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安全データシート
(JIS Z7253:2019準拠)
五酸化ニ砒素
作成日 2009年3月30日
改訂日 2023年3月31日
1.化学品及び会社情報
化学品の名称五酸化ニ砒素
化学品の英語名称Diarsenic pentaoxide
製品コードR04-B-007-JNIOSH
供給者の会社名○○○○株式会社
住所東京都△△区△△町△丁目△△番地
電話番号03-1234-5678
ファクシミリ番号03-1234-5678
電子メールアドレス連絡先@検セ.or.jp
緊急連絡電話番号03-1234-5678
推奨用途及び使用上の制限砒素化合物製剤,木材防腐,防蟻剤 (NITE-CHRIPより引用)

2.危険有害性の要約
GHS分類
分類実施日
(物化危険性及び健康有害性)
R5.3.31、政府向けGHS分類ガイダンス(令和3年度改訂版(Ver2.1))を使用
物理化学的危険性-
健康に対する有害性急性毒性(経口)区分2
皮膚腐食性/刺激性区分2
眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性区分2
発がん性区分1A
生殖毒性区分1A
特定標的臓器毒性
(単回ばく露)
区分1(呼吸器、消化管、心血管系、骨格筋、皮膚、神経系)
特定標的臓器毒性
(反復ばく露)
区分1(呼吸器、消化管、肝臓、腎臓、皮膚、血管、血液系、神経系)
分類実施日
(環境有害性)
マニュアル(H18.2.10版)(GHS 初版)
環境に対する有害性水生環境有害性 短期(急性)区分3
水生環境有害性 長期(慢性)区分3
GHSラベル要素
絵表示どくろ健康有害性
注意喚起語危険
危険有害性情報飲み込むと生命に危険
皮膚刺激
強い眼刺激
発がんのおそれ
生殖能又は胎児への悪影響のおそれ
呼吸器、消化管、心血管系、骨格筋、皮膚、神経系の障害
長期にわたる、又は反復ばく露による呼吸器、消化管、肝臓、腎臓、皮膚、血管、血液系、神経系の障害
水生生物に有害
長期継続的影響により水生生物に有害
注意書き
 安全対策取扱い後は手をよく洗うこと。
この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。
保護手袋/保護衣/保護眼鏡/保護面を着用すること。
使用前に取扱説明書を入手すること。
全ての安全注意を読み理解するまで取り扱わないこと。
粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。
環境への放出を避けること。
 応急措置飲み込んだ場合:直ちに医師に連絡すること。
特別な処置が必要である(このラベルの・・・を見よ)。
注) ”…”は、ラベルに解毒剤等中毒時の情報提供を受けるための連絡先などが記載されている場合のものです。ラベル作成時には、”…”を適切に置き換えてください。
口をすすぐこと。
皮膚に付着した場合:多量の水/石けん(鹸)で洗うこと。
皮膚刺激が生じた場合:医師の診察/手当てを受けること。
汚染された衣類を脱ぎ、再使用する場合には洗濯をすること。
眼に入った場合:水で数分間注意深く洗うこと。次にコンタクトレンズを着用していて容易に外せる場合は外すこと。その後も洗浄を続けること。
眼の刺激が続く場合:医師の診察/手当てを受けること。
ばく露又はばく露の懸念がある場合:医師の診察/手当てを受けること。
ばく露又はばく露の懸念がある場合:医師に連絡すること。
気分が悪いときは、医師の診察/手当てを受けること。
 保管施錠して保管すること。
 廃棄内容物/容器を都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に依頼して廃棄すること。
他の危険有害性情報なし

3.組成及び成分情報
化学物質・混合物の区別化学物質
化学名又は一般名五酸化ニ砒素
慣用名又は別名酸化ヒ素(V)
英語名Diarsenic pentaoxide
Arsenic (V) oxide
濃度又は濃度範囲情報なし
分子式 (分子量)As2O5 (229.84)
化学特性 (示性式又は構造式)構造式
CAS番号1303-28-2
官報公示整理番号(化審法)9-2400
官報公示整理番号(安衛法)情報なし
GHS分類に寄与する成分(不純物及び安定化添加物も含む)情報なし

