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安全データシート
(JIS Z7253:2019準拠)
一塩基性硫酸鉛
作成日 2023年3月31日
1.化学品及び会社情報
化学品の名称一塩基性硫酸鉛
化学品の英語名称Basic lead sulfate
製品コードR04-A-026-JNIOSH
供給者の会社名○○○○株式会社
住所東京都△△区△△町△丁目△△番地
電話番号03-1234-5678
ファクシミリ番号03-1234-5678
電子メールアドレス連絡先@検セ.or.jp
緊急連絡電話番号03-1234-5678
推奨用途及び使用上の制限

2.危険有害性の要約
GHS分類
分類実施日
(物化危険性及び健康有害性)
R5.3.31、政府向けGHS分類ガイダンス(令和3年度改訂版(Ver2.1))を使用
物理化学的危険性-
健康に対する有害性発がん性区分1B
生殖毒性区分1A
特定標的臓器毒性
(単回ばく露)
区分1(神経系、血液系、腎臓)
特定標的臓器毒性
(反復ばく露)
区分1(神経系、血液系、腎臓、生殖器(男性))
分類実施日
(環境有害性)
-
環境に対する有害性-
GHSラベル要素
絵表示健康有害性
注意喚起語危険
危険有害性情報発がんのおそれ
生殖能又は胎児への悪影響のおそれ
神経系、血液系、腎臓の障害
長期にわたる、又は反復ばく露による神経系、血液系、腎臓、生殖器(男性)の障害
注意書き
 安全対策使用前に取扱説明書を入手すること。
全ての安全注意を読み理解するまで取り扱わないこと。
保護手袋/保護衣/保護眼鏡/保護面を着用すること。
粉じん/煙/ガス/ミスト/蒸気/スプレーを吸入しないこと。
取扱い後は手をよく洗うこと。
この製品を使用するときに、飲食又は喫煙をしないこと。
 応急措置ばく露又はばく露の懸念がある場合:医師の診察/手当てを受けること。
ばく露又はばく露の懸念がある場合:医師に連絡すること。
特別な処置が必要である(このラベルの・・・を見よ)。
注) ”…”は、ラベルに解毒剤等中毒時の情報提供を受けるための連絡先などが記載されている場合のものです。ラベル作成時には、”…”を適切に置き換えてください。
気分が悪いときは、医師の診察/手当てを受けること。
 保管施錠して保管すること。
 廃棄内容物/容器を都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に依頼して廃棄すること。
他の危険有害性情報なし

3.組成及び成分情報
化学物質・混合物の区別化学物質
化学名又は一般名一塩基性硫酸鉛
慣用名又は別名情報なし
英語名Basic lead sulfate
濃度又は濃度範囲情報なし
分子式 (分子量)O5Pb2S (749.7)
化学特性 (示性式又は構造式)構造式
CAS番号12036-76-9
官報公示整理番号(化審法)1-428、1-532
官報公示整理番号(安衛法)情報なし
GHS分類に寄与する成分(不純物及び安定化添加物も含む)情報なし

4.応急措置
吸入した場合新鮮な空気のある場所に移動させる。呼吸困難な場合は酸素吸入をさせる。呼吸が止まっている場合は人工呼吸を行う。被災者が物質を摂取または吸入した場合は、口移しで蘇生術は行わない。医師の診察/手当てを受けること。
以上、ERG参照。
皮膚に付着した場合汚染された衣服を脱がせる。皮膚に付着した部分を直ちに流水で少なくとも20分間洗浄する。医師の診察/手当てを受けること。
以上、ERG参照。
眼に入った場合直ちに流水で少なくとも20分間洗浄する。医師の診察/手当てを受けること。
以上、ERG参照。
飲み込んだ場合医者の診断、手当を受けること。
急性症状及び遅発性症状の最も重要な徴候症状情報なし
応急措置をする者の保護に必要な注意事項情報なし
医師に対する特別な注意事項情報なし

