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労働災害事例

H鋼をつり上げ中、玉掛け用ワイヤロープが切断し、荷の下敷きになる

H鋼をつり上げ中、玉掛け用ワイヤロープが切断し、荷の下敷きになる
業種 その他の金属製品製造業
事業場規模 1〜4人
機械設備・有害物質の種類(起因物) 玉掛用具
災害の種類(事故の型) 飛来、落下
被害者数
死亡者数:0人 休業者数:1人
不休者数:0人 行方不明者数:0人
発生要因(物) 老朽、疲労、使用限界
発生要因(人) 憶測判断
発生要因(管理) 欠陥のある機械、装置、工具、用具等を用いる

No.101221

発生状況

 この災害は、建築用H鋼を天井クレーンでつり上げて移動中に、玉掛け用ワイヤロープが切断し、玉掛け作業者が落下したH鋼の下敷きになったものである。
 災害発生当日、建築工事で使用する鉄骨を製造するY社の構内下請Z社に指示された作業内容は、前行程で寸法切りし接合部材等を仮付けしたH鋼を溶接場に移動し、本溶接を行った後に次行程の塗装場に送り込むというものであった。
 Z社の社長Aと作業者Bの2人は、まず長さ約3mのH鋼11本を溶接場に移動して本溶接を行った後、Aの指示によりBが玉掛け用ワイヤロープ2本で玉掛け(4点つり)し、Aが天井クレーン(定格荷重2.8トン、床上操作式)を運転して塗装場に移動した。
 次に長さ8m、重量800kgのH鋼6本の本溶接を行うため、Aは溶接場でH鋼の置き場所の準備に取り掛かった。
 このとき、Bは前行程の仮付け場で6本中の3本のH鋼を玉掛け用ワイヤロープ1本で玉掛け(2点つり)した。Aは玉掛けした荷が1本つりであったため、不安定で危ないと思ったが、早く本溶接に取り掛かりたかったため、Bに「離れていろ」と退避を指示してからクレーンを操作し、荷を約2mの高さまでつり上げたところ、玉掛け用ワイヤロープが切断してH鋼が落下し、H鋼の近くで様子を見ていたBが下敷きになった。Bは病院に搬送されたが、休業2ヶ月の重傷を負った。
 切断した玉掛け用ワイヤロープにはキンクと型崩れがあったが、Y社ではワイヤロープの定期的な点検を行っておらず、Z社も作業開始前の点検を行うことなく、そのまま使用した。
 Aは、床上操作式クレーンの運転に必要な特別教育を受けていたほか、玉掛け技能講習を修了していたが、Bは床上操作式クレーンの運転に必要な特別教育を受講しておらず、玉掛け技能講習も修了していなかった。
 Y社の工場には、構内下請が5社常駐していたが、Y社は下請企業に対する安全衛生管理を指導しておらず、作業に必要な法定資格の取得状況も確認していなかった。

原因

 この災害の原因として、次のようなことが考えられる。
1  損傷した玉掛け用ワイヤロープを使用したこと
 玉掛け用ワイヤロープを作業開始前に点検しておらず、キンクや型崩れがある玉掛け用ワイヤロープを使用したため、玉掛け用ワイヤロープが切断した。
2  1本の玉掛け用ワイヤロープで2点つりしたこと
 前の作業では「2本・4点つり」しているにも関わらず、「1本・2点つり」という不安定な方法で玉掛けを行った。さらに、Aは「危ない」と認識したが、本溶接作業を急いだために玉掛けをやり直さずに移動作業を行った。
3  玉掛け者がつり荷の近くにいたこと
 Bはつり荷の近くで様子を見ていたため、落下したつり荷の下敷きになった。
4  玉掛け技能講習を修了していない作業者に玉掛けを行わせたこと
 Bは玉掛け技能講習を修了しておらず、見よう見まねで玉掛けを行っていた。
5  元方事業者が下請事業場に対し安全衛生管理の指導等を実施していなかったこと
 元方事業者(Y社)は、Z社等5社の下請事業場に対し、安全衛生管理の指導や作業に必要な法定資格の取得状況の確認を行っていなかった。

対策

 同種災害防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1  損傷した玉掛け用ワイヤロープを使用しないこと
 玉掛け用ワイヤロープは作業開始前に点検を行い、キンクや型崩れが見つかった場合にはそのワイヤロープを使用しないようにする。さらに、玉掛け用ワイヤロープを定期的に点検するとともに、点検時のチェックリストの使用、玉掛け用ワイヤロープへの点検実施月の明示(色別等)、点検実施者への教育を実施することも重要である。
2  つり荷は安定した方法で玉掛けすること
 玉掛け用ワイヤロープにかかる荷重を考慮し、安定してつり上げることができる方法で玉掛けを行う。また、つり上げる際には地切りを行い、つり荷の振れや傾きを確認することも重要である。
3  周囲の作業者はつり荷から十分に離れること
 玉掛け者等、周囲の作業者は、万が一、つり荷が落下しても下敷きにならないよう、つり荷から十分に離れる。また、つり荷を不必要に高くつり上げなくてもすむよう、移動経路に物を置かないようにすることも重要である。
4  玉掛け技能講習の修了者に玉掛け作業を行わせること
 つり上げ荷重が1t以上のクレーンの玉掛け作業は、玉掛け技能講習の修了者に行わせなければならない。また、つり上げ荷重が1t未満のクレーンの玉掛け作業は、特別教育を受けた作業者に行わせる必要がある。
5  元方事業者は下請事業場に対し安全衛生管理の指導等を行うこと
 元方事業者は、自社の構内に常駐する下請事業場に対し、安全衛生管理の指導等を実施する。また、構内で行われる作業に必要な法定資格の取得状況を確認することも重要である。