4.応急措置
吸入した場合新鮮な空気のある場所に移動させる。負傷者に口をすすがせ、うがいをさせ、液体を吐き出させる。呼吸困難な場合は酸素吸入をさせる。医師の診察/手当てを受けること。
以上、GESTIS参照。
皮膚に付着した場合皮膚に付着した部分を流水で10〜20分洗浄する。できるだけ早く医師の診察/手当てを受けること。
以上、GESTIS参照。
眼に入った場合できるだけ早く、流水で10分間洗浄する。完全除去のためにや緩やかな水流を眼に直接当てる。コンタクトレンズを着用していて容易に外せる場合は外し、洗浄を続けること。搬送中も流水で洗浄する。医師の診察/手当てを受けること。
以上、GESTIS、GHS分類結果参照。
飲み込んだ場合口をすすぐ。負傷者に意識がある場合は、直ちに大量の水を飲ませ、嘔吐させる。医師の診察/手当てを受けること。
以上、GESTIS参照。
急性症状及び遅発性症状の最も重要な徴候症状吸入: 鼻、口、喉の刺激/灼熱感、咳、呼吸困難、胸の圧迫感や痛み、喉頭浮腫/肺水腫の危険性(潜伏期間後)。
皮膚:濃度により刺激→化学熱傷。
眼:灼熱感、発赤、疼痛、結膜および角膜の重度の損傷の可能性(おそらく時間が経過した後のみ)。
経口摂取:粘膜の刺激→化学熱傷、咽頭痛、嚥下困難、胃痛、しばしば反射性嘔吐。
吸収:高用量の経口投与により、心臓/循環系および神経系に即座に重篤な障害(痙攣、意識喪失、麻痺、昏睡、虚脱)。低用量の摂取により、「胃腸症候群」;数時間の潜伏期間の後、腹痛、嘔吐、嘔吐。腹痛、嘔吐、下痢(米のとぎ汁様、時に血性)、口・のどの乾燥(口渇、会話・嚥下困難)
以上、GESTIS参照。
応急措置をする者の保護に必要な注意事項情報なし
医師に対する特別な注意事項情報なし

5.火災時の措置
適切な消火剤不燃性。周辺の火災に応じた適切な消火剤を使用する。
以上、GESTIS参照。
使ってはならない消火剤情報なし
火災時の特有の危険有害性火災の場合、有害物質(金属酸化物ヒューム)が放出される可能性がある。
以上、GESTIS参照。
特有の消火方法可能であれば、容器を危険区域外に持ち出す。
以上、GESTIS参照。
消火を行う者の特別な保護具及び予防措置消火作業の際は、適切な自給式の呼吸器用保護具、眼や皮膚を保護する防護服 (耐熱性) を着用する。

6.漏出時の措置
人体に対する注意事項、保護具及び緊急措置周囲に注意喚起し、避難させる。漏出区域に入るときは保護具を着用すること。
以上、GESTIS参照。
環境に対する注意事項水域に対する危険性は大きい。地面や河川、下水への流出を避ける。少量でも流出した場合は、自治体に連絡する。
以上、GESTIS参照。
封じ込め及び浄化の方法及び機材粉じんが発生しないように回収する。その後、換気し漏出個所を洗浄する。
以上、GESTIS参照。
二次災害の防止策情報なし

7.取扱い及び保管上の注意
取扱い
技術的対策「8. ばく露防止及び保護措置」に記載の措置を行い、必要に応じて保護具を着用する。
安全取扱注意事項容器を開けたままにしない。粉じんの発生を避ける。使用前に取扱説明書を入手する。すべての安全注意を読み理解するまで取り扱わない。使用時は十分な換気をすること。
以上、GESTIS、GHS分類結果参照。
接触回避「10. 安全性及び反応性」を参照。
衛生対策皮膚や衣類への接触を避ける。接触した場合は洗浄する。粉じんの吸入を避ける。休憩前や作業終了時には石鹸と水で皮膚を洗い、洗浄後は脂肪分の多いスキンケア製品を塗布する。使用するときには飲食、喫煙をしないこと。
以上、GESTIS参照。
保管
安全な保管条件施錠して保管する。容器を密閉して涼しくて乾燥した換気の良い場所に保管する。吸湿性があるので湿気は避ける。強塩基、還元剤から離しておく。
以上、GESTIS、ICSC、GHS分類結果参照。
安全な容器包装材料毒劇法及び国連輸送法規で規定されている容器を使用する。