5.火災時の措置
適切な消火剤水噴霧、粉末消火薬剤、二酸化炭素。大規模火災には粉末消火薬剤、二酸化炭素、耐アルコール泡消火薬剤、水噴霧。
以上、ERG参照。
使ってはならない消火剤情報なし
火災時の特有の危険有害性火災の場合、刺激性のある腐食性の毒性ガスが放出される可能性がある。
以上、ERG参照。
特有の消火方法情報なし
消火を行う者の特別な保護具及び予防措置消火作業の際は、適切な自給式の呼吸器用保護具、眼や皮膚を保護する防護服 (耐熱性) を着用する。

6.漏出時の措置
人体に対する注意事項、保護具及び緊急措置周囲に注意喚起し、避難させる。漏出区域に入るときは保護具を着用すること。
環境に対する注意事項化学品を扱う場合の一般的な注意として、周辺環境に影響がある可能性があるため、製品の環境中への流出を避ける。
封じ込め及び浄化の方法及び機材飛散した物を掃き集めるか、真空掃除機で吸引する等できるだけ飛散発じんしないようにして、空容器等に回収する。
二次災害の防止策情報なし

7.取扱い及び保管上の注意
取扱い
技術的対策「8. ばく露防止及び保護措置」に記載の措置を行い、必要に応じて保護具を着用する。
安全取扱注意事項使用前に取扱説明書を入手する。すべての安全注意を読み理解するまで取り扱わない。
以上、GHS分類結果参照。
接触回避「10. 安全性及び反応性」を参照。
衛生対策取り扱い後は手をよく洗うこと。粉じんの吸入を避ける。使用するときには飲食、喫煙をしないこと。
以上、GHS分類結果参照。
保管
安全な保管条件施錠して保管すること。
以上、GHS分類結果参照。
安全な容器包装材料毒劇法及び国連輸送法規で規定されている容器を使用する。

8.ばく露防止及び保護措置
許容濃度等については日本産衛学会の「許容濃度の勧告」及びACGHIの「TLVs and BEIs」について記載しています。
管理濃度0.05(鉛及びその化合物、鉛として) mg/m3
許容濃度等
日本産衛学会(2022年版)許容濃度: 0.03(鉛および鉛化合物、Pbとして) mg/m3
ACGIH(2022年版)TLV-TWA: 0.05 (Lead and inorganic compounds, as Pb) mg/m3
設備対策情報なし
保護具
呼吸用保護具呼吸用保護具を使用する。
防じんマスクの選択については、以下の点に留意する。
-酸素濃度が18%未満の場所では使用しない。また、有害なガスが存在する場所においては防じんマスクを使用せず、その他の呼吸用保護具の利用を検討すること。
-防じんマスクは、日本工業規格(JIS T8151)に適合した、作業に適した性能及び構造のものを選ぶ。その際、取扱説明書等に記載されているデータを参考にする。
以上、GHS分類結果参照。
手の保護具保護手袋を着用する。
以上、GHS分類結果参照。
眼の保護具保護眼鏡を着用する。
以上、GHS分類結果参照。
皮膚及び身体の保護具保護衣を着用する。
以上、GHS分類結果参照。

9.物理的及び化学的性質
物理的状態
物理状態固体(GHS判定)
臭いデータなし
融点/凝固点>600 ℃(REACH登録情報(2022))
977 ℃(危険物災害等情報支援システム(2022))
沸点、初留点及び沸騰範囲データなし
可燃性データなし
爆発下限界及び爆発上限界/可燃限界データなし
引火点データなし
自然発火点データなし
分解温度データなし
pHデータなし
動粘性率データなし
溶解度水: 19.2 mg/L(20℃)(REACH登録情報(2022))
水: 0.0044/100 g(水(0℃)に溶け、熱水には微溶。)(危険物災害等情報支援システム(2022))
硫酸: (微溶)(危険物災害等情報支援システム(2022))
n-オクタノール/水分配係数データなし
蒸気圧データなし
密度及び/又は相対密度データなし
相対ガス密度データなし
粒子特性データなし

10.安定性及び反応性
反応性「危険有害反応可能性」を参照。
化学的安定性情報なし
危険有害反応可能性情報なし
避けるべき条件情報なし
混触危険物質情報なし
危険有害な分解生成物情報なし

