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安全データシート
(JIS Z7253:2019準拠)
2,2−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタン
作成日 2002年3月12日
改訂日 2006年2月15日
改訂日 2024年3月29日
化学品の名称2,2−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタン
化学品の英語名称2,2-Dichloro-1,1,1-trifluoroethane
製品コードR05-B-015-JNIOSH
供給者の会社名○○○○株式会社
住所東京都△△区△△町△丁目△△番地
電話番号03-1234-5678
ファクシミリ番号03-1234-5678
電子メールアドレス連絡先@検セ.or.jp
緊急連絡電話番号03-1234-5678
推奨用途及び使用上の制限エアゾール用噴霧剤,発泡剤,冷媒 (NITE-CHRIPより引用)

2.危険有害性の要約
GHS分類
分類実施日
(物化危険性及び健康有害性)
R6.3.29、政府向けGHS分類ガイダンス(令和3年度改訂版(Ver2.1))を使用
物理化学的危険性-
健康に対する有害性眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性区分2B
特定標的臓器毒性
(単回ばく露)
区分1(中枢神経系、肝臓、心血管系)、区分3(麻酔作用)
特定標的臓器毒性
(反復ばく露)
区分1(肝臓)
分類実施日
(環境有害性)
H19.3.30、マニュアル(H18.2.10版)(GHS 初版)
環境に対する有害性水生環境有害性 短期(急性)区分3
水生環境有害性 長期(慢性)区分3
オゾン層への有害性区分1
GHSラベル要素
絵表示健康有害性感嘆符
注意喚起語危険
危険有害性情報眼刺激
中枢神経系、肝臓、心血管系の障害
眠気またはめまいのおそれ
長期にわたる、又は反復ばく露による肝臓の障害
水生生物に有害
長期継続的影響によって水生生物に有害
オゾン層を破壊し、健康及び環境に有害
注意書き
 安全対策取扱い後は手をよく洗うこと。
粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。
この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。
粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーの吸入を避けること。
屋外又は換気の良い場所でだけ使用すること。
環境への放出を避けること。
 応急措置眼に入った場合:水で数分間注意深く洗うこと。次にコンタクトレンズを着用していて容易に外せる場合は外すこと。その後も洗浄を続けること。
眼の刺激が続く場合:医師の診察/手当てを受けること。
ばく露又はばく露の懸念がある場合:医師に連絡すること。
特別な処置が必要である(このラベルの・・・を見よ)。
注) ”…”は、ラベルに解毒剤等中毒時の情報提供を受けるための連絡先などが記載されている場合のものです。ラベル作成時には、”…”を適切に置き換えてください。
吸入した場合:空気の新鮮な場所に移し、呼吸しやすい姿勢で休息させること。
気分が悪いときは医師に連絡すること。
気分が悪いときは、医師の診察/手当てを受けること。
 保管施錠して保管すること。
換気の良い場所で保管すること。容器を密閉しておくこと。
 廃棄回収またはリサイクルに関する情報について製造業者又は供給者に問い合わせる。
内容物/容器を都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に依頼して廃棄すること。
他の危険有害性-

3.組成及び成分情報
化学物質・混合物の区別化学物質
化学名又は一般名2,2−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタン
慣用名又は別名フロンガスR123
2,2−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタン
フロン123
HCFC-123
R-123
英語名2,2-Dichloro-1,1,1-trifluoroethane
2,2-dichloro-1,1,1-trifluoroethane(synonym:flon123)
Dichlorotrifluoroethane
濃度又は濃度範囲情報なし
分子式 (分子量)C2HCl2F3 (153)
化学特性 (示性式又は構造式)構造式
CAS番号306-83-2
官報公示整理番号(化審法)2-97
官報公示整理番号(安衛法)2-(13)-115
GHS分類に寄与する成分(不純物及び安定化添加物も含む)情報なし

