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安全データシート
(JIS Z7253:2019準拠)
フタル酸ジイソノニル (DINP)(別名:フタル酸ジノニル)
作成日 2017年3月17日
改訂日 2023年3月31日
1.化学品及び会社情報
化学品の名称フタル酸ジイソノニル (DINP)(別名:フタル酸ジノニル)
化学品の英語名称Diisononyl phthalate
製品コードR04-C-015-JNIOSH
供給者の会社名○○○○株式会社
住所東京都△△区△△町△丁目△△番地
電話番号03-1234-5678
ファクシミリ番号03-1234-5678
電子メールアドレス連絡先@検セ.or.jp
緊急連絡電話番号03-1234-5678
推奨用途及び使用上の制限可塑剤 (NITE-CHRIPより引用)

2.危険有害性の要約
GHS分類
分類実施日
(物化危険性及び健康有害性)
R5.3.31、政府向けGHS分類ガイダンス(令和3年度改訂版(Ver2.1))を使用 ※一部、ガイダンスVer.1.1 (GHS 4版, JIS Z7252:2014)
物理化学的危険性-
健康に対する有害性生殖毒性区分2
分類実施日
(環境有害性)
ガイダンスVer.1.1 (GHS 4版, JIS Z7252:2014)
環境に対する有害性-
GHSラベル要素
絵表示健康有害性
注意喚起語警告
危険有害性情報生殖能又は胎児への悪影響のおそれの疑い
注意書き
 安全対策使用前に取扱説明書を入手すること。
全ての安全注意を読み理解するまで取り扱わないこと。
保護手袋/保護衣/保護眼鏡/保護面を着用すること。
 応急措置ばく露又はばく露の懸念がある場合:医師の診察/手当てを受けること。
 保管施錠して保管すること。
 廃棄内容物/容器を都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に依頼して廃棄すること。
他の危険有害性情報なし

3.組成及び成分情報
化学物質・混合物の区別化学物質
化学名又は一般名フタル酸ジイソノニル
慣用名又は別名フタル酸ジノニル
英語名Diisononyl phthalate
dinonyl phthalate
濃度又は濃度範囲情報なし
分子式 (分子量)C26H42O4 (CAS 28553-12-0) (418.62 (CAS 28553-12-0))
化学特性 (示性式又は構造式)構造式
CAS番号68515-48-0,28553-12-0
官報公示整理番号(化審法)3-1307
官報公示整理番号(安衛法)情報なし
GHS分類に寄与する成分(不純物及び安定化添加物も含む)情報なし

4.応急措置
吸入した場合新鮮な空気のある場所に移動し、呼吸しやすい姿勢で休息させる。呼吸困難な場合は酸素吸入をさせる。医師の診察/手当てを受けること。
以上、GESTIS参照。
皮膚に付着した場合汚染された衣服を脱がせる。皮膚に付着した部分を石鹸と多量の水で十分に洗浄する。医師の診察を受けること。
以上、GESTIS参照。
眼に入った場合流水で10分間洗浄する。医師の診察/手当てを受けること。
以上、GESTIS参照。
飲み込んだ場合口をすすぐ。負傷者に意識がある場合は、コップ1杯の水(約200ml)を飲ませる。無理に吐かせない。医師の診察/手当てを受けること。
以上、GESTIS参照。
急性症状及び遅発性症状の最も重要な徴候症状吸入:鼻および咽頭粘膜の炎症および気管支炎。
皮膚:刺激なし。
眼:刺激なし。
経口摂取:吐き気、嘔吐、下痢、腹痛の可能性。
吸収:非常に高用量の経口摂取は腎機能障害と中枢神経系への抑圧作用を引き起こす可能性。
以上、GESTIS参照。
応急措置をする者の保護に必要な注意事項情報なし
医師に対する特別な注意事項情報なし