8.ばく露防止及び保護措置
許容濃度等については日本産衛学会の「許容濃度の勧告」及びACGHIの「TLVs and BEIs」について記載しています。
管理濃度(ヒ素として)0.003 mg/m3
許容濃度等
日本産衛学会(2022年版)未設定
ACGIH(2022年版)TLV-TWA: 0.01 mg/m3(ヒ素、無機化合物およびその塩、ヒ素として)
設備対策作業場所には適切な局所排気装置等を設置する。取り扱い場所の近くに洗浄のための設備を設ける。床に排水溝を設けないこと。
保護具
呼吸用保護具緊急時(例:意図しない物質の放出、ばく露限界値を超える場合)には、呼吸保護具を着用する。
作業者が粉じんにばく露される場合は呼吸保護具(防じんマスク等)の着用を検討する。
防じんマスクの選択については、以下の点に留意する。
-酸素濃度が18%未満の場所では使用しない。また、有害なガスが存在する場所においては防じんマスクを使用せず、その他の呼吸用保護具の利用を検討すること。
-防じんマスクは、日本工業規格(JIS T8151)に適合した、作業に適した性能及び構造のものを選ぶ。その際、取扱説明書等に記載されているデータを参考にする。
以上、GESTIS参照。
手の保護具保護手袋を着用する。
以上、GESTIS参照。
眼の保護具サイドガード付きの保護眼鏡を着用する。
以上、GESTIS参照。
皮膚及び身体の保護具必要に応じて適切な保護衣または化学防護服を着用する。
以上、GESTIS参照。

9.物理的及び化学的性質
物理的状態
物理状態固体 (20℃、1気圧) (GHS判定)
白色
臭い無臭
融点/凝固点730 ℃(CRC (2018))
315 ℃(分解)(Hommel (1996))
315 ℃(Weiss (1985))
沸点、初留点及び沸騰範囲分解(Hommel (1996))
分解(NFPA (2002))
160 ℃(Hemihydrate)(HSDB (2022))
可燃性データなし
爆発下限界及び爆発上限界/可燃限界データなし
引火点Not flammable(HSDB (2022))
自然発火点データなし
分解温度データなし
pHデータなし
動粘性率データなし
溶解度水: 65.8 g/100mL(20℃)(ICSC (2013))
水: 230 g/100mL(道路輸送危険物のデータシート (1996))
59.5 / 76.7 -(0℃ / 100℃)(Perry(2019))
n-オクタノール/水分配係数データなし
蒸気圧データなし
密度及び/又は相対密度4.32 g/cm3(CRC (2018))
4.3 g/cm3(ICSC (2013))
4.086 -(Lewis (2001))
相対ガス密度データなし
粒子特性データなし

10.安定性及び反応性
反応性「危険有害反応可能性」を参照。
化学的安定性粉じん爆発の危険性はない。(GESTIS)
水に溶けると砒酸になる。
危険有害反応可能性還元剤、五フッ化臭素、塩化水素、ルビジウムカーバイド、塩酸と激しく反応する。(GESTIS)
水や湿気の存在下で多くの金属を侵す。(ICSC)
避けるべき条件高温、加熱
混触危険物質還元剤、五フッ化臭素、塩化水素、ルビジウムカーバイド、塩酸
危険有害な分解生成物三酸化ヒ素、酸素、アルシン。

11.有害性情報
急性毒性
経口【分類根拠】
(1)より、区分2とした。

【根拠データ】
(1)ラットのLD50:8 mg/kg(AICIS IMAP (2013)、HSDB in PubChem (Accessed Aug. 2022))
経皮【分類根拠】
データ不足ため分類できない。
吸入: ガス【分類根拠】
GHSの定義における固体であり、区分に該当しない。
吸入: 蒸気【分類根拠】
データ不足ため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト【分類根拠】
データ不足ため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性【分類根拠】
(1)より、区分2とした。なお、新たな知見に基づき、分類結果を変更した。

【根拠データ】
(1)本物質が皮膚と接触することにより、紅斑、火傷のような熱感、痛み、掻痒性皮疹、腫れ、発疹が生じるとの報告がある(AICIS IMAP (2013))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性【分類根拠】
(1)より、区分2とした。

【根拠データ】
(1)本物質は眼刺激性を生じ、痒み、熱感、結膜炎、流涙、複視、羞明、視界の暗さ、眼の傷害や病変の発生を引き起こすとの報告がある(AICIS IMAP (2013))。