4.応急措置
吸入した場合新鮮な空気のある場所に移動させる。呼吸困難な場合は酸素吸入をさせる。呼吸が止まっている場合は、口鼻蘇生法を行う。それが不可能な場合は、口対口蘇生法を行う。心停止(反応がなく呼吸が正常でない)の場合は、直ちに胸骨圧迫を行う。AED(自動体外式除細動器)があれば使用する。熱分解生成物を吸入した場合はできるだけ早く、傷病者にグルココルチコイド吸入スプレーを繰り返し深呼吸させる。直ちに医師の診察/手当てを受けること。
以上、GESTIS参照。
皮膚に付着した場合汚染された衣服を脱がせる。皮膚に付着した部分を多量の流水と石けんで十分に洗浄する。医師の診察/手当を受けること。
以上、GESTIS、ICSC参照。
眼に入った場合多量の流水で10分間洗浄する。できればコンタクトレンズを外す。その後も洗浄を続けること。医師の診察/手当てを受けること。
以上、GHS分類結果、GESTIS、ICSC参照。
飲み込んだ場合口をすすぐ。水を少しずつ飲ませる。嘔吐させないこと。食用油、ひまし油、牛乳またはアルコールは使用しない。医師の診察/手当てを受けること。
以上、GESTIS参照。
急性症状及び遅発性症状の最も重要な徴候症状吸入:錯乱、めまい、嗜眠、意識喪失、高濃度の場合の酸欠による窒息、高温蒸気の吸入後の肺の損傷可能(HClとHFの形成)。
皮膚:冷傷。
眼:充血、痛み、中程度の刺激。
経口摂取:粘膜の刺激。
吸収:頭痛、めまい、吐き気、高濃度での麻酔作用、心臓/循環機能への影響(アドレナリンに対する心臓の感作および低酸素症への移行)、肝機能障害、(アレルギー性条件による)肝炎の可能性。
以上、GESTIS、ICSC参照。
応急措置をする者の保護に必要な注意事項情報なし
医師に対する特別な注意事項情報なし

5.火災時の措置
適切な消火剤不燃性。周辺の火災に応じた適切な消火剤を使用する。
以上、ICSC参照。
使ってはならない消火剤情報なし
火災時の特有の危険有害性火災の場合、有害物質(塩化水素、フッ化水素、ホスゲン、一酸化炭素、二酸化炭素)が放出される可能性がある。
特有の消火方法容器類を水スプレーで冷却する。
以上、ICSC参照。
消火を行う者の特別な保護具及び予防措置消火作業の際は、適切な自給式の呼吸器用保護具、眼や皮膚を保護する防護服 (耐熱性) を着用する。

6.漏出時の措置
人体に対する注意事項、保護具及び緊急措置保護具を着用する。
環境に対する注意事項化学品を扱う場合の一般的な注意として、周辺環境に影響がある可能性があるため、製品の環境中への流出を避ける。
封じ込め及び浄化の方法及び機材すべての着火源を取り除く(現場での喫煙、火花や火炎の禁止)。
危険でなければ漏れを止める。
少量の場合、ウエス、雑巾等でよく拭き取り適切な廃棄容器に回収する。
大量の場合、盛土等で囲って流出を防止する。
排水溝、下水溝、地下室あるいは閉鎖場所への流入を防ぐ。
二次災害の防止策情報なし

7.取扱い及び保管上の注意
取扱い
技術的対策「8. ばく露防止及び保護措置」に記載の措置を行い、必要に応じて保護具を着用する。
安全取扱注意事項屋外又は換気の良い場所でだけ使用すること。
以上、GHS分類結果参照。
接触回避「10. 安全性及び反応性」を参照。
衛生対策取扱い後は手をよく洗うこと。
蒸気またはミストの吸入を避ける。
この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。
以上、GHS分類結果参照。
保管
安全な保管条件施錠して保管する。換気の良い場所に保管すること。
以上、GHS分類結果、ICSC参照。
安全な容器包装材料破損や漏れの無い密閉可能な容器を使用する。