5.火災時の措置
適切な消火剤水噴霧、粉末消火薬剤、泡消火薬剤、二酸化炭素
以上、GESTIS参照。
使ってはならない消火剤棒状注水
以上、GESTIS参照。
火災時の特有の危険有害性火災の場合、有害物質(一酸化炭素、二酸化炭素)が放出される可能性がある。
以上、GESTIS参照。
特有の消火方法周囲の容器を水スプレーで冷却する。可能であれば、容器を危険区域外に持ち出す。着火源となるものを遮断する。
以上、GESTIS参照。
消火を行う者の特別な保護具及び予防措置消火作業の際は、適切な自給式の呼吸器用保護具、眼や皮膚を保護する防護服 (耐熱性) を着用する。

6.漏出時の措置
人体に対する注意事項、保護具及び緊急措置保護具を着用する。
以上、GHS分類結果
環境に対する注意事項水域に対する危険性は低い。非常に多量に水、排水、下水、または地中に入った場合は、自治体に連絡する。
以上、GESTIS参照。
封じ込め及び浄化の方法及び機材こぼれた液体を吸収剤(例:珪藻土、バーミキュライト、砂)で吸収し、規則に従って廃棄する。その後、換気し、漏出した場所を洗浄する。
以上、GESTIS参照。
二次災害の防止策情報なし

7.取扱い及び保管上の注意
取扱い
技術的対策「8. ばく露防止及び保護措置」に記載の措置を行い、必要に応じて保護具を着用する。
安全取扱注意事項容器を開けたままにしない。使用前に取扱説明書を入手する。すべての安全注意を読み理解するまで取り扱わない。使用時は十分な換気をすること。
機器類は防爆構造とし、設備は静電気対策を実施する。
周辺での高温物、スパーク、火気の使用を禁止する。
静電気放電に対する予防措置を講ずること。
以上、GESTIS、GHS分類結果参照。
接触回避「10. 安全性及び反応性」を参照。
衛生対策休憩前や作業終了時には石鹸と水で皮膚を洗い、洗浄後は脂肪分の多いスキンケア製品を塗布する。
以上、GESTIS参照。
保管
安全な保管条件施錠して保管する。容器を密閉して室温の乾燥した場所に保管する。
以上、GESTIS、GHS分類結果参照。
安全な容器包装材料消防法で規定されている容器を使用する。

8.ばく露防止及び保護措置
許容濃度等については日本産衛学会の「許容濃度の勧告」及びACGHIの「TLVs and BEIs」について記載しています。
管理濃度未設定
許容濃度等
日本産衛学会(2022年版)第3種粉じん: その他の無機及び有機粉じん*
吸入性粉じん: 2 mg/m3
総粉じん: 8 mg/m3
* 多量の粉じんの吸入によるじん肺を予防する観点から、この値以下とすることが望ましいとされる濃度。
ACGIH(2022年版)PNOS* TLV: 3 mg/m3 (Respirable particles)
PNOS* TLV: 10 mg/m3 (Inhalable particles)
* Particles (insoluble or poorly soluble) Not Otherwise Specified
設備対策作業場所には適切な局所排気装置等を設置する。取り扱い場所の近くに洗浄のための設備を設ける。
以上、GESTIS参照。
保護具
呼吸用保護具緊急時(例:意図しない物質の放出)には、呼吸保護具を着用する。
状況に応じた適切な呼吸用保護具を使用する。
防毒マスクの選択については、以下の点に留意する。
-防毒マスクは、日本工業規格(JIS T8152)に適合した、作業に適した性能及び構造のものを選ぶ。その際、取扱説明書等に記載されているデータを参考にする。
-濃度に対応した・・・用吸収缶を使用する
注) ”…”は、物質に対応した吸収缶を記載します。SDS作成時には、”…”を適切に置き換えてください。
-作業者が粉じんにばく露される環境で防毒マスクを使用する場合には、防じん機能付き吸収缶を使用する
-酸素濃度が18%未満の場所では使用しない。
以上、GESTIS参照。
手の保護具保護手袋を着用する。
以上、GESTIS参照。
眼の保護具サイドガード付きの保護眼鏡を着用する。
以上、GESTIS参照。
皮膚及び身体の保護具エプロンまたは白衣を着用する。
以上、GESTIS参照。