11.有害性情報
急性毒性
経口【分類根拠】
(1)より、区分に該当しない。

【根拠データ】
(1)ラットのLD50:> 5,000 mg/kg(AICIS IMAP (2018))
経皮【分類根拠】
(1)より、区分に該当しない。

【根拠データ】
(1)無機鉛化合物からヒトへの経皮吸収は極めて低く、<0.01%という値が見積もられ、リスクの算出に用いられている。(EU TCNES (2008))

【参考データ等】
(2)類縁物質(CASRN:12202-17-4、12141-20-7)におけるラットのLD50:> 2,000 mg/kg(AICIS IMAP (2018))
吸入: ガス【分類根拠】
GHSの定義における固体であり、区分に該当しない。
吸入: 蒸気【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
吸入: 粉じん及びミスト【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
皮膚腐食性及び皮膚刺激性【分類根拠】
(1)、(2)より、区分に該当しない。

【根拠データ】
(1)本物質を含む鉛化合物について、皮膚刺激性は一般的にみられないとの情報がある(AICIS IMAP (2018))。
(2)本物質を含む無機鉛化合物について、皮膚刺激性はみられないとの情報がある(LDAI (2008))。
眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性【分類根拠】
(1)、(2)より、区分に該当しない。

【根拠データ】
(1)本物質を含む鉛化合物について、眼刺激性は一般的にみられないとの情報がある(AICIS IMAP (2018))。
(2)本物質を含む無機鉛化合物について、眼刺激性はみられないとの情報がある(LDAI (2008))。
呼吸器感作性【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
皮膚感作性【分類根拠】
(1)、(2)より、区分に該当しない。

【根拠データ】
(1)本物質を含む鉛化合物について、皮膚感作性は一般的にみられないとの情報がある(AICIS IMAP (2018))。
(2)本物質を含む無機鉛化合物について、皮膚感作性はみられないとの情報がある(LDAI (2008))。
生殖細胞変異原性【分類根拠】
本物質自体のデータはないが、(1)〜(3)の鉛及び鉛化合物のデータでは、鉛化合物が吸収され血中鉛濃度が一定値を超えると遺伝毒性が発現することから区分2が考えられるが、本物質の体内吸収性や遺伝毒性に関する直接的な証拠がないため、分類できないとした。

【根拠データ】
(1)成人(一般人及び労働者)と子供において、鉛ばく露に関連した遺伝毒性影響を調査した多くの疫学研究(その多くは小規模な職業ばく露研究)において、血中Pb濃度(PbB) ≧10 μg/dLの研究報告の多くで、鉛ばく露と遺伝毒性評価項目(遺伝子変異、DNA損傷、SCE、小核形成及びDNAメチル化)との間に相関性ありと報告されている(一部は逆相関の報告もある)(ATSDR (2020))。
(2)ヒトにおいて、PbB > 10 μg/dLでは以下の報告がある、(ア)遺伝子損傷:多くの研究報告で確証されている、(イ)テロメア長の減少、(ウ)染色体異常:主に陽性の結果として多くの研究で評価されている、(エ)姉妹染色分体交換:主に陽性の結果として多くの研究で評価されている、(オ)小核形成:主に陽性の結果として多くの研究で評価されている、(カ)DNAメチル化(ATSDR (2020))。
(3)In vivoでは、鉛、又は酢酸鉛をラット、マウスに投与(吸入ばく露、経口投与、腹腔内・静脈内投与:単回又は反復ばく露)後の骨髄細胞、白血球、精子を用いたコメット試験で陽性、硝酸鉛を肝毒性発現用量経口投与した肝臓細胞を用いたコメット試験では陰性、
鉛化合物をラット又はマウスに単回又は反復投与(腹腔内、強制経口、混餌投与)後の骨髄及び精原細胞を用いた染色体異常試験で陽性、鉛化合物をラット、マウスに静脈内投与後の骨髄細胞を用いたSCE(姉妹染色分体交換)試験で陽性、鉛化合物をラット、マウスに反復投与(腹腔内、強制経口、飲水投与)後の骨髄細胞を用いた小核試験で陽性の報告がある(ATSDR (2020))。
発がん性【分類根拠】
本物質自体のデータはないが、無機鉛化合物の発がん性については、(1)よりIARCではグループ2Aに分類され、その根拠として(2)より実験動物での十分な証拠があるとしたこと、(3)よりヒトでの発がん性の証拠が集積していることから、無機鉛化合物である本物質について、区分1Bとした。