8.ばく露防止及び保護措置
許容濃度等については日本産衛学会の「許容濃度の勧告」及びACGHIの「TLVs and BEIs」について記載しています。
管理濃度-
濃度基準値
八時間濃度基準値-
短時間濃度基準値-
許容濃度等
日本産衛学会(2023年版)許容濃度: 10 ppm、62 mg/m3
ACGIH(2023年版)-
設備対策情報なし
保護具
呼吸用保護具必要に応じて状況に応じた適切な呼吸用保護具を使用する。
防毒マスクの選択については、以下の点に留意する。
-防毒マスクは、電動ファン又は面体が国家検定合格品であることを確認し、作業に適した性能及び構造のものを選ぶ。その際、取扱説明書等に記載されているデータを参考にする。
-濃度に対応した・・・用吸収缶を使用する
注) ”…”の吸収缶は国家検定合格品又は日本産業規格(JIS T8152)に適合した物質に対応した吸収缶を記載します。SDS作成時には、”…”を適切に置き換えてください。
-作業者が粉じんにばく露される環境で防毒マスクを使用する場合には、防じん機能付き吸収缶を使用する
-酸素濃度が18%未満の場所では使用しない。
手の保護具必要に応じて保護手袋を着用する。
以上、ICSC参照。
眼の保護具必要に応じて安全眼鏡を着用する。
以上、ICSC参照。
皮膚及び身体の保護具必要に応じて保護衣を着用する。

9.物理的及び化学的性質
物理的状態
物理状態液体
無色
臭い無臭〜わずかなエーテル様臭
融点/凝固点-107 ℃(GESTIS(2023)、ICSC(1998))
-107.15 ℃(CRC(2018))
沸点、初留点及び沸騰範囲28 ℃(GESTIS(2023)、ICSC(1998))
27.8 ℃(HSDB in PubChem(2023))
可燃性不燃性(ICSC(1998))
爆発下限界及び爆発上限界/可燃限界データなし
引火点特定できない(GESTIS(2023))
自然発火点>650 ℃(GESTIS(2023))
分解温度データなし
pHデータなし
動粘性率データなし
溶解度水: 2.1 g/L(25℃)(GESTIS(2023)、HSDB in PubChem(2023))
水: 1.49×10+3 mg/L(25℃)(Howard(1997))
n-オクタノール/水分配係数log Kow: 2.17(推定値)(HSDB in PubChem(2023)、Howard(1997))
蒸気圧14 Pa(25℃)(ICSC(1998))
958 hPa(25℃)(GESTIS(2023))
718 mmHg(25℃)(HSDB in PubChem(2023))
密度及び/又は相対密度1.48 g/cm3(20℃)(GESTIS(2023))
1.4638 g/cm3(25℃)(HSDB in PubChem(2023))
1.475 g/cm3(15/4℃)(Chapman(1995))
相対ガス密度6.4 (空気=1)(ICSC(1998))
5.28 (GESTIS(2023))
粒子特性データなし

10.安定性及び反応性
反応性「危険有害反応可能性」を参照。
化学的安定性加熱により分解する。
危険有害反応可能性高温や火気にさらされると分解し、有毒な分解生成物の発生の可能性がある。
避けるべき条件高温、火気、加熱
混触危険物質情報なし
危険有害な分解生成物熱分解により有毒で刺激性のあるホスゲン、フッ化水素および塩化水素を生成する。

11.有害性情報
急性毒性
経口【分類根拠】
(1)より、区分に該当しない。

【根拠データ】
(1)雄ラットのapproximate lethal dose(ALD、概算致死量):約9,000 mg/kg(NICNAS PEC (1996)、DFG MAK (1994)、CICAD 23 (2000)、ECETOC TR47 (2005)、REACH登録情報 (Accessed Nov. 2023))
経皮【分類根拠】
(1)、(2)より、区分に該当しない。