9.物理的及び化学的性質
物理的状態
物理状態液体 (20℃、1気圧) (GHS判定)
無色
臭いデータなし
融点/凝固点-48 ℃(GESTIS(2022))
-43 ℃(ICSC(2018))
沸点、初留点及び沸騰範囲253〜267 ℃(7 hPa)(GESTIS(2022))
244〜252 ℃(0.7kPa)(ICSC(2018))
可燃性難燃性(GESTIS(2023))
爆発下限界及び爆発上限界/可燃限界0.4〜2.9 vol.%(GESTIS(2022),ICSC(2018))
引火点240 ℃(GESTIS(2022))
221 ℃(c.c.)(ICSC(2018))
自然発火点375 ℃(GESTIS(2022))
380 ℃(ICSC(2018))
分解温度データなし
pHデータなし
動粘性率77.6 mm2/s(20℃)(ICSC(2018))
溶解度水: <0.1 mg/L(20℃)(GESTIS(2022))
水: <0.01 g/100 mL(20℃)(ICSC(2018))
n-オクタノール/水分配係数log Pow: 8.8(ICSC(2018))
蒸気圧<0.1 Pa(室温)(GESTIS(2022))
<0.01 Pa(20℃)(ICSC(2018))
密度及び/又は相対密度0.97 g/cm3(20℃)(GESTIS(2022))
0.98 (ICSC(2018))
相対ガス密度データなし
粒子特性データなし

10.安定性及び反応性
反応性「危険有害反応可能性」を参照。
化学的安定性情報なし
危険有害反応可能性火災の場合、有害物質が放出される可能性があります。一酸化炭素
避けるべき条件火気、加熱、高温、静電気、爆発性混合気の形成。
混触危険物質強酸化性物質
危険有害な分解生成物一酸化炭素