【参考データ等】
(2)無機ヒ素化合物の場合、ヒ素の粉じんが上気道と眼に刺激を生じ、眼の痒み、熱感及び流涙などで特徴づけられる結膜炎を生じる(HSDB in PubChem (Accessed Aug. 2022))。
呼吸器感作性【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性【分類根拠】
データ不足のため分類できない。

【参考データ等】
(1)本物質は皮膚感作性を生じる可能性があるとの記載がHSDBにあるが、詳細は不明である(AICIS IMAP (2013)、HSDB in PubChem (Accessed Aug. 2022))。
生殖細胞変異原性【分類根拠】
データがなく分類できない。

【参考データ等】
(1)In vitroでは、本物質を含む混合物(五酸化二ヒ素、ヒ酸水素二ナトリウム、オルトヒ酸)を対象にしたヒトリンパ球白血球を用いた染色体異常試験で陽性の報告がある。(食安委 汚染物質評価書 (2013)、CERI 有害性評価書 (2008))。
発がん性【分類根拠】
本物質の直接的な証拠はないが、(1)の既存分類結果より無機ヒ素化合物である本物質もヒト発がん物質として区分1Aとした。

【根拠データ】
(1)国内外の評価機関による発がん分類では、ヒ素及び無機ヒ素化合物について、IARCがグループ1に(IARC 100C (2012))、NTPがKに(NTP RoC 15th. (2021))、ACGIHがA1に(ACGIH-TLV (2022))、日本産業衛生学会が第1群に(産衛学会許容濃度の勧告等 (2021):1981年提案)、DFGがCategory 1に分類している。EUは本物質について、Carc. 1Aに分類している(CLP分類結果 (Accessed Aug. 2022))。

【参考データ等】
(2)飲料水中のAs(V) は、ほとんどの動物種で血中ではAs(III)として検出される(食安委 汚染物質評価書 (2013))。すなわち、As(V)は生体内でAS(III)に還元され、メチル化された最終代謝物が尿中に排泄される(AICIS IMAP (2013)、CERI 有害性評価書 (2008))。
生殖毒性【分類根拠】
(1)の既存分類結果、(2)の疫学研究結果は、代表的な無機ヒ素化合物である本物質についても当てはまること、(3)、(4)より、無機ヒ素化合物の生殖毒性に実験動物で十分な証拠があること、(5)、(6)より、As(V)は生体内でAS(III)に還元され、3価の代表的ヒ素化合物である三酸化二ヒ素(CAS登録番号:1327-53-3)の本項が区分1Aとされたことから、区分1Aとした。

【根拠データ】
(1)ヒ素およびヒ素化合物は、日本産業衛生学会で生殖毒性物質第1群に分類されている(日本産業衛生学会 許容濃度等の提案理由書 (2013))。
(2)無機ヒ素に汚染された飲料水のヒ素中毒の研究から、自然流産、死産、早産のリスクや出生時体重の低下が報告されている。無機ヒ素ばく露による非発がん影響として、ヒ素で汚染された飲料水を長期間摂取した地域における疫学調査では、皮膚病変、発達神経影響及び生殖・発生影響が、飲料水中無機ヒ素濃度依存的にみられたとの報告がある。(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(3)無機ヒ素化合物は実験動物において、胎児毒性や催奇形性を有することが知られている(AICIS IMAP (2013)、食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(4)ヒ酸ナトリウム(As(V))について、マウスを用いた飲水経口投与による発生毒性試験(妊娠前から児動物が生まれるまで、50 μg/L)において、投与群の児動物に学習に無気力な行動、強制水泳課題での不動がみられ、うつ状態行動及びうつ状態様行動に関連する神経内分泌マーカーに変化が生じたとの報告がある。また、血清コルチコステロンの上昇、海馬のCRFR1タンパク質の減少、海馬背側部のセロトニン5HT1A 受容体結合及び受容体エフェクターカップの上昇が有意にみられ、周産期のヒ素ばく露が出生児の生後の神経行動発達に重大な影響を及ぼす可能性が示唆された(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(5)飲料水中のAs(V) は、ほとんどの動物種で血中ではAs(III)として検出される(食安委 汚染物質評価書 (2013))。すなわち、As(V)は生体内でAS(III)に還元され、メチル化された最終代謝物が尿中に排泄される(AICIS IMAP (2013)、CERI有害性評価書 (2008))。
(6)3価の代表的ヒ素化合物である三酸化二ヒ素(CAS登録番号:1327-53-3)の本項は区分1Aとされた(2022年度GHS分類結果)。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)【分類根拠】
(1)〜(4)より、区分1(呼吸器、消化管、心血管系、骨格筋、皮膚、神経系)とした。なお、本物質は(5)より、三酸化二ヒ素を含むヒ素及びヒ素化合物の知見を基に分類を行った。新たな知見に基づき分類結果を変更した。