【根拠データ】
(1)国内外の評価機関による既存分類結果では、無機鉛としてIARCでグループ2Aに(IARC 87 (2006))、鉛元素としてACGIHでA3に(ACGIH (7th, 2001):1995年分類)、鉛及び鉛化合物として日本産業衛生学会で第2群Bに(産衛学会 許容濃度の提案理由書 (2016):1991年分類)、EPAでB2に(IRIS (2004):1988年分類)、NTPでRに(NTP RoC (14th, 2016):2004年分類)、DFGでCategory 2に(DFG MAK Addendum (2019):2006年分類)それぞれ分類されている。
(2)IARCは無機鉛化合物の発がん性に関して、ヒトの証拠は限られているが、実験動物での証拠は十分あるとして、グループ2Aとした(IARC 87 (2006))。
(3)鉛ばく露と発がんの関連性を評価した研究は多数ある。ヒトにおける鉛の発がん性の証拠は限られるが、結果に一貫性はない。ATSDRはIARCの2006年評価以降の新しい疫学データ(2006〜2019年)を追加収集して解析し、血中Pb濃度 ≦ 10 μg/mLでは、すべてのがん及び肺がんのりスクが上昇する。また、血中Pb濃度 > 10 μg/mLの場合は、全がん、呼吸器がん、胃がん、腸がん、喉頭がん及び神経膠腫のリスク上昇がみられると総括している(ATSDR (2020))。

【参考データ等】
(4)酸化鉛については、雄ラットを用いた1年間吸入ばく露試験(平均5.3 mg/m3:原著者によれば酢酸鉛の経口投与で腎腫瘍を10%の動物に生じる用量に相当という)で、肺腫瘍の発生増加はみられなかった(腎腫瘍が1例にみられたのみ)とする1報告がある(IARC 87 (2006))。
生殖毒性【分類根拠】
(1)〜(4)より、区分1Aとした。本物質のデータはなく、本項は無機鉛化合物のデータをもとに分類するものとする。(1)〜(4)より、鉛及び鉛化合物がヒトで生殖発生毒性を示す物質と考えられる。

【根拠データ】
(1)鉛の男性の生殖系への健康影響は、精子障害(精子の数・濃度・運動性・生存率の減少、未成熟精子濃度及び形態異常精子比率の増加)、生殖ホルモン(テストステロン・エストラジオール・LH・FSH)の血清レベルの変化、授精率の減少及び精巣の組織変化であり、これら影響の重篤度はPbB(血中鉛濃度)の上昇とともに増加する。PbB > 10 μg/dLほど結果に一貫性はないが、PbB ≦ 10 μg/dLの集団でも精子障害の証拠が得られている。高PbBレベル(> 10 μg/mL)の集団では、授精能の減少、精巣の組織傷害などより重篤な影響の証拠もあるが、報告件数は少ない(ATSDR (2020)、産衛学会 生殖毒性物質の提案理由書 (2013))。
(2)鉛の女性の生殖系への影響に関する疫学研究報告は、男性に比べて少なく、大部分が平均PbB ≦ 10 μg/mLの集団についての研究である。その結果、血清生殖ホルモン(エストラジオール・LH・FSH)レベルの変化、受胎能低下、自然流産の増加、早産の増加、閉経期の早期化に関して、幾つかの証拠が示された。しかしながら、PbBと女性の生殖影響に関しては、研究間で結果に一貫性はない(ATSDR (2020)、産衛学会 生殖毒性物質の提案理由書 (2013))。
(3)鉛の発生影響については数多くの疫学研究があり、その多くは母体血及び/又は臍帯血のPbB ≦10 μg/dLの集団について実施されたものである。いくつかの研究から、妊娠時にばく露を受けた母親の産児では、出生時サイズの減少(体重、身長、頭囲、体幹長、足の長さ、腕の長さ、BMI)、男児、女児ともに性成熟開始の遅延の証拠が得られている。PbB ≦ 10 μg/dLの範囲内でのPbBで発生影響の用量相関性の評価は困難であるが、出生時体重では用量相関的な減少がみられている(ATSDR (2020)、産衛学会 生殖毒性物質の提案理由書 (2013))。
(4)日本産業衛生学会は米国NTPのレビューを基に、鉛はヒトにおいて生殖毒性を有すると判断して、鉛及びその化合物を生殖毒性物質第1群に分類した(産衛学会 生殖毒性物質の提案理由書 (2013))。