11.有害性情報
急性毒性
経口ラットのLD50値として、> 9,800 mg/kg (EU-RAR (2003)、食品安全委員会 (2015)、HSDB (Access on August 2016))、> 10,000 mg/kg (EU-RAR (2003)、NICNAS (2012)、PATTY (6th, 2012)、食品安全委員会 (2015)、HSDB (Access on August 2016))、> 40,000 mg/kg、> 50,000 mg/kg (EU-RAR (2003)、NICNAS (2012)、食品安全委員会 (2015)) との4件の報告に基づき、区分外とした。
経皮ウサギのLD50値として、> 3,160 mg/kg (EU-RAR (2003)、NICNAS (2012)、PATTY (6th, 2012)、食品安全委員会 (2015)、HSDB (Access on August 2016)) の報告に基づき、区分外 (国連分類基準の区分5) とした。
吸入: ガスGHSの定義における液体である。
吸入: 蒸気データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミストデータ不足のため分類できない。
ラットのLC50値 (4時間) として、> 0.067 mg/L、> 0.07 mg/L (EU-RAR (2003)、食品安全委員会 (2015))、> 4.4 mg/L (EU-RAR (2003)、NICNAS (2012)、食品安全委員会 (2015)) の3件の報告があるが、これらの値のみからは区分を特定することができないため、分類できないとした。なお、これらのLC50値は飽和蒸気圧濃度 (11.2 ng/L) より高いため、ミストとしてmg/Lを単位とする基準値を適用した。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性ウサギの皮膚刺激性試験 (OECD TG 404、4時間貼付) では、24時間後にごく軽度の紅斑 (スコア1) がみられたが48時間後には消失した。24時間閉塞適用した過酷条件の試験でも一過性の軽度の紅斑、浮腫が発現したが、速やかに消失しており、いずれも平均スコアは1.0を下回っていた (EU-RAR (2003)、NICNAS (2012))。また、ボランティアによるヒトのパッチテストでも皮膚刺激性は認められなかった (EU-RAR (2003)、NICNAS (2012))。これらの結果から皮膚刺激性はごく軽度と結論されており (EU-RAR (2003)、NICNAS (2012))、区分外とした。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性ウサギの眼刺激性試験 (OECD TG 405)では、1時間後にごく軽度から中等度の結膜潮紅 (スコア4.3) がみられたが、24時間後には軽減し (スコア0.33)、以降は消失した。その他、ウサギの眼刺激性試験 (2試験) においても、一過性の結膜発赤あるいは分泌物がみられたが、48時間以降は消失した (EU-RAR (2003)、NICNAS (2012))。これらの結果から眼刺激性はごく軽度と結論され (EU-RAR (2003)、NICNAS (2012))、区分外とした。
呼吸器感作性データ不足のため分類できない。
皮膚感作性モルモットの皮膚感作性試験 (ビューラー法) では、2週間後の誘発では陰性であったが、3週間後の再誘発では20例中14例に軽度の紅斑がみられ、1例に軽度の浮腫が認められたころから、弱い感作性が示唆された (EU-RAR (2003)、NICNAS (2012))。一方、その他のモルモット皮膚感作性試験 (ビューラー法) では陰性であった (EU-RAR (2003)、NICNAS (2012))。また、ボランティアによるヒトのパッチテストでは28人を対象としたパイロット試験および76人を対象とした本試験のいずれも皮膚反応は認められなかった (EU-RAR (2003)、NICNAS (2012))。相反する結果が得られていることから分類できないとした。
生殖細胞変異原性In vivoでは、ラット骨髄細胞の染色体異常試験で陰性 (NICNAS (2012)、EU-RAR (2003))、in vitroでは、細菌の復帰突然変異試験、哺乳類培養細胞のマウスリンフォーマ試験、染色体異常試験で陰性である (NICNAS (2012)、EU-RAR (2003)、NTP DB (Access on July 2016))。以上より、分類できないとした。
発がん性ラット又はマウスに2年間混餌投与した発がん性試験において、肝細胞がんなど肝臓腫瘍の発生頻度の増加がみられたが、ペルオキシソーム増殖によるものと考えられている (EU-RAR (2003)、NICNAS (2012)、PATTY (6th, 2012))。DEHP (フタル酸ビス (2-エチルヘキシル)) を用いた研究からペルオキシソーム増殖を介する機序による肝臓腫瘍誘発はげっ歯類特異的な現象でヒトでは生じないと考えられている (EU-RAR (2003))。また、Fischer 344 ラットを用いた2つの2年間混餌投与試験で単核細胞白血病 (MNCL) が認められたが、MNCLはこの系統のラットでよく生じる腫瘍で、IARCがMNCLをヒトで対応する白血病型が不明の分類不能の白血病としており、ヒトへの外挿可能性は低いと結論されている (EU-RAR (2003)、NICNAS (2012)、PATTY (6th, 2012))。この他、雄ラットの1試験で腎尿細管腫瘍がみられたが、α2uグロブリン介在性の機序によるもので、ヒトには当てはまらないとされている (EU-RAR (2003)、NICNAS (2012)、PATTY (6th, 2012))。以上、実験動物では肝臓、腎臓の腫瘍、及び白血病が認められたが、いずれも実験動物特異的でヒトには当てはまらないと考えられている。すなわち、本物質のヒト発がん性については依然不明であり、本項は分類できないとした。
生殖毒性【分類根拠】
本物質は、o-フタル酸のC9 を中心としたC8〜C10 分岐鎖ジアルキルエステルの混合物であり、3種類のDINP(DINP-1(CAS登録番号:68515-48-0)、DINP-2及びDINP-3(CAS登録番号:28553-12-0))が存在するが、(1)より、3種を区別せずに分類に利用した。(2)〜(9)より、受胎能への有害影響はみられなかったが、発生影響として主に骨格・内臓変異、雄児の精子及び生殖器の発達障害や、親動物の一般毒性用量で体重低値、出生率及び生存率の低下がみられたことから区分2とした。なお、旧分類の分類時点ではEUでは区分1Bが提案されていたが、その後RACは区分に該当しない判断を公表したことから、生殖毒性を検討して見直したが分類結果に変更はない(2022年度)。