【根拠データ】
(1)ラットのLD50:> 2,000 mg/kg(OECD TG402、GLP)(NICNAS PEC (1996)、DFG MAK (1994)、CICAD 23 (2000)、ECETOC TR47 (2005)、REACH登録情報 (Accessed Nov. 2023))
(2)ウサギのLC50:> 2,000 mg/kg(OECD TG402、GLP)(NICNAS PEC (1996)、DFG MAK (1994)、CICAD 23 (2000)、ECETOC TR47 (2005)、REACH登録情報 (Accessed Nov. 2023))
吸入: ガス【分類根拠】
GHSの定義における液体であり、区分に該当しない。
吸入: 蒸気【分類根拠】
(1)〜(3)より、区分に該当しない。なお、LC50値付近の被験空気濃度は飽和蒸気圧の90%(852,856 ppm)を大きく下回り、ミストをほとんど含まない蒸気と考えられることから、ppmVを単位とする基準値を適用した。

【根拠データ】
(1)ラットのLC50(4時間):32,000 ppm(NICNAS PEC (1996)、DFG MAK (1994)、産衛学会 許容濃度提案理由書 (2000)、ECETOC TR47 (2005)、REACH登録情報 (Accessed Nov. 2023))
(2)ラットのLC50(6時間):[4時間換算値] 52,640 ppm(NICNAS PEC (1996)、DFG MAK (1994)、ECETOC TR47 (2005)、REACH登録情報 (Accessed Nov. 2023))
(3)ラットのLC50(4時間):35,000 ppm(NICNAS PEC (1996))
吸入: 粉じん及びミスト【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性【分類根拠】
(1)より、区分に該当しない。

【根拠データ】
(1)ウサギ(n=6)を用いた皮膚刺激性試験(OECD TG 404、閉塞、4時間適用)において、刺激性反応はみられなかったとの報告がある(NICNAS PEC (1996)、DFG MAK (1994)、CICAD 23 (2000)、REACH登録情報 (Accessed Nov. 2023))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性【分類根拠】
(1)より、区分2Bとした。

【根拠データ】
(1)ウサギ(n=2)を用いた眼刺激性試験(OECD TG 405相当)において、軽度から中程度の結膜刺激と軽度の角膜混濁が72時間後までみられたが、3〜7日以内に消失したとの報告がある(NICNAS PEC (1996)、CICAD 23 (2000)、ECETOC TR47 (2005))。
呼吸器感作性【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性【分類根拠】
データ不足のため分類できない。なお、(1)の知見は標準的な試験法による結果ではなく、本分類には用いなかった。用いる知見を精査し、分類結果を見直した(2023年度)。

【参考データ等】
(1)モルモット(n= 10)を用いた皮膚感作性試験(3週間にわたり1回/週で1%溶液を皮内投与、2週間後に10%及び50%溶液で惹起)において、惹起48時間後に感作性の兆候はみられなかったとの陰性の報告がある(NICNAS PEC (1996)、DFG MAK (1994)、CICAD 23 (2000)、ECETOC TR47 (2005)、REACH登録情報 (Accessed Nov. 2023))。
生殖細胞変異原性【分類根拠】
(1)、(2)より、区分に該当しない。

【根拠データ】
(1)In vivoでは、ラットの末梢血リンパ球を用いた14週間吸入ばく露(最大5,000 ppm、6時間/日、7日/週)による染色体異常試験、マウスの骨髄細胞を用いた単回吸入ばく露(最大18,000 ppm、6時間)による小核試験、及びラットの肝細胞を用いた単回吸入ばく露(最大20,000 ppm、6時間)による不定期DNA合成(UDS)試験で、いずれも陰性の報告がある(NICNAS PEC (1996)、DFG MAK (1994)、CICAD 23 (2000)、ECETOC TR47 (2005)、REACH登録情報 (Accessed Nov. 2023))。
(2)In vitroでは、細菌を用いた復帰突然変異試験(OECD TG471)では蒸気、液体のいずれも陰性、ヒトリンパ球を用いた2つの染色体異常試験(OECD TG473)では蒸気、液体のいずれも陽性(-S9)の報告がある(DFG MAK (1994)、CICAD 23 (2000)、ECETOC TR47 (2005)、REACH登録情報 (Accessed Nov. 2023))。
発がん性【分類根拠】
(1)より実験動物1種において良性腫瘍の発生増加に限られ、(2)〜(4)より、膵臓腺房細胞の腫瘍形成の機序が明らかでないことからヒトへの発がん性について判断できないため、分類できない。