【参考データ等】
(5)EU CLPでは、本物質はRepr. 1Bに分類されている。
特定標的臓器毒性 (単回ばく露)【分類根拠】
本項は、無機鉛化合物のデータを基に分類を行った。(1)〜(3)より、血液系、神経系、腎臓を標的臓器と判断し、区分1(神経系、血液系、腎臓)とした。

【根拠データ】
(1)ヒトの急性鉛中毒の発症は速く、ばく露の1〜5日以内に生じる。影響がみられた臓器は消化器、血液及び神経系である。症状・疾病は血中鉛濃度(PbB)の増加につれて重篤度が軽度から重度まで増悪する。消化器への影響は腹痛/疝痛、悪心、嘔吐、便秘である。血液影響にはヘモグロビン合成の減少、貧血、急性溶血性障害(貧血及びヘモグロビン尿で特徴づけられる)が含まれる。急性鉛毒性と関連した神経症状として、頭痛、過敏症、活動性低下、知覚異常、筋肉痛、脆弱性、失調性歩行、意識喪失、脳浮腫、これらが進行すると発作、昏睡、脳症ひいては死亡をきたす。その他の症状として、口の渋み、口内の金属様味覚及び口渇が報告されている(ATSDR (2020))。
(2)子供は摂取した鉛の吸収割合が成人よりも高いために大人よりも鉛中毒に感受性が高く、発達中の中枢神経系は完成した中枢神経系よりも毒性に対して脆弱である。また、子供の急性毒性影響は長く続く可能性がある。例えば、急性脳症からの回復過程で認知能力の長期低下、注意不足及び行動障害を生じるおそれがある(ATSDR (2020))。
(3)ヒトの鉛ばく露には、鉛を取り扱う産業現場で鉛粒子を肺から吸収する場合と鉛含有物を経口的に消化管から吸収する場合がある。いずれの場合でも、鉛ばく露量が多くなると、造血系(ヘム合成系デルタアミノレブリン酸脱水酵素抑制、貧血等)、神経系(末梢神経障害、脳症等)、消化器系(疝痛等)、腎臓(腎症等)の障害が起こる(産衛学会 許容濃度の提案理由書 (2016))。
特定標的臓器毒性 (反復ばく露)【分類根拠】
本物質については、無機鉛化合物のデータを基に分類するものとする。(1)〜(5)より、血液系、神経系、腎臓、生殖器(男性)を標的臓器と判断し、区分1(神経系、血液系、腎臓、生殖器(男性))とした。