【根拠データ】
(1)ヒ素化合物の一つである三酸化二ヒ素(CAS登録番号:1327-53-3)はヒトが経口摂取した場合、致死的であると報告されている。26歳男性の1症例では2 gを摂取26時間後に消化管障害(悪心、嘔吐、腹痛、下痢)を発症し、胃腸管出血や最終的には循環器系ショックをきたし死亡した。また、混入したチョコレートを摂取した症例では、2例が消化管障害を発症し、過剰流涎、吐血もみられた。その後の検査で重度の胃炎と食道炎を伴う胃潰瘍が認められた。その他の症状として、消化管出血、心血管虚脱、腎不全、発作、脳症及び横紋筋融解が含まれたとの報告がある(AICIS IMAP (2013)、IPCS (1997))。
(2)ヒ素化合物の一つである三酸化二ヒ素(CAS登録番号:1327-53-3)が原因となった集団での急性ヒ素中毒事例がみられた。生存者63 名における推定摂取量(吸収量)は平均53 mg、100 mg 以上の摂取が4 名、50〜99 mgの摂取が25 名であった。カレーに混入された三酸化二ヒ素は、大部分が余熱で溶解してイオン化し、一部は結晶のまま摂取された。カレー摂取後、約5〜10 分で腹部症状を認めた。嘔気や嘔吐は患者に共通する症状で、下痢や腹痛が続いて出現した。下痢が認められたのは患者の約半数で、急性ヒ素中毒で共通する症状でないことが明らかとなった。中等及び重症者では低血圧が数日続き、頻脈、ショックもみられ、死亡した者では循環器障害が主な死因となった。重症者では中枢神経障害として、頭痛、脱力感、痙攣及び精神障害を認めた。中・重症者では約2 週間後、四肢末梢部に両側対称性末梢神経障害が出現し、感覚異常と疼痛を認めた。同時期に、重症者に皮膚障害として、紅斑性発疹(無痛)が腹部、脇の下及び首筋に認められた。さらに、爪にMees線(白線)が徐々に出現した。この他に、結膜炎、顔面浮腫、口内炎、落屑、脱毛などを少数の患者に認めた。三酸化二ヒ素の結晶を摂取した患者においては、腹部X線単純撮影でX線非透過性物質として消化管内にヒ素の点状陰影が認められたとの報告がある(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(3)急性ヒ素中毒の症状は、発熱、下痢、衰弱、食欲の減退、嘔吐、興奮、発疹、脱毛のほか多彩な症状を呈する。最初に口腔、食道などの粘膜刺激症状、次に焼けるような食道の疼痛や嚥下困難が起こり、数分から数時間後に悪心、嘔吐、腹痛、下痢などの腹部症状が出現する。重篤な場合は著明な腹痛、激しい嘔吐、水溶性下痢をきたし、脱水によるショック、筋痙攣、心筋障害及び腎障害が出現し、早い場合には24 時間以内で死亡する。また、摂取後2〜3 週頃より末梢神経障害として異常感覚を主徴とする多発神経炎が出現してくるとの報告がある(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(4)吸入(経気道)ばく露による急性中毒については、高濃度のヒ素化合物の粉じんを吸入した場合、口腔内汚染が生ずると、嚥下によりヒ素は消化管に取り込まれ吸収される。そのことから、経口摂取と同様に、消化器症状として悪心、下痢、腹痛、更に中枢と末梢の神経障害が認められることもあるとの報告がある。高濃度のヒ素化合物の一つである三酸化二ヒ素(CAS登録番号:1327-53-3)を吸入した場合、呼吸器への刺激性と腐食性のため、鼻粘膜刺激症状、咳及び呼吸困難が出現し、肺水腫をきたして死亡することがあるとの報告がある(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(5)一般にAs(V)に比べ、As(V)のほうが毒性が強いとされている。また、飲料水中のAs(V)は、ほとんどの動物種で血中ではAs(V)として検出されるとしている(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)【分類根拠】
(1)〜(3)より、三酸化二ヒ素を含むヒ素及びヒ素化合物におけるヒト知見において、呼吸器、消化管、肝臓、腎臓、皮膚、血管、血液系、神経系への影響がみられることから、区分1(呼吸器、消化管、肝臓、皮膚、血液系、神経系)とした。なお、本物質は(4)より、三酸化二ヒ素を含むヒ素及びヒ素化合物の知見を基に分類を行った。新たな知見に基づき分類結果を変更した。