【参考データ等】
(1)ラットを用いた2年間吸入ばく露(300〜5,000 ppm、6時間/日、5日/週)による慢性毒性/発がん性併合試験(OECD TG453、GLP)において、300 ppm及び5,000 ppmの雌に肝細胞腺腫の頻度増加、300 ppm以上の雄に精巣腫瘍の増加、1,000 ppm以上の雄に膵臓腺房細胞の腺腫、5,000 ppmの雄に肝細胞腺腫と精巣間細胞(ライデッヒ細胞)の腺腫、雌に肝内胆管線維腫(良性腫瘍)の発生頻度の有意な増加が認められた(NICNAS PEC (1996)、産衛学会 許容濃度提案理由書 (2000)、ECETOC 47 (2005))。
(2)本物質は肝臓でペルオキシソーム増殖作用を有するが、げっ歯類に特異的であることからヒトへの外挿できないと判断されてきた。そのため(1)でみられたラットの肝臓腺腫の発生増加はペルオキシソーム増殖による影響で、ヒトには該当しないと考えられている(ECETOC 57 (2005)、NICNAS PEC (1994) 、DFG MAK (2000))。一方、高用量群の雌にみられた肝内胆管線維腫はペルオキシソーム増殖では説明できない(ECETOC 57 (2005)、DFG MAK (2000))。
(3)(1)のラットの発がん性試験の結果、肝臓、膵臓、精巣に腫瘍の発生増加がみられたが腫瘍は全て良性腫瘍であり、肝臓腫瘍の発生にはげっ歯類特異的なペルオキシソーム増殖が関連している可能性があるとされた。精巣腫瘍は老齢ラットにおける内分泌かく乱性亢進の結果である可能性が考えられ、肝臓と精巣の腫瘍はヒトには該当しないと考えられる。一方、膵臓腺房細胞の腫瘍形成の機序は不明であり、これらの腫瘍のヒトに対する毒性学的意義は明らかでない(ECETOC 57 (2005))。
(4)ドイツDFGは膵臓及び精巣ライデッヒ細胞の腺腫と胆管線維腫の発生機序は不明であること、in vitroのヒトリンパ球を用いた染色体異常試験でみられた染色体異常と異数性の機序と腫瘍発生のイニシエーションに対するその意義も依然として不明であることから、本物質の発がん性は否定できないとして、発がん性分類をCategory 3(3B)とした。なお、DFGの本分類結果を除き、他の評価機関では分類がなされていない(DFG MAK (2000)、List of MAK and BAT values (2022))。
生殖毒性【分類根拠】
(1)〜(5)より、生殖/発生毒性はみられないが、(1)、(2)より母体の乳汁や児動物の血中から代謝物(TFA)が検出されており、TFAの有害性情報が不明なことから、授乳影響について判断できず、分類できない。