【根拠データ】
(1)子供における前向き大規模横断研究の結果、鉛ばく露の神経系影響として認知機能(学習及び記憶)の低下、行動及び気分(注意、興奮、衝動性、過敏性、拒否)の変化、神経運動性及び神経知覚機能(視覚-運動統合能、器用さ、姿勢の傾き、聴覚・視覚閾値の変化)の変化等、神経学的機能の低下において一貫した証拠が得られた。この影響は血中鉛濃度(PbB) ≤ 5 μg/dL以下でも多くの報告がある。大人でも同様の神経系への影響はみられるが、子供より高濃度ばく露で生じる。さらに、高レベルのPbB (>30 μg/dL) ばく露を受けた大人の症例では、末梢神経症、精神疾患(抑うつ、パニック障害、不安、錯乱、統合失調症等)発症の報告がある(ATSDR (2020))。
(2)鉛の腎臓毒性影響は多くの疫学研究で確立している。PbBが10 μg/dL以上では一貫して腎傷害及び腎機能低下の証拠が得られており、PbB ≤ 5 μg/dLでも腎臓影響がみられたとする研究報告もある。腎機能障害は酵素尿、タンパク尿、有機陰イオンと糖の輸送障害、糸球体ろ過率(GFR)の低下であり、高レベルのPbB (>30 μg/dL) ばく露症例では近位尿細管腎症、糸球体硬化症、間質性線維症、及び尿細管壊死で特徴づけられるPb誘発性腎障害が生じる(ATSDR (2020))。
(3)鉛の血液系への毒性は成人と子供の多くの研究で確立している。鉛へのばく露はδ-アミノレブリン酸脱水素酵素 (δ-ALAD)の阻害を通してヘム合成の用量依存的な減少を生じ、血中ヘモグロビンの減少及び赤血球膜の脆弱性増加により貧血が進展する(ATSDR (2020))。
(4)ヒトの鉛ばく露には、鉛を取り扱う産業現場で鉛粒子を肺から吸収する場合と鉛含有物を経口的に消化管から吸収する場合がある。いずれの場合でも、鉛ばく露量が多くなると、造血系(ヘム合成系デルタアミノレブリン酸脱水酵素抑制、貧血等)、神経系(末梢神経障害、脳症等)、消化器系(疝痛等)、腎臓(腎症等)の障害が起こる。この他、高血圧を含む心血管系の影響も報告されている(産衛学会許容濃度の提案理由書 (2016))。
(5)職業的鉛ばく露を受けた男性では、血中鉛濃度が40 μg/dL 以上で精液中の精子数等に変化が認められ、血中鉛最高濃度51 μg/dL以上で妊娠するまでの時間の長期化、血中鉛濃度31 μg/dL 以上で自然流産のリスクが高まり、平均血中鉛濃度46.3 μg/dL で出生率が低下したと報告された(食安委 評価書 (2021))。ATSDRでは、血中Pb濃度が10 μg/dL以下の集団でも精子障害の証拠が示されており、10 μg/dL以上では授精能低下、精巣への組織学的傷害を含めより重度の影響が数件の報告から示されるとしている(ATSDR (2020))。

【参考データ等】
(6)疫学研究の結果からなんらかの影響が示唆される血中鉛濃度 1〜2 μg/dL と近いと考えられており、そのため今後も鉛ばく露低減のための取組が必要であると考えられるとの報告がある(食安委 評価書 (2021))。
(7)成人での多くの疫学研究において、PbBと関連した心血管系影響として、収縮期及び拡張期血圧の上昇を示す結果が数多く得られている。数少ないが子供と妊婦でも血圧上昇がみられたとする報告もある。その他、鉛ばく露による影響として高血圧と心疾患のリスク増加、動脈硬化、心伝導の変化、心血管疾患による死亡増加などの報告や、低レベルの環境中鉛ばく露が心血管系疾患死亡の重要なリスク要因であると結論される報告がある(ATSDR (2020))。
誤えん有害性*【分類根拠】
データ不足のため分類できない。
* JIS Z7252の改訂により吸引性呼吸器有害性から項目名が変更となった。

12.環境影響情報
生態毒性
水生環境有害性 短期(急性)-
水生環境有害性 長期(慢性)-
残留性・分解性情報なし
生態蓄積性情報なし
土壌中の移動性情報なし
オゾン層への有害性当該物質はモントリオール議定書の附属書に列記されていない。

13.廃棄上の注意
化学品(残余廃棄物)、当該化学品が付着している汚染容器及び包装の安全で、かつ、環境上望ましい廃棄、又はリサイクルに関する情報特別管理産業廃棄物に該当する。
特別管理産業廃棄物処理基準に従って処理を行うか、特別管理産業廃棄物の許可業者に運搬又は処分を委託する。
容器は洗浄してリサイクルするか、関連法規制並びに地方自治体の基準に従って適切な処分を行う。
空容器を廃棄する場合は、内容物を完全に除去すること。

