ毎に記載。その他の各項については以下を参照。
・NITE化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP)
・International Chemical Safety Cards (ICSC)
・Hazardous Substances Data Bank (HSDB)
・GESTIS Substance database (GESTIS)
・ERG 2020版 緊急時応急措置指針−容器イエローカードへの適用
・一般社団法人日本化学工業協会 編「GHS対応ガイドライン ラベル及び表示・安全デ−タシ−ト作成指針」
R5.3.31: 発がん性項目を見直した。