【根拠データ】
(1)DINP-1(CAS登録番号:68515-48-0)、DINP-2(CAS登録番号:28553-12-0)及びDINP-3(CAS登録番号:28553-12-0)について、比較可能な試験結果などから、動物体内において毒性学的影響に大きな差異がなく、3 種を区別せずに評価することが適当と判断した。(食安委 器具・容器包装評価書 (2015))
(2)DINP(CAS登録番号:68515-48-0)について、ラットを用いた混餌投与による一世代生殖毒性試験において、F0雌雄親動物に体重低下及び精巣重量増加/卵巣重量減少がみられる高用量では、F1の出生率減少、授乳期(生後4、14日)及び離乳時(生後21日)の生存率低下がみられたとの報告がある(食安委 器具・容器包装評価書 (2015)、EU CLP CLH (2018)、NICNAS PEC (2012))。
(3)DINP(CAS登録番号:68515-48-0)について、ラットを用いた混餌投与による二世代生殖毒性試験において、F0及びF1雌雄親動物に肝臓組織変化(肝細胞肥大、細胞質好酸性化)がみられる低用量以上でF0及びF1雌親動物に一腹当たりの産児数の増加、及びF1児動物の体重低値、F0雌雄親動物に腎臓重量増加(雄)又は肝臓重量増加(雌)が中用量以上でF2雌雄児動物に体重低値がみられた。なお、高用量群のF0雌及びF1雌雄親動物に体重低下がみられたとの報告がある(食安委 器具・容器包装評価書 (2015)、EU CLP CLH (2018)、NICNAS PEC (2012))。
(4)DINP-1(CAS登録番号:68515-48-0)について、ラットの妊娠6〜15日に強制経口投与した発生毒性試験では、母動物毒性(摂餌量減少、膣出血、腎臓相対重量増加等)がみられる高用量で、一腹当たりの変異を有する胎児の割合の増加、骨格変異(痕跡過剰頚肋、第14過剰腰肋)、腎盂拡張がみられたとの報告がある(食安委 器具・容器包装評価書 (2015)、EU CLP CLH (2018)、NICNAS PEC (2012))。
(5)DINP(CAS登録番号:68515-48-0)について、ラットを用いた強制経口投与による複数の発生毒性試験(妊娠6〜15日)において、母動物毒性が見られないか、またはわずかな体重低値(有意差なし)がみられる用量で、胎児に内臓異常(腎盂拡張、水尿管)と骨格変異(痕跡頸骨、第14過剰肋骨)、出生児の雄に乳輪遺残と雄生殖器官の奇形発生に頻度増加、精巣の精子産生の低下、テストステロン合成抑制、テストステロン産生の減少等がみられたとの報告がある(EU CLP CLH (2018)、NICNAS PEC (2012))。
(6)DINP(CAS登録番号:68515-48-0)について、ラットを用いた強制経口投与による発生毒性試験(妊娠12日〜生後14日)において、母動物に体重増加抑制がみられた高用量で雄児に低体重(生後2日)、肛門生殖器突起間距離(AGD)及び補正AGD値の低値(生後14日)、ライデッヒ細胞の集合体及び多核精原細胞出現の頻度増加(生後2日)、LABC(肛門挙筋/球海綿体筋)絶対重量の減少(生後56日)がみられた。多核精原細胞(生後2日)を有する児動物数の増加と雄児動物の体重低値(生後14日)は中用量からみられたとの報告がある(EU CLP CLH (2018)、NICNAS PEC (2012))。
(7)DINP-2(CAS登録番号:28553-12-0)について、ラットを用いた強制経口投与による発生毒性試験(妊娠6〜15日)において、母動物には1例に膣出血がみられた以外に明瞭な毒性がない高用量(1,000 mg/kg/day)で胎児に骨格変異(痕跡過剰頚肋、痕跡過剰腰肋)及び内臓変異(腎盂拡張)がみられた(食安委 器具・容器包装評価書 (2015)、EU CLP CLH (2018)、NICNAS PEC (2012))。
(8)DINP-3(CAS登録番号:28553-12-0)について、ラットの発生毒性試験では、母動物毒性(体重増加抑制、摂餌量減少、肝臓相対重量増加)がみられる高用量で一腹当たりの奇形(主に泌尿器及び長骨の奇形)・変異を有する胎児の割合増加、水尿管・腎盂拡張の増加、胸骨分節の骨化遅延がみられた(食安委 器具・容器包装評価書 (2015))。本試験結果について、EU、オーストラリアではDINP-3は製造中止になったため、評価対象から除外する旨記載され、DINP-2の試験結果のみ記載されている(EU CLP CLH (2018)、NICNAS PEC (2012))。
(9)DINP(CAS登録番号:28553-12-0)について、ラットを用いた混餌投与による発生毒性試験(妊娠15日〜出生10日)において、母動物毒性(体重増加抑制、摂餌量減少)がみられる高用量で、児動物に体重増加抑制、膣開口及び包皮分離日の体重低下、生後27日(離乳後)又は生後11週目(成獣)の剖検では精巣・精巣上体(重量減少(生後27日)、精巣管のステージXIVの減数分裂している細胞の精母細胞の変性・セルトリ細胞の空胞変性・精巣上体の散在性管腔内細胞残渣(生後11週))、卵巣・子宮(卵巣・子宮重量減少(生後27日)、黄体数の減少(生後11週))への影響がみられた(食安委 器具・容器包装評価書 (2015)、NICNAS PEC (2012))。本試験結果について、EUでは雄の性成熟期から成熟後の影響については記載されているが、雌の影響についての記載はない(EU CLP CLH (2018))。