14.輸送上の注意
本物質のGHS分類結果に基づく国際規制の分類等は、以下の通りと推定されるが、該否は製品によって異なる場合がある。輸送危険物の分類は、容器等級を含め、荷送人が責任をもって判断することとされているため、輸送の際には、個々の貨物について、製品の状態、形状等も考慮し、輸送モード (航空、船舶) を規制する法規に沿って事業者が判断する必要がある。
国際規制
国連番号1794
品名(国連輸送名)硫酸鉛(遊離酸の含有率が3質量%を超えるもの)
国連分類8
副次危険
容器等級U
海洋汚染物質該当しない
MARPOL73/78附属書U及びIBCコードによるばら積み輸送される液体物質該当しない
国内規制
海上規制情報船舶安全法の規定に従う。
航空規制情報航空法の規定に従う。
陸上規制情報道路法、毒物及び劇物取締法の規定に従う。
特別な安全上の対策道路法、毒物及び劇物取締法の規定によるイエローカード携行の対象物
その他 (一般的) 注意輸送に際しては、直射日光を避け、容器の破損、腐食、漏れのないように積み込み、荷崩れの防止を確実に行う。
重量物を上積みしない。
緊急時応急措置指針番号*154
* 北米緊急時応急措置指針に基づく。米国運輸省が中心となって発行した「2020 Emengency Response Guidebook (ERG 2020)」(一般社団法人日本化学工業協会によって和訳されている(発行元:日本規格協会)に掲載されている。

15.適用法令
法規制情報は作成年月日時点に基づいて記載されております。事業場において記載するに当たっては、最新情報を確認してください。
労働安全衛生法名称等を表示すべき危険物及び有害物(法第57条第1項、施行令第18条第1号、第2号別表第9)
名称等を通知すべき危険物及び有害物(法第57条の2、施行令第18条の2第1号、第2号別表第9)、リスクアセスメント対象物(法第57の3)
鉛等(施行令別表第4)
特殊健康診断対象物質・現行取扱労働者(法第66条第2項、施行令第22条第1項)【鉛業務】
作業環境評価基準(法第65条の2第1項)
作業場内表示義務(法第101条の4)
労働基準法疾病化学物質(法第75条第2項、施行規則第35条別表第1の2第4号1)【鉛及びその化合物(頭痛、めまい、嘔吐等の自覚症状、造血器障害、末梢神経障害又は疝痛、便秘等の胃腸障害)】
化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)特定第一種指定化学物質(法第2条第2項、施行令第1条別表第1、施行令第4条)
毒物及び劇物取締法劇物(指定令第2条)
水道法有害物質(法第4条第2項)【鉛及びその化合物】
水質基準(平15省令101号)【鉛及びその化合物】
水質汚濁防止法有害物質(法第2条、施行令第2条)
土壌汚染対策法第2種特定有害物質(法第2条第1項、施行令第1条)
下水道法水質基準物質(法第12条の2第2項、施行令第9条の4)【鉛及びその化合物】
廃棄物の処理及び清掃に関する法律特別管理産業廃棄物(法第2条第5項、施行令第2条の4)
船舶安全法腐食性物質(危規則第3条危険物告示別表第1)
航空法腐食性物質(施行規則第194条危険物告示別表第1)
港則法その他の危険物・腐食性物質(法第20条第2項、規則第12条、危険物の種類を定める告示別表)
道路法車両の通行の制限(施行令第19条の13、(独)日本高速道路保有・債務返済機構公示第12号・別表第2)

16.その他の情報
参考文献
9項、11項については各データ毎に記載。その他の各項については以下を参照。
・NITE化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP)
・International Chemical Safety Cards (ICSC)
・Hazardous Substances Data Bank (HSDB)
・GESTIS Substance database (GESTIS)
・ERG 2020版 緊急時応急措置指針−容器イエローカードへの適用
・一般社団法人日本化学工業協会 編「GHS対応ガイドライン ラベル及び表示・安全デ−タシ−ト作成指針」