【根拠データ】
(1)ヒ素化合物の一つである三酸化二ヒ素(CAS登録番号:1327-53-3)が混入した粉ミルクを摂取した患児にみられた亜急性中毒症状は、発熱、咳嗽、鼻漏、結膜炎、嘔吐、下痢、黒皮症、肝腫及び腹部膨満であり、臨床検査異常としては貧血、顆粒球数減少、心電図異常、長管骨骨端部X線像の帯状陰影などが報告された。15年目以降における追跡調査結果では、成長の遅れ、白斑黒皮症、角化症、難聴、精神発達遅延、てんかん等の脳障害が認められた。事件発生後50年以上が経過した時点で実施された被害者6,104 名(男性3,738 名、女性2,366 名)を対象とした前向きコホート研究(1982〜2006 年)で、一般住民と比較して本事件の被害者の神経系の疾患による死亡リスクが有意に高かったと報告されているとの報告がある(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
(2)無機ヒ素化合物による慢性中毒の主な標的臓器は、経口摂取では消化管(吐気、嘔吐、下痢)、神経系(多発性神経症、多発性神経炎、精神疾患)、血液系(貧血、再生不良貧血(1症例))、吸入ばく露では呼吸器(刺激症状、鼻中隔穿孔)、経皮ばく露では皮膚(刺激症状、潰瘍、水疱形成)であるとの報告がある(IPCS PIM 42 (1992))。
(3)ヒ素による慢性中毒症状として最も特異的な症状は皮膚(黒皮症、色素脱出、過角化、潰瘍等)と血管系(末梢血管炎症、先端紫藍症、レイノー減少)であり、その他に貧血、門脈性肝硬変、腎障害がみられる。経気道ばく露の場合、刺激症状、鼻中隔のびらん、壊死、さらに穿孔、慢性気管支炎を生じるとの報告がある(産衛学会許容濃度の勧告等 (2000)、CERI有害性評価書 (2008))。
(4)一般にAs(V)に比べ、As(V)のほうが毒性が強いとされている。また、飲料水中のAs(V)は、ほとんどの動物種で血中ではAs(V)として検出されるとしている(食安委 汚染物質評価書 (2013))。
誤えん有害性*【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。

12.環境影響情報
生態毒性
水生環境有害性 短期(急性)魚類(ストライプドバス)の96時間LC50=30.5 mg As/L(EHC224、2001)(五酸化二ヒ素濃度換算値:46.8mg/L)から、区分3とした。
水生環境有害性 長期(慢性)急性毒性が区分3、金属化合物であり水中での挙動および生物蓄積性が不明であるため、区分3とした。
残留性・分解性情報なし
生態蓄積性情報なし
土壌中の移動性情報なし
オゾン層への有害性当該物質はモントリオール議定書の附属書に列記されていない。

13.廃棄上の注意
化学品(残余廃棄物)、当該化学品が付着している汚染容器及び包装の安全で、かつ、環境上望ましい廃棄、又はリサイクルに関する情報特別管理産業廃棄物に該当する。
特別管理産業廃棄物処理基準に従って処理を行うか、特別管理産業廃棄物の許可業者に運搬又は処分を委託する。
容器は洗浄してリサイクルするか、関連法規制並びに地方自治体の基準に従って適切な処分を行う。
空容器を廃棄する場合は、内容物を完全に除去すること。