【参考データ等】
(10)ヒト成人を対象とした複数の横断研究からは、本物質(DINP:非特定)ばく露と受胎能に関する指標値(精子パラメータ、ホルモンレベル、妊娠までの時間等)との間に相関はみられなかった。健常な少年555人を対象として人体計測、思春期と女性化乳房の有無を評価した横断研究では、尿中フタル酸代謝物レベルと思春期の時期、血清テストステロンレベル、女性化乳房の有無に相関はみられなかった(EU CLP CLH (2018))。
(11)入手可能なデータからはDINPは発生毒性を生じ、生殖器官と精子数と精子運動能に悪影響を及ぼし、繁殖影響をきたす可能性が示唆される。発育中の動物に対しては、肛門生殖突起間距離(AGD)への影響並びに雄児における乳頭遺残の増加等、発生影響がいくつか報告されている。これらの影響は特異的で他の毒性影響による二次的な非特異的な結果ではないと考えられ、作用機序としては抗アンドロゲン作用が示唆される。入手可能なデータからは発生影響については明らかな証拠があり、CLP分類としてRepr. 1Bが妥当であると提案された(CLH Report (2016))。
(12)(11)の提案に対し、RACはDINPではラットに尿道下裂や停留精巣のような明らかな奇形を生じない。また、持続性のAGDの減少も持続性の乳頭遺残も生じない(成獣になる過程で影響が消失する)。胎児の精巣における可逆的な組織変化やテストステロン産生への影響だけでは分類を正当化できるとは考えられない。すなわち、DINPは発生毒性として分類する必要はないと結論した。全体的にいって、DINPは性機能、受胎能、発生毒性のいずれも分類区分なし(no classification:区分に該当しない)が保証されると結論した(ECHA RAC Opinion(2018))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)本物質のヒトでの単回ばく露のデータはない。動物実験では、ラットに区分2のガイダンス値範囲を超える非常に大量の本物質を経口投与した後に、健康状態の不良、呼吸困難、外見の変化 (立毛と被毛の汚れなど) がみられたが、死亡例はなく、剖検でも異常は認められなかった (EU-RAR (2003))。また、ウサギに区分2のガイダンス値範囲を超える量の経皮投与により、皮膚の紅斑がみられたが、全例が生存し、全身毒性症状も認めらなかった (EU-RAR (2003))。さらに、ラットを用いた区分2のガイダンス値範囲内の用量の急性吸入ばく露試験では、軽度の流涙と鼻汁が認められた以外には、体重減少や肉眼的病変はみられず、肺、肝臓、腎臓の顕微鏡観察による異常所見もみられなかった (EU-RAR (2003)。以上より動物実験における本物質の影響は非常に大量の本物質にばく露された場合にのみ認められる。したがって分類できないとした。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)ヒトについては、本物質との関連性が明確な情報はない。
実験動物については、ラット、マウス、イヌ、サルを用いた経口経路での反復投与毒性試験等が複数実施され、肝臓、腎臓、精巣等の病変が報告されているが、区分2の範囲内で分類根拠となる毒性影響はみられていない (NICNAS (2012)、食品安全委員会 (2015)、EU-RAR (2003))。
したがって、分類できないとした。
誤えん有害性*データ不足のため分類できない。なお、40℃付近での動粘性率が37 mm2/sec (37.8℃) とのデータがある (HSDB (Access on July 2016))。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。