【根拠データ】
(1)妊娠ラットの妊娠5〜19日及び分娩後5〜21日に1,000 ppmを吸入ばく露した授乳影響評価試験では、妊娠期と分娩後で対照群とばく露群を入れ替えた交差哺育を行った計4群を設けた。その結果、試験終了時に本物質ばく露群では肝臓重量増加、血清トリグリセリド(TG)、コレステロール、及びグルコースの減少がみられたが、乳汁の量及び質(タンパク、脂質、乳糖)に影響はみられなかった。胎児には哺育期に母体からばく露された群で低体重と血清TGの減少がみられた。母体の乳汁及び尿中から、本物質の代謝物トリフルオロ酢酸(TFA、CAS登録番号:76-05-1)が検出された(NICNAS PEC (1996)、DFG MAK (2000)、CICAD 23 (2000)、MOE 初期評価 (2009))。
(2)妊娠サルに1,000 ppmで3週間吸入ばく露し、(4)と同様に交差哺育群を設定した結果、母動物には肝臓の組織変化(小葉中心性の肝細胞空胞化、同肝細胞壊死、亜急性炎症など)が認められたが、乳汁成分には無影響であった。母体及び児動物とも血中にTFAが検出され、児動物の血中では母親の2〜6倍高濃度に検出された(NICNAS PEC (1996)、DFG MAK (2000)、CICAD 23 (2000)、MOE 初期評価 (2009))。
(3)TFAについて、政府GHS分類では生殖毒性、特定標的臓器毒性(単回ばく露)、特定標的臓器毒性(反復ばく露)のいずれもデータ不足のため分類できないとされている(2012年政府GHS分類結果)。

【根拠データ】
(4)ラットを用いた吸入ばく露(30〜1,000 ppm)による2世代生殖毒性試験(OECD TG416)では、F0世代は6週齢から38週間(6時間/日、7日/週)、F1世代は生後4週齢からF2離乳まで(約28週間)ばく露され、その結果、F0及びF1親動物には主に100又は300 ppm以上で体重増加抑制、摂餌量減少、肝臓影響(重量増加、組織変化)など全身影響が認められたが、生殖能への有害影響はF1の1,000 ppm群で着床部位数の減少と関連する同腹児数及び同腹重量の減少がみられた以外に重大な所見はなく、生殖器官の異常も認められなかった。F1及びF2児動物も100 ppm(F2は30 ppm)以上で低体重、F1では300 ppm以上で性成熟の遅延がみられた。なお、本試験のサテライト群において、F0雄にLHRH刺激後の雄性ホルモン変動への影響を検討した結果、300 ppm以上のばく露群で血清LH上昇の阻害、1,000 ppm群で血清テストステロンの減少がみられた(NICNAS PEC (1996)、DFG MAK (2000)、CICAD 23 (2000)、ECETOC TR47 (2005)、MOE初期評価 (2009))。
(5)妊娠ラットを用いた吸入ばく露(妊娠6〜15日)による2つの発生毒性試験(OECD TG414)において、5,000または10,000 ppmにおいて、いずれの試験でも母動物にはばく露群で体重増加量の減少と中枢神経系抑制が認められたが、胎児に発生影響は認められなかった(NICNAS PEC (1996)、CICAD 23 (2000)、ECETOC TR 47 (2005))。
(6)妊娠ウサギを用いた吸入ばく露(妊娠6〜18日)による発生毒性試験のための用量設定試験において、母動物には1,000 ppm以上で用量に相関した体重増加抑制がみられ、胎児には10,000 ppm以上で胚/胎児吸収率の増加と低体重、20,000 ppmで尾の異常が認められた。本試験では最大5,000 ppmで試験した結果、胎児に発生影響は認められなかった(NICNAS PEC (1996)、ECETOC TR 47 (2005))。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)【分類根拠】
(1)〜(5)より、区分1(中枢神経系、肝臓、心血管系)、区分3(麻酔作用)とした。なお、新たな知見に基づき、分類結果を見直した(2023年度)。

