1,4-ジクロロ-2-ニトロベンゼンの経口投与によるがん原性試験結果の概要
1． 目的
1,4-ジクロロ-2-ニトロベンゼン(以下1,4-DCNB)のがん原性を検索する目的で、ラットおよびマウスを用いた経口投与(混餌)による長期試験を実施した。
2． 方法
○対象動物
試験には、F344/DuCrj(Fischer)ラット(6週齢)およびCrj：BDF1マウス(6週齢)を用い、それぞれ雌雄各群50匹、4群の構成とし、合わせてラット400匹、マウス400匹を使用した。
○投与方法
1,4-DCNBの濃度をラットおよびマウスの雌雄とも2000、800、320、0ppm(対照群)となるように餌に混ぜ、自由摂取させた。投与濃度は13週間の予備試験結果に基づいて決定した。投与期間は104週間(2年間)とした。
○観察、検査項目
一般状態の観察、体重と摂餌量の測定、尿検査、血液学的検査、血液生化学的検査、剖検、臓器重量測定、病理組織学的検査を実施した。
3． 結果
○ラット
・生存数等
生存率は、雌雄とも投与群と対照群で差はなかった。雌雄とも投与濃度に対応した体重増加抑制と摂餌量の低下がみられた。一般状態の観察では雌雄ともに全投与群に、1,4-DCNBの代謝物であるN-アセチル-S-(4-クロロ-3-ニトロフェニル)-L-システインに起因する黄色尿がみられた。
・腫瘍性病変(表1)
雄では、肝細胞腺腫、肝細胞腺腫と肝細胞癌の合計および耳道腺腫の発生増加が認められた。また、雄に腎臓腫瘍と皮膚腫瘍、雌に子宮腫瘍(乳頭状腺腫と腺癌)と乳腺の腺癌の発生増加が認められた。
表1 腫瘍の発生数(ラット)
| 濃度 | 対照群 | 320ppm群 | 800ppm群 | 2000ppm群 |
|
| 雄(検査動物数) | (49) | (50) | (50) | (50) |
| 肝臓 肝細胞腺腫 | 0 | 1 | 0 | 6 |
| 肝細胞癌 | 0 | 0 | 1 | 2 |
| 肝細胞腺腫+肝細胞癌 |
0 | 1 | 1 | 8 |
| 耳道腺 腺腫 |
0 | 0 | 0 | 4 |
皮膚腫瘍 (扁平上皮乳頭腫+
角化棘細胞腫+
扁平上皮癌) |
1 | 5 | 6 | 7 |
| 腎臓腫瘍 (細胞腺腫+細胞癌) |
0 | 1 | 0 | 3 |
|
| 雌(検査動物数) | (50) | (50) | (50) | (50) |
| 子宮 乳頭状腺腫+腺癌 |
1 | 2 | 2 | 4 |
| 乳腺 腺癌 |
0 | 0 | 0 | 4 |
○ マウス
・生存数等
生存率は、雌雄の2000ppm群で低かった。体重は、雌雄の2000ppm群で増加抑制がみられた。一般状態の観察では雌雄ともすべての投与群で、1,4-DCNBの代謝物であるN-アセチル-S-(4-クロロ-3-ニトロフェニル)-L-システインに起因する黄色尿がみられた。
・腫瘍性病変(表2)
雄マウスに肝細胞癌と肝芽腫、雌マウスに肝細胞腺腫と肝細胞癌の発生増加が認められた。
表2 腫瘍の発生数(マウス)
| 濃度 | 対照群 | 320ppm群 | 800ppm群 | 2000ppm群 |
|
| 雄(検査動物数) | (50) | (50) | (50) | (50) |
| 肝臓 肝細胞腺腫 |
17 | 21 | 20 | 16 |
| 肝細胞癌 |
15 | 15 | 23 | 31 |
| 肝芽腫 |
1 | 10 | 12 | 25 |
|
| 雌(検査動物数) | (50) | (50) | (50) | (50) |
| 肝臓 肝細胞腺腫 |
5 | 5 | 17 | 16 |
| 肝細胞癌 |
1 | 3 | 15 | 31 |
| 肝芽腫 |
0 | 0 | 0 | 2 |
4． まとめ
2年間にわたる1,4-DCNBの経口投与(混餌)によるがん原性試験の結果、ラットでは雄に肝細胞腺腫、肝細胞腺腫と肝細胞癌の合計および耳道腺腫の発生増加が認められ、1,4-DCNBのF344/DuCrj(Fischer)ラット雄に対するがん原性を示す証拠と考えられた。マウスでは雄に肝細胞癌と肝芽腫、雌に肝細胞腺腫と肝細胞癌の顕著な発生増加が認められ、これらの結果は1,4-DCNBのCrj：BDF1雌雄マウスに対するがん原性を示す明かな証拠と考えられた。
厚生労働省