12.環境影響情報
生態毒性
水生環境有害性 短期(急性)甲殻類(オオミジンコ)48時間EC50 ≧ 0.086 mg/L、魚類(ファットヘッドミノー)96時間LC50 ≧ 0.14 mg/L(いずれもEU-RAR, 2003)であることから、区分外とした。
水生環境有害性 長期(慢性)信頼性のある慢性毒性データが得られていない。急性毒性が区分外であり、難水溶性物質(水溶解度0.2 mg/L (PHYSPROP Database 2009))であるが、急速分解性がある(BODによる分解度:74%(既存点検, 2002))ことから、区分外とした。
残留性・分解性化審法分解度試験:良分解性(化学物質安全性点検結果等(分解性・蓄積性))
生態蓄積性情報なし
土壌中の移動性情報なし
オゾン層への有害性当該物質はモントリオール議定書の附属書に列記されていない。

13.廃棄上の注意
化学品(残余廃棄物)、当該化学品が付着している汚染容器及び包装の安全で、かつ、環境上望ましい廃棄、又はリサイクルに関する情報廃棄においては、関連法規ならびに地方自治体の基準に従うこと。
都道府県知事などの許可を受けた産業廃棄物処理業者、もしくは地方公共団体がその処理を行っている場合にはそこに委託して処理する。
廃棄物の処理を委託する場合、処理業者等に危険性、有害性を十分告知の上処理を委託する。
容器は洗浄してリサイクルするか、関連法規制並びに地方自治体の基準に従って適切な処分を行う。
空容器を廃棄する場合は、内容物を完全に除去すること。

14.輸送上の注意
本物質のGHS分類結果に基づく国際規制の分類等は、以下の通りと推定されるが、該否は製品によって異なる場合がある。輸送危険物の分類は、容器等級を含め、荷送人が責任をもって判断することとされているため、輸送の際には、個々の貨物について、製品の状態、形状等も考慮し、輸送モード (航空、船舶) を規制する法規に沿って事業者が判断する必要がある。
国際規制
国連番号-
品名(国連輸送名)-
国連分類-
副次危険-
容器等級-
海洋汚染物質該当しない
MARPOL73/78附属書U及びIBCコードによるばら積み輸送される液体物質該当しない
国内規制
海上規制情報該当しない
航空規制情報該当しない
陸上規制情報消防法の規定に従う。
特別な安全上の対策消防法の規定によるイエローカード携行の対象物
その他 (一般的) 注意輸送に際しては、直射日光を避け、容器の破損、腐食、漏れのないように積み込み、荷崩れの防止を確実に行う。
重量物を上積みしない。
緊急時応急措置指針番号*該当しない
* 北米緊急時応急措置指針に基づく。米国運輸省が中心となって発行した「2020 Emengency Response Guidebook (ERG 2020)」(一般社団法人日本化学工業協会によって和訳されている(発行元:日本規格協会)に掲載されている。

15.適用法令
法規制情報は作成年月日時点に基づいて記載されております。事業場において記載するに当たっては、最新情報を確認してください。
労働安全衛生法労働安全衛生法に基づくラベル表示・SDS交付の義務化候補物質リスト(令和5年)
化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)該当しない
毒物及び劇物取締法該当しない
消防法第4類 引火性液体 第四石油類 非水溶性(法第2条第7項危険物別表第1・第4類)
海洋汚染防止法有害液体物質(Y類同等の物質)(環境省告示第148号第2号)

16.その他の情報
参考文献
9項、11項については各データ毎に記載。その他の各項については以下を参照。
・NITE化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP)
・International Chemical Safety Cards (ICSC)
・Hazardous Substances Data Bank (HSDB)
・GESTIS Substance database (GESTIS)
・ERG 2020版 緊急時応急措置指針−容器イエローカードへの適用
・一般社団法人日本化学工業協会 編「GHS対応ガイドライン ラベル及び表示・安全デ−タシ−ト作成指針」
R5.3.31: 生殖毒性項目を見直した。