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労働災害事例

防火用水槽清掃中に発生した硫化水素中毒

防火用水槽清掃中に発生した硫化水素中毒
業種 清掃・と畜業
事業場規模
機械設備・有害物質の種類(起因物) 有害物
災害の種類(事故の型) 有害物等との接触
被害者数
死亡者数:− 休業者数:1人
不休者数:− 行方不明者数:−
発生要因(物)
発生要因(人)
発生要因(管理)

No.679

発生状況

A社は水道貯水槽、消火用貯水槽等の清掃を業とする企業である。同社の作業者XとYは、災害発生当日、依頼先の事業場へ行き、防火用水槽の清掃を行うこととなった。
 清掃の対象となる防火用水槽は、深さ4m、縦2.5m、横4.5mの大きさで、上部には2カ所のマンホールを有するものであり、中には約37トン(水深3.3m)の排水がためられていた。なお、この排水はし尿の浄化処理に伴う排水である。
 XとYの両名は、上司の指示により可搬式排水ポンプ、掃除用具、送風機等を用意し、作業現場である工場に赴き、防火用水槽の清掃作業に取りかかった。
 まず、可搬式排水ポンプを水槽内に入れ、ポンプに接続されているホースを水槽上部のマンホールを利用して、水槽の外へ出し、近くの側溝に水槽からくみ上げた汚水を排出した。汚水の排出がほぼ終了するころ、水槽の底に沈殿していたヘドロ(汚物)が見え始めたので、送風機を使用して換気を行うこととし、水槽上部のもう一つのマンホールから直径30cm、長さ5mのフレキシブルダクトを入れ、換気を開始した。それから10分ほど経過した時、ダクトが送風機本体からはずれ水槽内に落下したため、Xはダクトを取り出そうと、マンホールからロープをたらし、ロープを伝って4m下の水槽の底部に降りたところ、水槽底部に倒れ込んでしまった。その後、Xは、駆けつけた救急隊により救助され、幸いにも一命を取りとめたものの、重体となった。
 なお、Xが倒れた原因は、水槽にためられていたし尿および底部に沈殿していたヘドロから発生した硫化水素を吸入したためである。

原因

[1] 酸素濃度および硫化水素濃度の測定(酸欠則第3条)
[2] 十分な換気(酸欠則第5条)
[3] 吸吸用保護具等の着用(酸欠則第5条の2)
[4] 作業を安全に遂行するための作業主任者の選任(酸欠則第11条)
[5] 作業従事者に対する硫化水素、酸素欠乏等に関する教育の実施(酸欠則第12条)
 等基本的に事項が履行されていないため、災害が発生したものである。
 なお、XとYの両名は、作業を開始してすぐに硫化水素特有の臭いである腐卵臭を感じていたものの、酸素欠乏危険場所、硫化水素等に関する教育を受けていなかったため、Xが無防備で水槽の内部に立ち入ったことを防ぎ得なかった。

対策

[1] 酸素欠乏等について十分な教育を行った者を作業に従事させること。
[2] 法令で定める技能講習を修了した者のうちから第二種酸素欠乏危険作業主任者を選任し、その者に作業指揮を行わせること
[3] 作業を開始する前に硫化水素および酸素の濃度を測定すること(災害発生事業場の株式会社Aでは濃度測定器を有しているが、被災者らにこれを携行させておらず、また測定器の取り扱いについても教育していなかった)
[4] 換気を十分に行うこと(酸欠則では少なくとも酸素濃度を18%以上、硫化水素濃度を10ppm以下に保つように換気するよう定めており、そのためには酸欠危険場所の構造に応じ、適切な換気設備を選定する必要がある)
[5] 作業内容に応じた作業標準を作成し、その周知徹底を図ること(A社では、作業者を酸素欠乏危険作業に従事させることが多いのにもかかわらず、災害を防止するために必要な作業方法等の検討がなされていなかった)
 等基本的な措置が講じられていれば、災害の発生を未然に防ぐことができるものである。