14.輸送上の注意
本物質のGHS分類結果に基づく国際規制の分類等は、以下の通りと推定されるが、該否は製品によって異なる場合がある。輸送危険物の分類は、容器等級を含め、荷送人が責任をもって判断することとされているため、輸送の際には、個々の貨物について、製品の状態、形状等も考慮し、輸送モード (航空、船舶) を規制する法規に沿って事業者が判断する必要がある。
国際規制
国連番号1559
品名(国連輸送名)五酸化砒素
国連分類6.1
副次危険-
容器等級U
海洋汚染物質該当しない
MARPOL73/78附属書U及びIBCコードによるばら積み輸送される液体物質該当しない
国内規制
海上規制情報船舶安全法の規定に従う。
航空規制情報航空法の規定に従う。
陸上規制情報道路法、毒物及び劇物取締法の規定に従う。
特別な安全上の対策道路法、毒物及び劇物取締法の規定によるイエローカード携行の対象物
その他 (一般的) 注意輸送に際しては、直射日光を避け、容器の破損、腐食、漏れのないように積み込み、荷崩れの防止を確実に行う。
重量物を上積みしない。
緊急時応急措置指針番号*151
* 北米緊急時応急措置指針に基づく。米国運輸省が中心となって発行した「2020 Emengency Response Guidebook (ERG 2020)」(一般社団法人日本化学工業協会によって和訳されている(発行元:日本規格協会)に掲載されている。

15.適用法令
法規制情報は作成年月日時点に基づいて記載されております。事業場において記載するに当たっては、最新情報を確認してください。
労働安全衛生法特定化学物質第2類物質(施行令別表第3第2号・特定化学物質障害予防規則第2条第1項第2号)
特定化学物質第2類物質、管理第2類物質(特定化学物質障害予防規則第2条第1項第2、5号)
名称等を表示すべき危険物及び有害物(法第57条第1項、施行令第18条第1号、第2号別表第9)
名称等を通知すべき危険物及び有害物(法第57条の2、施行令第18条の2第1号、第2号別表第9)、リスクアセスメント対象物(法第57の3)
特殊健康診断対象物質・過去取扱労働者(法第66条第2項、施行令第22条第2項)【ヒ素及びその化合物】
作業環境評価基準(法第65条の2第1項)
作業場内表示義務(法第101条の4)
労働基準法女性労働基準規則の対象物質(女性労働基準規則第2条の18)【砒素化合物(アリシンと砒化ガリウムを除く)】
がん原性化学物質(法第75条第2項、施行規則第35条別表第1の2第7号)(砒素を含有する鉱石を原料として金属の製錬若しくは精錬を行う工程又は無機砒素化合物を製造する工程における業務による肺がん又は皮膚がん)
疾病化学物質(法第75条第2項、施行規則第35条別表第1の2第4号1)【砒素及びその化合物(皮膚障害、気道障害、鼻中隔穿孔、末梢神経障害又は肝障害)】
化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)特定第一種指定化学物質(法第2条第2項、施行令第1条別表第1、施行令第4条)
毒物及び劇物取締法毒物(指定令第1条)
水道法有害物質(法第4条第2項)【ヒ素及びその化合物】
水質基準(平15省令101号)【ヒ素及びその化合物】
大気汚染防止法有害大気汚染物質、優先取組物質(中央環境審議会第9次答申)
水質汚濁防止法有害物質(法第2条、施行令第2条)
土壌汚染対策法第2種特定有害物質(法第2条第1項、施行令第1条、施行規則第4条)
下水道法水質基準物質(法第12条の2第2項、施行令第9条の4)【ヒ素及びその化合物】
廃棄物の処理及び清掃に関する法律特別管理産業廃棄物(法第2条第5項、施行令第2条の4)
船舶安全法毒物類(危規則第3条危険物告示別表第1)
航空法毒物類(施行規則第194条危険物告示別表第1)
道路法「車両の通行の制限」(施行令第19条の13、(独)日本高速道路保有・債務返済機構公示第12号・別表第2)

16.その他の情報
参考文献
9項、11項については各データ毎に記載。その他の各項については以下を参照。
・NITE化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP)
・International Chemical Safety Cards (ICSC)
・Hazardous Substances Data Bank (HSDB)
・GESTIS Substance database (GESTIS)
・ERG 2020版 緊急時応急措置指針−容器イエローカードへの適用
・一般社団法人日本化学工業協会 編「GHS対応ガイドライン ラベル及び表示・安全デ−タシ−ト作成指針」
R5.3.31: 物理化学的危険性、健康に対する有害性を見直した。