【根拠データ】
(1)産業用冷却器の破損後に本物質にばく露された作業者約40人でめまい、頭痛、吐き気などの症状の報告がある(NICNAS PEC (1996))。
(2)本物質の単回ばく露後にめまい、頭痛及び吐気を生じた症例報告がある。また、消火化器からの放出など本物質の単回かつ短時間ばく露で最も起こりそうな重大な影響は中枢神経抑制とアドレナリン誘発性心不整脈の発生可能性の増加であると報告されている(ECETOC TR43 (2005))。
(3)ラット(雄)を用いた単回吸入ばく露試験(4時間)において、LC50が32,000〜53,000 ppm(200〜331.25 mg/L)と報告され、12,500〜42,000 ppm(78.125〜262.5 mg/L)の濃度範囲で中枢神経系影響(活動性・平衡機能の喪失、嗜眠、衰弱、呼吸困難)がみられたと報告されている。(NICNAS PEC (1996)、CICAD 23 (2000))。
(4)ハムスターの単回吸入ばく露試験(4時間)において、LC50が28,400 ppm(177.5 mg/L)と報告され、全ばく露濃度で中枢神経系影響(筋協調運動低下、衰弱)がみられたとの報告されている(NICNAS PEC (1996)、CICAD 23 (2000))。
(5)雄モルモットを用いた単回吸入ばく露試験(1,000〜30,000 ppm、4時間)では、1,000 ppm(6.25 mg/L、区分1の範囲)以上の全例に肝臓の組織変化(小葉中心性/び漫性の空胞性脂肪性変化、変性、壊死)と影響が重度の動物ではAST及びALTの上昇も認められた。なお、腎臓、心臓には病理組織変化はみられていない(NICNAS PEC (1996)、CICAD 23 (2000))。

【参考データ等】
(6)イヌを用いた急性心感作性試験において、アドレナリン前処置(0.008 mg/kg, i.v.)後に本物質を10,300〜40,600 ppm(64.375〜253.75 mg/L)で5分間吸入ばく露した。アドレナリンの誘発用量を処置後に20,900 ppm(130.63 mg/L)以上のばく露群で7/9例に心感作性反応(重度不整脈、心室性細動、心停止)を生じた(NICNAS PEC (1996)、CICAD 23 (2000))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)【分類根拠】
(1)〜(3)より、区分1(肝臓)とした。

【根拠データ】
(1)本物質を冷媒とした冷却装置試作の過程で、本物質の使用量の増量後、約1 ヵ月で、労働者2人が体調不良を訴え、重度の肝臓障害(黄疸の症状あり)と診断された。作業記録と本物質の使用量の最も多かった時期の作業環境の再現から労働者のばく露濃度(6 時間荷重平均)を推定した結果、24〜1,125 ppm(幾何平均で25 ppm)のばく露を受けたと推定される5 人で肝機能障害の発生率と障害の程度が明らかに高く、ばく露に関連した消化器官や中枢神経系等の症状も多かった。また、3/5 人でGOT(AST)、GPT(ALT) が500 IU/L を超え、重度の肝臓障害とされた(MOE 初期評価 (2009)、ECETOC TR43 (2005)、産衛学会 許容濃度提案理由書 (2000)、CICAD 23 (2000)、NICNAS PEC (1996))。
(2)ラットを用いた少なくとも3つの90日間吸入ばく露試験(6時間/日、5日/週)において、500〜5,000 ppm(90日換算:361〜3,611 ppm、区分に該当しない範囲)で肝臓影響(重量増加、限局性壊死(軽度)、胆管増生(軽微)、AST・ALT活性上昇)が認められ、うち1試験では300 ppm(90日換算:217 ppm、区分2の範囲)で肝臓影響に関連した所見(血中トリグリセリド、グルコースの著減、肝臓のβ-酸化活性の増加)がみられていると報告されている。(CICAD 23 (2000)、ECETOC TR43 (2005))。
(3)イヌを用いた90日間吸入ばく露試験において、1,000〜10,000 ppm(区分に該当しない範囲)で肝臓影響(肝細胞肥大、炎症性細胞浸潤を伴う壊死、ALP上昇等)がみられている。(CICAD 23 (2000)、ECETOC TR43 (2005))。
誤えん有害性*【分類根拠】
データ不足のため分類できない
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。

