職場のあんぜんサイト

  1. ホーム
  2. 労働災害事例
  3. 労働災害事例(検索結果詳細)

労働災害事例

塩酸タンク入れ替え工事で、塩酸ガス中毒

塩酸タンク入れ替え工事で、塩酸ガス中毒
業種 清掃・と畜業
事業場規模 5〜15人
機械設備・有害物質の種類(起因物) 有害物
災害の種類(事故の型) 有害物等との接触
被害者数
死亡者数:− 休業者数:2人
不休者数:− 行方不明者数:−
発生要因(物) 有害物のガス、蒸気、粉じん
発生要因(人) 無意識行動
発生要因(管理) 保護具を使用していない

No.100193

発生状況

 この災害は、化学工場のプラント廃水中和処理施設内にある塩酸の入ったタンクの側面にできたピンホールから塩酸が漏れていることが判明したため、タンクの入れ替え工事をする作業で発生したものである。作業方法としては、既設タンクの近くに仮設タンクを設置し、既設タンクから塩酸を仮設タンクに移し替えるという手順で行うこととなった。
 元請A社からタンク販売業B社がタンク納入を請負い、プラント設備の清掃を行うC社が新しいタンクに塩酸を入れ替える作業のみを請負うこととなった。
 災害発生当日、C社から社長及び労働者X、Y、Zの4名が午前9時頃に化学工場の現場に到着し、すぐ作業を開始した。
 最初に、被災者X及びYが移動はしごで既設タンクの上に乗り、タンク上部のマンホール蓋のボルトを緩める作業を行った。次に移動はしごを仮設タンクに移して、仮設タンクの上部に上がった。
 仮設タンクはポリエチレン製のため、XとYの体重で上面がへこみ、仮設タンク上面にあるエア抜きパイプから塩酸ガスが少量出てXとYの方へ流れてきた。このため2人は塩酸ガスを吸い込み、咳き込んだが、仮設タンクのマンホールのボルトを緩める作業を続け終了した。終了時再度、エア抜きパイプから噴出した塩酸ガスを2人は顔面に浴びた。
この後、Xは社長に「マスクがないと今後はやれない」と呼吸用保護具を要求した。
会社に戻った後、Xが「気持ちが悪い」と訴え、Yも翌日になって同様な訴えをしたので、両名を医者に行かせた。
 Xは「塩酸ガス吸入による後遺症」と診断され、Yも「気道粘膜炎症、左眼キョウ膜炎」と診断された。

原因

 この災害の原因としては、次のようなことが考えられる。
1 本災害で発生した35%塩酸(塩化水素の水溶液)は労働安全衛生法施行令(以下「安衛令」という)別表第3、第3号にいう特定化学物質であり、塩酸の移し替え作業に対して、現場に呼吸用保護具は備え付けてなかった。
2 塩酸取扱い作業については、安衛令第6条第18号に定める特定化学物質等作業主任者を選任しなければならない。C社社長は特定化学物質作業主任者の技能講習を修了しているにもかかわらず、作業主任者を選任していなかった。
3 作業手順については打合せを行ったがその際、安全対策については元請A及びB社の両者から何ら指示がなかった。特に、仮設タンクに既に塩酸が一部移し替えられていたことは全く知らされていなかった。
4 C社の社長は、塩酸ガスによる健康障害について認識が足りなかった。

対策

 この災害は、化学工場のプラント廃水中和処理施設内にある塩酸の入ったタンクの側面にできたピンホールから塩酸が漏れていることが判明したため、タンクの入れ替え工事をする作業で発生したものであるが、同種災害の防止のためには、次のような対策の徹底が必要である。
1 特定化学物質を取り扱う等、労働者に危険有害を及ぼす恐れのある作業を行わせる場合には取り扱い物質の特性及び安全対策について、事前に調査を行った上で作業計画を作成する。
2 特定化学物質等作業主任者を選任し、その者に、安全な作業方法の決定及び労働者の指揮、保護具の使用状況の監視を行わせる。
3 特定化学物質を取り扱う作業では、蒸気・ガスの発生が考えられるので、取り扱う容器、設備を点検した上で必要な呼吸用保護具を備え付け、使用させる。
4 特定化学物質を取り扱う等労働者に危険有害を及ぼす恐れのある作業を行わせる場合は、関係労働者に対する定期的な安全衛生に関する教育を徹底する。
5 元請及び関係請負人の労働者が混在して作業を行う場合は、作業にあたり元請及び関係請負人は安全な作業方法等について十分な連絡・調整を行って作業方法を決めることが必要である。