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労働災害事例

浄水場拡張工事現場において発生した塩素ガス中毒

浄水場拡張工事現場において発生した塩素ガス中毒
業種 その他の土木工事業
事業場規模
機械設備・有害物質の種類(起因物) 有害物
災害の種類(事故の型) 有害物等との接触
建設業のみ 工事の種類 その他の土木工事
災害の種類 中毒
被害者数
死亡者数:− 休業者数:1人
不休者数:− 行方不明者数:−
発生要因(物)
発生要因(人)
発生要因(管理)

No.953

発生状況

本災害は、浄水場の拡張工事現場において発生したもので、被災者は市の発注による本工事のうち配管土工を担当する下請け会社Aの作業者である。
 本工事の内容は、凝集沈殿池、急速濾過池等浄水施設の増設及び排水処理施設の新設であるが、この工事を施工するにあたって、沈殿池予定地を東西に横断して地面より深さ約2mの箇所に直径50cmの表面洗浄水管を埋設することになり、被災者を含むA社の作業者5人で沈殿池の西側からドラグ・ショベルで掘削を開始した。
 掘削に当たり元請の現場所長は、沈殿池予定地の東側の深さ約50cmの箇所に南北方向に塩素水パイプ等が埋設されていることを浄水場の浄水係長に確認し、A社の地山の掘削作業主任者にあらかじめこの旨を通知していた。
 約50cm掘削したところで埋設物に気付き、スコップで掘ったところ、3本の塩化ビニールパイプが露出してきたが、1本のパイプにドラグ・ショベルによる約20cmにわたる損傷が認められた。この損傷はへこみ程度で割れ、漏れはなかったが、元請の現場所長にこれを連絡したところ、現場所長は、損傷箇所の両端を切断し、新しいパイプをソケットで接続するよう指示をするとともに、浄水係長に何のパイプか確認をとった。
 浄水係長は、先に東側に埋設してあると言ったことが間違いだったこと、また損傷したパイプが塩素水パイプか凝集剤液パイプかどちらか不明であるとの話をした。そして自ら金鋸でパイプに小さな穴をあけ、流出する液の臭いにより、塩素水パイプであることを確認し、現場所長に伝えた。
 次に、浄水係長はパイプ切断の準備のため塩素水元バルブを締めた。現場所長はただ漠然と塩素ガスが有毒であることを承知していたが、浄水係長から指示もなく、また係長が防毒マスク等を着用せず穴をあけたことからたとえ有毒であったとしても希薄であり、人体に有害な作用を及ぼさないと判断し、被災者に保護具等の着用をさせず金鋸で損傷箇所を切断するよう命じた。
 約2分かかって被災者はパイプの損傷箇所の両端を切断した。
 なお、塩素水パイプの元バルブから切断箇所までは約100m、また切断箇所から塩素水を注入する原水着水井までは約80mあり、ほぼ水平に敷設されていたことから、元バルブが締めてあったにもかかわらずパイプの中に残留している塩素水は浄水係長が穴をあけた時から流出し続けており、切断作業が終わった後も約10分間流出が続いていた。ソケットでの接続は、塩素水の流出が完全に止まってから行われた。
 被災者は切断作業の後、腰をかけて休憩していたところ気分が悪くなり、午前中の作業を休んだが、午後からは平常作業をし、帰宅した。その翌日から2日間休業したが、吐き気等があり、気分がすぐれず、総合病院で受診の結果、塩素中毒の疑いがあると診断され入院した。

原因

1. 損傷した塩素水パイプに穴をあけたことにより、管の中の塩素水が流出し、塩素ガスが発生したこと。
2. 塩素水パイプの切断作業を塩素水が流出中であるにもかかわらず行わせたこと。
3. 作業にあたり呼吸用保護具等必要な保護具を準備せず、また使用させなかったこと。
4. 塩素使用事業場での工事であるにもかかわらず、塩素の有毒性等について教育を実施していなかったこと。
5. 元請負人が塩素水中の塩素濃度や漏出した場合の塩素ガスの有毒性について発注者に確認しなかったこと。
6. 以上のようなことについて、元請負人から下請負人及びその作業者に対して必要な指示がなされなかったこと。
7. 浄水係長が塩素水パイプ等の埋設場所を誤って伝えたこと。
8. 元請負人が掘削場所の埋設物について口頭で確認しただけで図面等による確認を怠ったこと。

対策

1. 塩素等毒性の強い物質の配管を損傷し、漏洩した場合は、まず退避し、流出が止まった後、危険性がないことを確認してから作業に入るべきものであること。
2. また、作業にあたっては、呼吸用保護具等を着用させる等安全対策を十分講ずること。
3. 構内の埋設物の現状については事前に的確な情報を元請負人は発注者側から得ておくこと。また、発注者は、施工業者と事前に掘削箇所の協議をするにあたって埋設物等についての過去の記録等を十分確認すること。
4. 塩素についての有害性等の知識を関係作業者に教育しておくこと。
5. 以上のように発注者、元請負人、下請負人の3者の間で作業方法や予想される危険とその対策について十分協議しておくこと。