12.環境影響情報
生態毒性
水生環境有害性 短期(急性)甲殻類(オオミジンコ)の48時間EC50=17mg/L(CICAD23、2000)他から、区分3とした。
水生環境有害性 長期(慢性)急性毒性が区分3、生物蓄積性が低いものの(BCF=36(既存化学物質安全性点検データ))、急速分解性がない(BODによる分解度:6%(既存化学物質安全性点検データ))ことから、区分3とした。
残留性・分解性化審法分解度試験:難分解性(化学物質安全性点検結果等(分解性・蓄積性))
生態蓄積性化審法濃縮度試験:低濃縮性(化学物質安全性点検結果等(分解性・蓄積性))
土壌中の移動性情報なし
オゾン層への有害性モントリオール議定書の附属書Cに列記された物質である。

13.廃棄上の注意
化学品(残余廃棄物)、当該化学品が付着している汚染容器及び包装の安全で、かつ、環境上望ましい廃棄、又はリサイクルに関する情報廃棄においては、関連法規ならびに地方自治体の基準に従うこと。
都道府県知事などの許可を受けた産業廃棄物処理業者、もしくは地方公共団体がその処理を行っている場合にはそこに委託して処理する。
廃棄物の処理を委託する場合、処理業者等に危険性、有害性を十分告知の上処理を委託する。
容器は洗浄してリサイクルするか、関連法規制並びに地方自治体の基準に従って適切な処分を行う。
空容器を廃棄する場合は、内容物を完全に除去すること。

14.輸送上の注意
該当の有無は製品によっても異なる場合がある。法規に則った試験の情報と、12項の環境影響情報とに基づいて、修正が必要な場合がある。
国際規制
国連番号-
品名(国連輸送名)-
国連分類-
副次危険-
容器等級-
海洋汚染物質該当しない
MARPOL73/78附属書U及びIBCコードによるばら積み輸送される液体物質該当しない
国内規制
海上規制情報該当しない
航空規制情報該当しない
陸上規制情報該当しない
特別な安全上の対策該当しない
その他 (一般的) 注意輸送に際しては、直射日光を避け、容器の破損、腐食、漏れのないように積み込み、荷崩れの防止を確実に行う。
重量物を上積みしない。
緊急時応急措置指針番号*該当しない
* 北米緊急時応急措置指針に基づく。米国運輸省が中心となって発行した「2020 Emengency Response Guidebook (ERG 2020)」(一般社団法人日本化学工業協会によって和訳されている(発行元:日本規格協会)に掲載されている。

15.適用法令
法規制情報は作成年月日時点に基づいて記載されております。事業場において記載するに当たっては、最新情報を確認してください。
労働安全衛生法名称等を表示すべき危険物及び有害物(法第57条第1項、施行令第18条、施行令別表第9)(令和7年3月31日まで)
名称等を表示すべき危険物及び有害物(法第57条第1項、施行令第18条、労働安全衛生規則別表第2)(令和7年4月1日以降)
名称等を通知すべき危険物及び有害物(法第57条の2、施行令第18条の2、施行令別表第9)(令和7年3月31日まで)
名称等を通知すべき危険物及び有害物(法第57条の2、施行令第18条の2、労働安全衛生規則別表第2)(令和7年4月1日以降)危険性又は有害性等を調査すべき物(法第57条の3)
作業場内表示義務(法第101条の4)
労働基準法疾病化学物質(法第75条第2項、施行規則第35条別表第1の2第4号1)【2,2−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタン】(肝障害)
化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)第一種指定化学物質(法第2条第2項、施行令第1条別表第1)
毒物及び劇物取締法-
オゾン層保護法特定物質(法第2条、施行令第1条・別表第1)

16.その他の情報
参考文献
9項、11項については各データ毎に記載。その他の各項については以下を参照。
・NITE化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP)
・International Chemical Safety Cards (ICSC)
・Hazardous Substances Data Bank (HSDB)
・GESTIS Substance database (GESTIS)
・ERG 2020版 緊急時応急措置指針−容器イエローカードへの適用
・一般社団法人日本化学工業協会 編「GHS対応ガイドライン ラベル及び表示・安全デ−タシ−ト作成指針」
修正履歴
R6.3.29:
・危険有害性の分類について物理化学的危険性、健康に対する有害性を見直した。
・SDS全般について表記の見直し・改訂をした。