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労働災害事例

不適切な呼吸用保護具の使用による二酸化塩素中毒

業種 電子機器用・通信機器用部品製造業
事業場規模
機械設備・有害物質の種類(起因物) 有害物
災害の種類(事故の型) 有害物等との接触
被害者数
死亡者数:− 休業者数:1人
不休者数:− 行方不明者数:−
発生要因(物)
発生要因(人)
発生要因(管理)

No.871

発生状況

本災害は、電気器具用のプリント配線盤を製造する工場の、多層プリント配線盤の製造ラインの黒化処理と呼ばれる工程を担当する部署で発生した。
 機械等に組み込まれるプリント配線盤は、複数を重ねて多層化して多層プリント配線盤とすることで高密度化、省スペース性を実現しているが、黒化処理とは、そのプリント配線盤の表面の銅箔を酸化処理により粗化し、絶縁体となる樹脂との密着性を高めるための処理である。
 この工場では、黒化処理の工程には、脱脂、水洗、酸洗等を行うために、合計17の液槽が設置されており、ほとんどの作業がロボットの導入により自動化されているが、液槽内の水や処理液の温度や濃度の管理が人間の手により行われていた。
 災害発生当日は月曜日であり、前日に工場が稼働していなかったことから、液槽内の処理液等を所定の温度である75度に上げるため、黒化処理担当の作業者は、その日の午前8時30分からボイラーにより液槽内の処理液を温める作業を開始した。
 黒化処理担当の作業者は、処理液が午前11時ごろに所定の温度に達したため黒化処理を開始したが、昼食後の午後1時ごろに装置を見回ったところ、亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等の溶液が入れられた液槽の液量が規定よりも少なくなっていることを発見し、液槽から液漏れが発生していると思い、補修を依頼するために設備管理担当者である被災者に連絡した。
 被災者は、連絡を受けて装置に近付いたところ、鼻に刺激を感じたため、以前に他の液槽の処理液の交換の際にこぼれて床に付着していた硫酸と、漏れ出した亜塩素酸ナトリウムとが反応して二酸化塩素が発生していると判断した。
 そこで、被災者は、他の者には装置に近付かないように指示した後、液漏れしている液槽の下をのぞき込み、液漏れ箇所を調査した。
 液漏れ箇所は、液槽をつなぐパイプの付け根付近であり、長さ約2cm程度の亀裂であることが判明したことから、被災者は、すぐに補修することとし、二酸化塩素の吸入を防ぐために使用する防毒マスクを取りに行った。
 この時、防毒マスクの保管場所にはハロゲンガス用の直結式小型吸収缶が付いたままの防毒マスクがあるだけで、通常用意されているはずの予備の新品の吸収缶がなかった。
 被災者は、亜塩素酸ナトリウムの納入業者から、亜塩素酸ナトリウムは酸と反応して二酸化塩素を発生させること、その際には送気マスク等の自給式呼吸用保護具を使用することを聞いていたが、低濃度の二酸化塩素にはハロゲンガス用の防毒マスクで対応できる旨のことも聞いていたことから、ハロゲンガス用の防毒マスクを用意していた。
 また、防毒マスクの管理については、1度使用した吸収缶は廃棄し、常に新品の吸収缶を使うことを決めていたが、新品の吸収缶がないこともあり、1度使用した吸収缶でも使用中に刺激等を感じるまでは使用できると思い、そのままその防毒マスクを着用することとした。
 被災者は、防毒マスクを着用して補修作業を行い、約2時間で補修を完了したが、その日、帰宅後にせき込みが始まり、息苦しくなったため、病院に行き診察を受けた。

原因

[1] 設備の破損により亜塩素酸ナトリウムを含む溶液が漏れて、以前から床に付着していた硫酸と反応して二酸化塩素が発生したこと。
[2] 刺激臭を感じていたにもかかわらず、有効な呼吸用保護具を着用しないまま、液漏れ箇所の確認作業を行ったこと。
[3] 呼吸用保護具の選択や保守管理が十分でなく、二酸化塩素に対して十分な除毒能力を有していない防毒マスクを着用して設備の補修作業を行ったこと。

対策

[1] 設備の破損事故等に対応する安全作業マニュアルを作成し、作業関係者に徹底すること。
[2] 二酸化塩素に対して有効な呼吸用保護具である送気マスクあるいは空気呼吸器等を備えること(呼吸用保護具の選択に際しては、事故等に発生が予想される有害物質の種類および当該物質の濃度に対して、作業者を保護できる十分な性能を有したものであること)。
 また、それらの呼吸用保護具の管理基準、使用基準を明確にするとともに、その基準に基づき、予備の部品等を備えること。
[3] 酸、その他の溶液等が床等に付着した際は速やかに除去すること。また、設備の破損等を防止するため、設備を構成する部品の劣化等について点検、補修等の基準を作成し、徹底すること。